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神位の書  作者: KATSUMI


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第二章 魔獣 〜其の伍〜


激しい土煙が収まり、森に静寂が戻る。



「……はぁ、はぁ……ハハハ。楽勝ー」

地龍の巨体の上に、陽炎が力なく大の字に寝転がる。

瞳の紅が引き、元の色に戻っていく。


陽炎は笑顔だが、寝ている時点で言葉では強がっているが疲れている事が伺える。


「……全く、無茶苦茶な戦い方ね」

背後から、コツコツと甲冑の音が近づいてくる。

ノヴァだ。彼女も肩を激しく上下させ、手にした双剣を甲冑の中へ仕まいながら歩いてきた。


彼女は陽炎の前に立つと、少しの間、無言で彼を見下ろした。



そして――。

カラン、と白銀のマスクを地面に落とした。


露わになったのは、十三年前と変わらぬ、しかし大人の憂いを帯びた美しい顔。


彼女は優しく、そして少しだけ困ったように微笑み、陽炎の頭をわしわしと乱暴に撫でた。

「大きくなったわね……。あんなに可愛かった陽炎ちゃんが、まさか私の窮地を救うなんて」


「……よせよ、ノヴァさん。もう子供じゃねーよ」

照れくさそうに顔を背ける陽炎。


だが、その口元はどこか嬉しそうに緩んでいた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



ーノヴァの記憶の回想。



ノヴァが二年間、陽炎を預かり人らしく育てる教育係と同時に剣術、体術を教える先生でもあった。


言葉では簡単に二年間預かると言ったが、正直ノヴァはどうしたものか…年齢はまだ18歳。精神面でも勿論、剣術のみを生き甲斐に人生を捧げて生きている者に取って子供との接し方が分かるまでもなく当初は失敗の連続だった。


当時のノヴァは、帝都でも将来を嘱望される若きエリート剣士。彼女の頭にあるのは、常に「いかに速く、鋭く斬るか」のみであったノヴァにとって、3歳の陽炎を預かるという任務は、どんな強敵との戦いよりも困難な修行だった。


例えば…

• 食事の失敗: 栄養を重視するあまり、味気ない軍用携帯食のようなスープを作り、陽炎に不思議そうな顔をされる。


• 寝かしつけの迷走: 子守唄を知らず、代わりに「近衛隊の軍歌」を凛々しく歌い上げ、逆に陽炎をパッチリと目覚めさせてしまう。


• 掃除の徹底: 部屋に少しでも埃があれば「戦場なら足元を掬われるわよ!」と3歳の子供に説教し、自分で気づいて落ち込む。




また、先生と育ての母としての葛藤もあった。

彼女は当初、陽炎を「狂戦士の因子を持つ生徒」として扱おうとした。しかし、共に過ごすうちに、その頑なな心に変化が訪れ始めたことも思い出される。


「いい、陽炎。剣はこう構えるの。……あ、違うわ、そんなに力んじゃダメ。……うう、どうしてそんなに柔らかいのよ、あなたの体は」


小さな手を握り、型を教えるたびに伝わってくる子供の体温。それは、冷たい鉄の剣ばかりを握ってきたノヴァの掌にとって、あまりにも異質で、そして眩しいものだった。


そして絆…

ある夜、知熱を出した陽炎が、うわ言で「……のゔぁ、せんせ……」と彼女の服の裾を掴んだ時。


(私には、この子の『命』を守る責任がある。それは、敵を斬ることよりも、ずっとずっと重いことなんだ)


その夜、彼女は一睡もせず、陽炎の手を握り続けました。18歳の少女が、「誰かのために生きる」という本当の意味を知った瞬間だった。




ーそんな二年間は過ぎていく。

三歳から五歳になった陽炎は成長はしたが、まだまだ子供である。


しかし、今日から帝都の特務研究所にて陽炎の全ては引き継がれる。


部屋には、陽炎とノヴァ以外に陽炎の後ろに特務班の騎士が2名、ノヴァの後ろに須佐能袁と阿修羅が静かに立っていた。



幼き陽炎が、ノヴァに見せたくないのだろう。下を向いて我慢出来ずに泣きだす。


泣き過ぎて、引き攣りながら必死でノヴァに伝える。

「…ノヴァ!…………ありがとう、お、お…が…あさん」



ノヴァに電撃のような衝撃が走る。

(い、痛い…何?心が痛い)

初めての感情。


引き裂かれる思い。


平然を装っていたノヴァのブルーの瞳から、一粒…二粒………止めどもなく何かが溢れてくる。

(皆から冷酷にて戦闘狂の白銀の処刑執行官(シルバーファトゥス)と恐れられた私の瞳から…熱いものを感じる…)


ノヴァの顔がグシャグシャになり、思わず手で覆い隠す。


時間になり、陽炎を連れて行こうとする特務班の騎士の動きに、須佐能袁と阿修羅が首を横に振り静止させる。



ノヴァは陽炎を強く抱きしめた。





阿修羅は静かに思う。

(…ノヴァの弱点は不感であり、今回の事を通してより強くなるだろう…)


 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「さぁ、戻ろう!!」

陽炎が元気な声を出す。


フフ…

少しだけノヴァが微笑む。





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