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神位の書  作者: KATSUMI


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第八章 思惑 〜其の伍〜


阿修羅の言葉と共に、潜空艦のハッチが開く。

そこには、重力の修行を終え、以前とは見違えるような覇気を纏ったノヴァ、蒼波、紫苑の三人が立っていた。


「待たせたわね。主役の準備は整ったかしら?」

ノヴァが不敵に笑い、双剣を腰に収める。


「ああ。……さあ、行こう。俺たちの戦場へ」

陽炎の言葉に、全員が力強く頷いた。



潜空艦は大和国を目指し、マーベラスの霊峰を飛び立つ。


雲海の先、中央大陸で待つのは、各国の権利者、影の騎士団、そして楽園の絶対君主マジェスタ。

世界の命運を決める『国家間円卓会議』の幕が、今、上がろうとしていた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「…どういうことだ?」

須佐能袁がシャナこと帝に問う。


「仕方ないでしょー。陽炎と雫の二人を思う気持ちは分かるけど、私たちは個人の感情を優先できない立場にあるんだよ。だから、阿修羅も直接には陽炎たちに関与してないじゃん。」

シャナがつまらなそうに答える。


今ここは、ウラノスにある最上階の帝の間である。

周りには見たことのないような絢爛豪華な調度品や家具が並び、装飾が施されたテーブルには、一流のパティシエが作ったお菓子が置かれていた。


「…そうだが。しかし、『楽園』の存在がまかり通るのはドヴォルグ内のみ。そのドヴォルグは楽園の手先に成り下がっていることは、明々白々だ」


「わかってるよ。でも楽園は表には出てきてないし、私たちにもしっぽは掴まれていない。いつもギリギリで逃げられるからねー。今回の要望書もドヴォルグの国王として提出されている」


「だから、あくまで『一国の王が、自国の反逆者と盗まれた国家資産の返還を求めている』という筋書きなの。帝としての私がそれを無視すれば、今度は他の国王や貴族たちから突っつかれちゃうんだよねー」

シャナは高級な銀食器を弄びながら、ため息混じりにマカロンを口に運んだ。その幼い外見とは裏腹に、彼女の瞳には大陸全土をチェス盤のように見渡す、冷徹な統治者の光が宿っている。


「……気に食わないな。法という名の鎖で、あの子たちの首を絞めようというわけか」

須佐能袁は苦々しく吐き捨てた。彼の背後には、かつて戦場を共にした阿修羅の顔が浮かぶ。彼女が直接動けない理由も、陽炎たちに地獄の修行を課した理由も、すべてはこの「法」という名の戦場で彼らが生き残るためだと理解していた。


「ま、期待はしてるんだよ? 陽炎たちが、そのガチガチの論理を力ずくでぶち壊してくれるのをさ」

シャナは悪戯っぽく笑い、窓の外に広がる雲海を見つめた。


「フゥー。シャナの言う通りだ。じゃー俺は行くわ」


「…面白くなるよー」

シャナがドアを開け出て行く時に小さく呟いた。



(大天位…剣使いの最高位。本来の力を使うと一国が消滅する力を有する。この力は国のバランスを維持するための抑止力であって、(シャナ)がつくった法では、決して全開放してはならない。許可が出るのは星団間の戦争時のみ…か)

須佐能袁は力をあっても使用することができないもどかしさを感じるのであった。


(シャナが俺を帝都に戻した理由は、十年ぶりに会いたかっただけと……俺を陽炎と雫から遠ざけたかった?阿修羅なら、自分を殺し世界の秩序を優先するため一線を超えることなく法を守る。しかし、俺は…)


(!)

長い廊下を歩いていた須佐能袁の足が止まる。

陽炎、月夜、楽園…推測ではあるが、一つの仮説が脳裏に浮かぶ。

(…まさか…)


須佐能袁は、早足でウラノスの長い廊下を後にしていった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


潜空艦が雲海を抜け、中央大陸の心臓部へと差し掛かる。

眼下に現れたのは、これまでの雪山や荒野とは一線を画す、圧倒的な文明の極致——帝都『大和やまと』だった。


「……すごい」

雫が窓に張り付き、思わず声を漏らす。


高層ビル群の間を縫うように空中回廊が走り、無数の飛行艇が整然と行き交っている。しかし、その美しさ以上に一行を圧倒したのは、都全体を覆う巨大な『結界の圧力』だった。


「気を引き締めろ。ここからは一歩でも手順を間違えれば、不法侵入者として撃墜される」

阿修羅が目を細めニャっと口角を上げる。


「入港許可証、認証。……誘導信号に従い、第一ドックへ向かいます」

操縦士が手際よく通信を処理していく。


潜空艦がゆっくりと高度を下げ、重厚な装甲に囲まれた軍用港へと着陸する。ハッチが開くと同時に、一行の目に飛び込んできたのは、大和国直属の近衛兵たちが隊長の阿修羅、副隊長復帰のノヴァ、蒼波に対する最敬礼であった。


近衛兵たちの中から小さな声が漏れる。

「…お帰りなさい、副隊長」

「ノヴァ様」

「蒼波様」

ノヴァと蒼波の顔が一瞬緩む。



しかし、その雰囲気は次の瞬間掻き消された。

奥から一人、退屈そうに爪を磨いている男の姿があった。


「やあ。待ってましたよ、皆さん」

ゼファーが、前回と同じ飄々とした笑みを浮かべて手を振っていた。

だが、その背後に控える兵たちの装備は、明らかに『歓迎』ではなく『連行』のためのものだ。


「……随分な出迎えだな。影の騎士団」

陽炎がタラップを降り、ゼファーの前に立つ。陽炎が放つ圧倒的な圧に、周囲の兵たちが思わず一歩後退した。


「ハハ、僕のせいじゃないですよ。君たちが到着した瞬間に、楽園の息がかかった連中が騒ぎ出しちゃって。……さあ、行きましょうか。帝と、そして世界の王たちが待ち構える『円卓ラウンドテーブル』へ」

ゼファーの案内で、阿修羅以外の一行は都の中枢、天空城『ウラノス』へと向かう。


そこは、個人の正義など塵に等しい、巨大な「利権」と「権力」が渦巻く奈落の入り口だった。

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