第六章 北大陸 〜其の肆〜
崩壊しゆく酒場「錆びた歯車亭」。
天井から降り注ぐ氷の破片が、陽炎の放つ黄金の覇気に触れた瞬間、蒸発することすら許されず虚空へと消えていく。
「……化け物め。だが、その熱量ごと凍てつかせてくれるわ!」
カービルが激昂し、その細い指先を虚空へ突き出す。
【九界の凍土】!!
カービルの背後に浮かぶ十数体の呪術機兵が円陣を組み、その動力源である氷結晶を過負荷状態で暴走させた。酒場を中心に、半径数百メートルの全てを「絶対零度」へと引きずり込む極低温の波動が放たれる。
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「……な、何なの、この温度差は!?」
フィーネが背後を振り返り、戦慄する。
ダクトの入口は、の呪力によって青白い氷壁に閉ざされようとしていた。しかし、その氷を内側から強引に焼き破るような、強烈な「金色の光」が漏れ出している。
「止まらないで! 私たちがしなければ行けないことに、今は集中しましょう」
ノヴァが振り返らず、皆を鼓舞する。
「う、うん!わかった。」
フィーネが機械鎧の指で岩壁のレバーを弾く。
重厚な隔壁が閉まり、一行は完全に外部と遮断された。目の前には、僅かな光さえ届かない、轟々と熱風が吹き荒れる地獄のパイプラインが続いている。
「……今の陽炎さんは、私たちの想像を超える成長を遂げています。」
紫苑は一度だけ背後の壁に手を置き、祈るように呟くと、雫を庇いながら猛暑の闇へと足を踏み出した。
「まだアルツ側のパイプラインの蒸気熱はなんとか走り抜ければ耐えられるわ!問題はドヴォルグの中央都市に入ってからから数キロに渡って高熱で噴き出る蒸気よ」
フィーネの説明を聞きながら、全員が走り抜けていく。
「あと、もう少しで中央都市のパイプラインに繋がるわ。入口手前に制御盤がある筈だから急いで!」
「ん!?暗くてよくわからないが、何かいる!」
反乱兵の一人がノヴァの言葉で照明装置を奥へと向けた。
ギィギギギ
呪術機兵が三体、制御盤を守護しているようである。
呪術機兵の赤外線センサーが一行を捉える。その時パイプより蒸気が放出され、視界は真っ白な蒸気に覆われた。
「……来ます。熱気に紛れて、鋼の足音が」
紫苑が太刀の柄に手をかけ、目を細めた。
蒸気の向こう側から現れたのは、全身が赤熱した旧型の『呪術機兵:プロトタイプ』。
最新鋭のような氷の刃はないが、その巨大な蒸気ハンマーからは、触れるもの全てを粉砕し、蒸発させるほどの熱圧が放たれている。
「ふん、鈍重そうなデクの坊ね。ここで足止めを食らうわけにはいかないのよ!」
ノヴァが双剣を逆手に持ち、熱風を切り裂いて地を蹴る。
狭い足場を縦横無尽に駆け巡り、2体の呪術機兵の関節部分を正確に斬りつける。機兵がハンマーを振り下ろすより早く、その背後へ回り込み、動力部分を一突きし動きを止めていく。
最後の一体が雫に向かってハンマーを振いながら迫ってくる。
紫苑が素早く雫の前に回り込み蒸気の奔流を、清冽な闘気で一刀両断。熱気を「斬る」ことで、一時的な安全圏を作り出しながら、ハンマーを振う騎兵の懐へ村雨の一閃を喰らわし、動きを停止させた。
「追ってが来る前に早くパイプラインの動力の停止を!」
フィーネを蒸気から守りながらノヴァがいう。
フィーネが熱せられた制御盤の前に飛び込み、機械鎧(義手)の指先から細い有線端子をスロットへ叩き込む。火花が散り、コンソールに古びたドヴォルグ語のログが高速で流れる。
首から下げているペンダントを開け、暗号が呪印された結晶を呪印回路へセットする。
フィーネの額から汗が滴り、鉄板に落ちては一瞬で蒸発していきます。彼女が義手を通じてシステムに干渉すると、パイプラインの至る所から「ゴォォォォ!」という、断末魔のような蒸気の噴出音が響き渡り出した。
「さあー忌々しい蒸気が止まるよー!!今からは再稼働するまでの時間勝負になるわよ!…次はゲートを——」
「ノヴァさん、来ます! 一体ではありません……この振動、上からも!」
紫苑が鋭く叫び、天井の巨大な排気ダクトを見上げる。上から呪術機兵が次々と降りてきている。
「チッ、しつこいわね! フィーネ、まだ終わらないの!?」
ノヴァが双剣を交差させ、飛来する機体を見事に切り落としていきます。
「あと少し……! これで、中央セクターへのゲートが開く!!」
「走って!! !」
蒸気のパイプラインが繋がり、反乱軍のメンバーが次々にゲートへ飛び込んでいく。
「早く!!」
フィーネの叫びと共に、巨大な鋼鉄のゲートが轟音を立てて降下を始める。
ノヴァは最後に飛び降りてきた機兵の頭部を蹴り飛ばし、紫苑と共に雫を抱えてゲートの隙間へと滑り込んだ。
ガォォォォォンッ!!
背後でゲートが完全に閉じ、機兵たちの追撃を遮断した。
同時に、あれほど吹き荒れていた灼熱の蒸気が嘘のように止み、代わりに耳が痛くなるほどの「静寂」が一行を包み込む。
「……ここは、もう中央管理区域ね」
フィーネが荒い息を吐きながら立ち上がる。
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