第一章 狂戦士 〜其の陸〜
須佐能袁は目を疑った。
(死んだ筈では…)
「久方ぶり…スサ」
フードを外したその顔は、四十年前紛れもなく目の前で死んだはずの帝の姉であり、須佐能袁が生涯唯一愛した女性月夜 隠し名は〈シャシ〉の姿をしていた。
(嘘だ、そんな筈はない!確かに俺の目の前で…)
(ま、まさか…もし、俺の考えが正しければ…いや、ありえない)
月夜が須佐能袁の方へ手を伸ばす。
「やっと…現世に戻ってこれた…会いたかったわ、スサ」
須佐能袁はこの状況を冷静に考える。
月夜の力は、天明の〈未来透過〉と二分する正反対の異能潜在能力を有する。
その能力とは、過去を観る能力〈過去視〉。触れるもの全ての過去を知ることのできる力である。
(シャナの未来透過は時が経つ事に先を視る力が進化している…もし、あの時点で…既にシャシの能力がシャナの想像を超える進化していたとしたら……観るだけの能力から………)
月夜が少し夜空を見上げながら話す。
「スサ、あの時確かに…我が弟、シャナに倒されたわ…」
月夜の顔が冷酷な表情に変わる。
「ふふ、今日はご挨拶に来ただけ。次会う時は須佐能袁…貴方とシャナ…いや天明の命をいただきに現れるわ」
そう告げると、月夜は須佐能袁の顔を見ないように背にした。
(…愛した貴方に……さよならを言いに…)
誰にも聴き取れないような声でそっと呟いた。
月夜は、ゆっくりと歩き出し影の中へ消えていく。
その中、月夜の目から一雫の光るものが見えたような気がした。
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須佐能袁は微動だにせず佇んでいた。
「居るんだろ、禍姫」
須佐能袁が声を発する。
「…はい、須佐能袁様」
禍姫が姿を現し、深々と頭を下げる。
「で、帝から何を言われた?…まっ、この状況もシャナの野郎は分かっていたんだろ?」
「…」
禍姫は須佐能袁の今の気持ちを察して何も言わない。
「お前が来ているという事は、陽炎と雫は無事なようだな。礼を言う。」
須佐能袁はとりあえず陽炎と雫が無事でホッととした。
「……ただ、月夜…魔導の入ったアイツはかなりやばい…」
(今対峙すれば、ギリ勝てただろう…しかし、力を解放すれば数㎞の範囲は塵と化してしまう。そうなれば陽炎や雫も巻き込んでしまう…月夜はそこまで計算して今現れ、戦線布告しにきたのか)
「だから何を言われたんだ?」
須佐能袁が禍姫に再度尋ねる。
「はい、帝の命により、帝都に戻るようお伝えしに参りました」
(…そうか。陽炎と会ったタイミングといい、月夜といい、十年を経てまた動き出すか…)
「承知した」
須佐能袁は決意した表情で静かに返事をした。
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雫を抱えたまま、陽炎は休みなく数㎞走っていた。
(…もう大丈夫だろう)
陽炎は走るのをやめ、歩き出す。
雫が目蓋に手をやりこする仕草をした。
雫が目覚めたようである。
立ち止まる陽炎。
「よう、目覚めたか?」
(なっ!何?、どうなってるの!?)
雫はよくわかっていない。
「あ、そっか(笑)説明してやるよ」
陽炎は雫の過去の話だけはせずに説明をした。
「心配するな、シンさんは柔ヤワじゃねーよ。あの人はつえーよ」
その言葉の後、心の中で言う。
(この世界にいる最強の剣使いの一人だからな…)
二人は歩き出す。
遥か先の東の大陸にあるマーベラスを目指して。
陽炎が須佐能袁に会うことにより、其々の運命という歯車が動き出す。
〜第一章 狂戦士〜 終




