表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神位の書  作者: KATSUMI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/67

第八章 思惑 〜其の玖〜


巨大な光の狼が機兵たちを飲み込み、そのまま演武場の分厚い壁ごと粉砕した。


爆煙が立ち込める中、ガシャン……と、最後の一体が崩れ落ちる音が響く。


静寂が戻った演武場。そこには、しっかりと手を繋ぎ、肩で息をしながらも真っ直ぐに帝を見据える、陽炎と雫の姿があった。


「……素晴らしいね」

パチ、パチ、と。

静寂を破ったのは、帝シャナの乾いた拍手だった。


「機兵による『再教育』は失敗。それどころか、彼女が自らの意志で、かつての守護職・弥勒の技を再現してみせた。……これはもう、ドヴォルグの『所有物』という主張には無理があるよねー」

シャナが冷ややかな視線を特使に向ける。特使は顔を真っ青にし、ガタガタと震えながら言葉を失っていた。


「さて……阿修羅、須佐能袁。十三人審議会の意見をまとめようか」

帝シャナの声が静まり返った演武場に響き渡ると、円卓の十三人が一斉に動き出した。


「採決を取るよ。ドヴォルグ王国の主張を退け、雫を『一個の生命体』として認めることに賛成する人は挙手を」

シャナの言葉が終わるか終わらないかのうちに、須佐能袁が真っ先に、そして力強く手を挙げた。続いて、腕を組み沈黙を守っていた阿修羅も、教え子たちの姿を誇るような鋭い眼光を湛えながら手を挙げる。


それを見た他の各国の重鎮たちも、顔を見合わせながら次々と手を挙げていった。陽炎と雫が見せたあの絆、そしてかつての英雄・弥勒の技の再現——それを否定することは、もはやこの世界の理そのものを否定することに等しかった。


「……決まりだね。全会一致。雫の所有権を主張するドヴォルグの請求は却下。彼女は大和国、延いては国際法において、自由な市民権を有する一人の人間であることをここに宣言するよ」


「……っ、やったな、雫!」

陽炎が隣の雫を振り返る。雫は瞳に涙を溜めながら、何度も、何度も頷いた。


しかし、その歓喜を切り裂くように、ドヴォルグ特使の絶叫が響き渡った。

「認めん……認めんぞ! こんなことが許されるはずがない! 『楽園』の計画を、たかが二人に壊されてたまるか!」


「……何!?」

外縁で見守っていたノヴァたちが即座に武器を構え、演武場へと飛び降りる。


特使は懐から不気味な形をした結晶を取り出し、それを床に叩きつけた。


パキィィィィィィィンッ!!


結晶が砕けると同時に、演武場の中央に、空間そのものが腐食したかのような「亀裂」が走った。そこから溢れ出したのは、禍々しい『楽園』の魔力。



——次の瞬間

陽炎、雫、演舞場に入ってきたノヴァ、蒼波、紫苑が異空間の亀裂にのみ込まれ閉じた。



須佐能袁が特使の胸ぐらを掴み問う。

「陽炎たちはどこに行ったー!!!」


(…!?)

特使の首の後ろに呪印が施されているのに気づいた。


「ケケケ……終わりだ。あの子たちは『楽園』の空間の中……。もう二度と、この世界の光を拝むことはない……!」

特使の男が白目を剥き、不気味な笑みを浮かべたままガクリと首を垂れた。

刻まれていた呪印やがて炭のように崩れ落ちていく。操り人形としての役目を終え、魂ごと焼き尽くされたのだ。


「貴様ぁッ!!」

須佐能袁の咆哮が演武場を震わせる。掴んでいた特使の残骸を叩きつけ、陽炎たちが消えた「空間の傷跡」へと手を伸ばすが、そこにはすでに虚無の冷気しか残っていない。


「……遅かったか」

阿修羅が鋭い足取りで歩み寄る。その表情は、いつもの冷徹さを通り越し、鬼気迫る静かな怒りに満ちていた。

「帝、これは宣戦布告と受け取っていいよな」


玉座から立ち上がったシャナもまた、先ほどまでの余裕を完全に消していた。

「……当たり前だ。私の目の前で、私の決断を汚したんだ。……大和国全軍に告ぐ。非常事態宣言。ターゲットは『楽園』。全次元観測網を最大出力で稼働させ、消えた五人の座標を叩き出せ!」

帝都もただ傍観するのではなく、雫の事件以来、この十年間手薬煉を引いて開発していたのだった。



円卓を囲んでいた各国代表たちは、あまりの事態に騒然となりながらも、世界の頂点に立つ三名の大天位のに気圧され、立ち尽くすことしかできなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


陽炎たちが目を開けた先は、色彩の欠落した不気味な異空間だった。


空には赤黒い渦が巻き、大地には無数の墓標のように結晶体が突き刺さっている。


「……雫。無事か? 他の連中は……」

陽炎が身を起こすと、すぐ近くでノヴァ、蒼波、紫苑も武器を手に立ち上がるところだった。


「……どうやら、全員まとめて強制転移させられたみたいね」


「……『楽園』の直轄領域テリトリーぽいな」

陽炎がアゾットを握り直し、周囲を警戒する。


そこは、帝や須佐能袁といった「規格外の強者」を物理的に隔離し、陽炎たちを確実に仕留めるために用意された殺戮の間であった。


地平線を埋め尽くすのは、おびただしい数のリビングデッドと、先ほど演武場で戦ったものを凌駕する性能を持つ機兵騎士の軍団。その数は数千、数万。


「……ふん、大層な歓迎ね。でも、数が多いだけなら修行の時と変わらないわ」

ノヴァが双剣を旋回させ、前方の敵を睨みつける。


だが、軍勢のさらに奥。

歪な玉座が並ぶ高台に、異様な覇気を纏った七つの影が並んでいた。


「……あいつらが」

蒼波の声が低く響く。


「ええ。楽園の運営を司る『九商』の商人たち。……残り七人、全員揃い踏みというわけね」





楽園の深淵。退路を断たれた五人の、本当の死闘が今、始まった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ