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神位の書  作者: KATSUMI


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第八章 思惑


北の大陸から東の大陸へ入る。あと数刻ほどでマーベラス国へ着こうとした時——


「ん?…な、何か向かってくる…人!?」

陽炎が突然声を出す。


「何を言ってるんだ?冗談はよせ。ここは空の上だぜ」

蒼波が笑いながら陽炎に言葉を返す。


ズザザザザザーッ


その人物は身一つでデッキに滑るように降り立ち止まった。何事もなかったように陽炎たちのいる中へ歩いて入ってきた。


全員、意味不明で理解不能な行動が目の前で起き、呆気にとらわれ、時間が止まったように動かない。


「こんにちは。僕は『影の騎士団』の一人、ゼファーです。」ニコッと笑顔をした。名はゼファー、飄々(ひょうひょう)とした出立ちをしており掴みどころのない印象を受ける男は、帝の命を受け、安易とこの数千メートル上空を飛行している潜空艦に来たという。


(影の騎士団…桁違いの化け物だらけの集まりだな)

陽炎たち全員が同じ考えをしていた。


「ハハハ、皆さんちょっと驚かせてしまいましたね。急いでいたもので、つい空路を選んでしまったんですよ」

ゼファーは、風に乱れた髪を無造作にかき上げながら、まるで近所の家を訪ねたかのような気軽さで言い放った。しかし、その足元——特殊な防護服も呪具も持たず、生身で数千メートルの高度を跳んできた事実は、『人は飛べない』という概念を根底から覆している。


「……冗談だろ」

陽炎がアゾットの柄に手をかけ、警戒を剥き出しにする。

「数千メートル上空の潜空艦に、身一つで『滑り込んできた』だと? あんた、人間か?」


「失礼だなぁ。ちゃんと心臓も動いてますよ。少し……人より速いだけです」

ゼファーはニコッと笑うが、その気配は陽炎の黄金の瞳をもってしても捉えきれないほどに薄い。


「……影の騎士団」

紫苑が村雨の鞘を握る手に力を込める。

みかど直属の暗殺・諜報部隊……。表舞台には決して姿を現さず、国家を揺るがす事変の裏で『掃除』を行うという、あの化け物集団ですか」


その言葉に、蒼波の顔からも笑みが消えた。

「帝の命だと? 悪いが、俺たちは今から隊長の阿修羅様のところへ戻る予定でね。お上の御用聞きをしている暇はないんだが」


「まあまあ、そう硬くならないでください。蒼波さん」

ゼファーはひょいと肩をすくめ、視線を一行の背後に隠れるように立っていた雫へと向けた。


「僕の任務は、そこのお嬢さん——雫さんと、そして陽炎君。お二人に帝からの招待状を届けることなんです」


「招待状?」

雫が不安げに陽炎の服の裾を握る。


「ええ。中央大陸の大和国にて行われる『国家間円卓会議』。世界中の権力者が一堂に会し、軍事・経済の均衡を話し合う会議です。そこで、皆さんにどうしても会いたいと言っている方がいましてね」


ゼファーの目が、一瞬だけ鋭く細められた。

「現国王に代わってから、今まで一度たりとも表舞台に現れたことがなかったドヴォルグ国王が、正式に帝へ要望書を出してきたんですよ。内容は『ドヴォルグを崩壊させたテロリストと、奪われた兵器の引き渡し』について」


「……なんだって!?」

ノヴァが双剣を抜き放ち、一歩前に出る。

「テロリストに兵器!? 好き勝手言ってくれるじゃない! 雫は人間よ、兵器なんかじゃないわ!」


「僕もそう思いますよ。だからこそ、帝は『中立』の立場を取ることにした。『楽園』がバックにいる事は非公式では分かっているんですが、『公式』ではないっていうのがミソです。だからこそ君たちを同じ場に呼び、白黒つけようというわけです」

ゼファーは懐から、金色の透かしが入った漆黒の封筒を取り出し、陽炎に向けて軽く放り投げた。陽炎がそれを反射的に受け取ると、封筒からは厳かな、そして圧倒的な威圧感を放つ呪力が漏れ出した。


「断れば、皆さんは指名手配。楽園だけでなく、世界中の軍隊が君たちを追いかけることになる。……賢明な判断を期待していますよ、陽炎君」

ゼファーは再びニコッと笑うと、後退しながらデッキの手すりに腰掛けた。


「じゃあ、大和国でお待ちしています。あ、言い忘れてましたが……」

彼は飛ぶ直前、陽炎の黄金の瞳をじっと見つめて付け加えた。


「今のままじゃ、『力』はあっても『身体』が耐えられない。…ですので、君主の影さえ踏めずに終わりますよ。頑張って修行してくださいね」

それだけ言い残すと、ゼファーの姿は陽炎たちの視界からかき消えた。文字通り、ゼファーとなって空へと溶けていったのだ。


あとに残されたのは、激しい風の音と、陽炎の手の中にある重苦しい招待状だけだった。

「……影の騎士団。とんでもない奴が出てきたわね」

ノヴァが苦々しく吐き捨てる。


陽炎は封筒を強く握りしめ、すぐ先に迫るマーベラス国の山並みを見つめた。

「上等だ。中立だろうが何だろうが、君主のツラを拝めるってんなら、大和国まで行ってやるよ」」


修行を終え、力を手に入れたはずの一行。しかし、世界の深淵は、彼らが想像していたよりも遥かに深く、そして鋭い牙を隠し持っていた。


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