表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神位の書  作者: KATSUMI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/67

第八章 思惑 〜其の参〜


陽炎が辿り着いたのは、一面が赤く焼けた岩肌と、無数の剣が墓標のように突き刺さる断崖だった。


足元からは熱気が立ち昇り、空気そのものが肌を焼く。

……っ! 呼吸をするだけで肺が焼けるぞ……!」


「黙って立っていろ。ここからが本番だ」


いつの間にか背後にいた阿修羅が、無造作に印を組んだ。


ザザザザザッ!!


上空から降り注いだのは、火の粉ではなく《質量を持った炎の雨》。

そして、それと同時に地面に突き刺さっていた無数の刃が、生き物のように陽炎へと襲いかかった。


「狂戦士の力を使えば、その熱に飲まれて灰になる。使わなければ、かねの刃に切り刻まれる。……さあ、どうする? 陽炎。限界を超えて、肉体の密度を上げろ。火に焼かれ、金に叩かれ、真の『鋼』となれ!!」


陽炎の絶叫が、炎の赤に染まる空へと響き渡った。



一方、雫——

雫が降り立ったのは、深い霧に包まれた湖上の祭壇だった。


周囲には巨大な樹木が天を突き、その根は血管のように地を這い、常に脈動している。


「真言とは、言霊の更に深層部…万物を生み、万物を還すことのできる言葉。……雫、この森の『命の音』を聴きなさい」

阿修羅が雫に念波を送り指導する。


雫が集中しようとした瞬間、湖の水が巨大な大蛇となり、彼女を飲み込もうと迫る。

それだけではない。周囲の巨木がその枝を伸ばし、雫の陰陽力を吸い取ろうと絡みついてきた。


「焦ってはだめよ。ただ声を出すのではない、『心』で命の流れを制御するの。逆らえば飲み込まれ、止まれば枯れる。……貴女自身が、この森のこころになりなさい」


雫は目を閉じ、溢れ出しそうになる真言の奔流を、必死に胸の奥へと押し留めた。


自分を飲み込もうとする強大な属性の力を、破壊ではなく『調和』へと導くために。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


陽炎と雫がそれぞれの地獄を這いずり回っている頃、ノヴァ、蒼波、紫苑の三人もまた、阿修羅が用意した別の試練に直面していた。


それは属性の練成ではなく、己の「限界」を突きつけられる、より実戦的な修練。


そこは、常に地鳴りが響き、常軌を逸した「重力」が支配する荒野。


「くっ……! 何よこれ、体が地面に吸い付いて動けない……!」

ノヴァが膝をつき、必死に双剣を支えにして耐えています。彼女の自慢の瞬発力は、この高重力下では完全に封じられている。


紫苑もまた、村雨を握る手が震えていた。抜刀の一撃が生命線の彼にとって、腕を上げることすら困難なこの空間は、死刑宣告にも等しい。


その中心で最も過酷な負荷を受けていたのは、巨大な長刀——ガーディアンソードを背負う蒼波だった。

「くっ……流石にこの重さだ。長刀が、まるで山を背負っているようだな」

蒼波の足元の土が、その自重と重力によってミシミシと陥没していく。


「ハハハ、以前、陽炎が修練した時の倍の負荷だ。お前たちに課されるのは、円卓会議では今まで以上の数が迫ってくるだろう。その敵を蹴散らし、陽炎と雫の《道》をつくりだすことだ。そのためには疲れない『持久力』、そして一太刀で倒せる『力量』の底上げが必要だ」

阿修羅の冷徹な声が響くのと同時に、地面から巨大な土の人形ゴーレムが無数に這い出す。


「…蒼波、あんたはいけるんでしょう?」


「無茶を言うな、と言いたいところだが……」

蒼波は苦笑しながらも、その瞳には剣鬼の鋭さが宿っていた。彼は重心を極限まで低くし、全身のバネを凝縮させる。


「ノヴァ、紫苑! 抗うな。重力に逆らって跳ぼうとするから動けんのだ。重さを全て足の裏に集め、地面を『弾く』のではない。地面を『砕く』反動で動くんだ!」


蒼波の言葉に、紫苑の瞳が凍てつく。

(重さを反動に変える……。腕だけで振るのではない。この地を這う重力全てを、刀身に載せる……!)

紫苑が村雨を鞘に収め、重力に従うように深く、深く沈み込んだ。


次の瞬間。

キンッ!!


抜刀の衝撃波が、重力場を反動にし加速する。

重さを味方につけたその一撃は、通常の数倍の破壊力を伴い、正面のゴーレムを砂塵へと変えた。


「……なるほど。重いなら重いなりに、壊して進めばいいわけね!」

ノヴァもまた、双剣を逆手に持ち替えた。彼女は自らの関節をあえて外し、重力に振り回される遠心力を利用して、独楽こまのように高速回転を始める。

重力に押し潰される力を、そのまま《破壊の旋風》へと変換した。


蒼波が背中の大剣に手をかける。

引き抜かれたガーディアンソードが空気を切り裂く。ただそれだけの動作で、周囲の重力場が歪むほどの風圧が生じた。


「重いなら、その重さを全て『破壊』に転換すればいい。……守護の剣、その真髄を見せてやろう」

蒼波は襲い来るゴーレムを避けるどころか、一歩前へ踏み込んだ。重力に逆らうのではなく、重力に身を任せ、長刀の自重を極限まで加速させる。


【地殻砕き】

幅広の長刀が、縦一文字に振り下ろされた。


ドォォォォォォォンッ!!


衝撃波が大地を割り、一直線上にいたゴーレム五体が一瞬で粉塵と化した。重力という「枷」を、蒼波はその剛腕と長刀の質量で、逆に《絶対的な破壊エネルギー》へと変えてみせたのだ。



三人の剣士——。

ただ己の肉体と、磨き抜かれた剣技だけで、大地の束縛を暴力的なまでに突破していった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ