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神位の書  作者: KATSUMI


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第四章 阿修羅

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


(フフ…あれから私も少しは強くなったと思ってたんだけど…昔も今も全く変わらない)

あの頃よりもさらに色濃く闘気を纏い、目の前に立っている。


「ふん……。あの時の小娘が…時は流れたものだな」

クラトスが《黒い大鎌》を肩に担ぎ直し、一歩前へ出る。


「……陽炎と言ったか。須佐能袁様が目をかけたというその力、偽物ならばここで叩き壊し、その娘を預かる」

その言葉が出た瞬間、陽炎の瞳が「紅」色へ光を放ち始める。


「……雫を連れて行く、だと?」

陽炎の声が低く、獣の唸りのように響く。


「何が目的だ……その鎌ごと、ぶち壊してやるッ!!」

陽炎が地面を爆砕させ、一瞬でクラトスの懐へ飛び込んだと同時に短剣を逆手に、すべての魔力を一点に集中させた超高速の一撃。


しかし、クラトスは微動だにせず、ただ静かに鎌の柄を握る手を動かす。


――ギィィィィンッ!!


金属音ではない、空間そのものが軋むような衝撃音がアトアの港に響き渡った。


「……ほう、今のを弾くか。少しは『怪物』の端くれに指がかかっているようだな」

クラトスは、陽炎の渾身の一撃を、鎌の石突(いしづき)だけで軽々と受け止めていた。


「陽炎ッ!!」

ノヴァが空中で陽炎を受け止め、着地します。しかし、その衝撃を殺しきれず、二人は石畳を数メートル滑ってようやく止まる。


クラトスは担いでいた大鎌をゆっくりと下ろし、今度はその「刃」をこちらへ向けた。


「さて……挨拶は終わりだ。ここからは『影の騎士団』としての仕事(査定)をさせてもらう」

彼が放つ闘気が物理的な重圧となり、アトアの港全体を押し潰す。


ノヴァは冷や汗を流しながら、かつて自分を圧倒したあの頃の恐怖――そして、今の自分でも届かない【怪物】の領域を再認識する。


「ノヴァ、お前ならわかるはずだ。俺がこの鎌を一振りすれば、この港ごと小僧を細切れにできる」


陽炎は立ち上がり、口元の血を拭った。

彼の瞳は、理性の「紅」から黒い炎が瞳孔を浸食し、その髪が逆立つ。


「……雫は、渡さねぇ。……その鎧ごと、塵にしてやる……!!」

陽炎の全身から放たれる気が、「深紅」へと変色し、周囲の空間が熱を帯びて陽炎のように揺らぎ始める。


その時、ずっと沈黙を守っていた雫が、二人の間に割って入ろうと駆け出した。

彼女は声にならない声で叫び、陽炎の腕を必死に掴もうとする。


(……だめ。戦っちゃ……だめ……!!)

雫の目に涙が溜まり、彼女の首元から「痣」が浮き上がり、クラトスの黒い大鎌に呼応するように色濃くなっていく。


「……ッ、雫!? 下がってろって言ってるだろ!!」

陽炎の「深紅」の気が、雫が触れた瞬間に一瞬だけ揺らぐ。しかし、彼の意思とは裏腹に、暴走し始めた狂戦士の力の片鱗は行き場を失い、陽炎のように空気を焼き続けている。


雫は必死に首を振り、涙をこぼしながら陽炎の腕を離さなかった。

彼女の首元の痣の出現は「悲哀」に似た冷たさを帯びていた。


「これは……」

不動の怪物、クラトスの声に初めて「困惑」の色が混じる。

彼が構えていた黒い大鎌こと《戦鎌(ウォーサイス)・クロノス》が、まるで主の意志を無視するかのようにキィィィィン……と甲高い共鳴音を上げ、先程までの重圧が収まっていく。


(……クラトスの戦鎌(クロノス)が、雫の痣に反応している?)

ノヴァは驚愕のあまり、構えていた双剣をわずかに下ろした。


(……面白い。ただの『器』だと思っていたが、この『クロノス』がこれほどまでに共鳴するとは…)

「小娘、貴様の中に眠っているのは、一つでないということか」


クラトスが戦鎌を力任せに振り下ろし、強制的に共鳴を断ち切ろうとしたその時。


「――そこまでだ、クラトス」

アトアの港に、これまでの誰よりも力強く、重厚な声が響き渡った。

それは声というより、「世界のことわり」そのものが発せられたような、絶対的な威圧感。


陽炎の深紅のオーラが霧散し、クラトスの闘気すらも一瞬で霧のように消し飛ばされた。


三人とクラトスの間に、一人の女が立っていた。

服装は質素な平民服。髪は1本の三つ編みに束ねた赤毛で小柄な女性。しかし、その女が背負っている《存在感》の前に、影の騎士団の一人であるクラトスですら、わずかに後退を余儀なくされた。


「……阿修羅……様?」

ノヴァが呆然と呟く。

そこにいたのは、かつて大和国・最強の近衛隊隊長にして世界最強の三人衆の一人。

阿修羅は振り返ることなく、ただ静かに陽炎と雫を見つめた。


「……陽炎。大きくなったな。それに雫……よく、ここまで耐えてきた、えらいぞ」

阿修羅が軽く手をかざすと、雫の首元の痣が、まるで魔法が解けたかのように静かに収まっていく。


続いてノヴァに目を向け少し微笑んだ。


「お帰り」

阿修羅は優しく声を静かにかける。






「…ただいま戻りました」



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