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白黒出版・白版~本が売れない時代だから出版を考える~  作者: 伊阪証


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『回復の泉』のレビュー

https://kakuyomu.jp/works/2912051598743782837


『回復の泉』の強みは、精神疾患を抱えた主人公を被害者として美化せず、自分が他人を傷つけた記憶を中心へ置いた点にある。じゅんくんを嗤い、ゆーちゃんを「友達ではない」と拒み、日野さんを別の男性と重ねて傷つけた事実は、病気による免罪へ回収されない。人と繋がりたい一方で、傷つけられる前に相手を拒み、その反応から距離を測ろうとする矛盾も一貫している。主人公の醜さを消さず、それでも人生が続いてしまうところには私小説としての切実さがある。

ただし、その心理は場面から読ませるより、独白で理由を説明する方へ傾いている。「友達ではない」と告げた直後に、主人公にとって友達とは時間をかけてなるものだと解説してしまうため、拒絶の裏にある恐怖や自己防衛を読者が観察する余地が少ない。本来は、言った後で相手の顔を見られない、謝れば関係が始まってしまうためグラスへ逃げる、相手が引いたことに安堵してから自分の安堵へ嫌悪を覚える、といった身体と判断の連続によって示すべきである。

周囲の人物も、主人公が傷つけて後悔するための記憶に留まりやすい。じゅんくん、ゆーちゃん、日野さんが何を望み、主人公の言葉をどう受け取り、自分の判断でどの距離を選んだのかが薄い。特にゆーちゃんは外見こそ具体的だが、内面や生活はほとんど見えず、「主人公は彼女を何も知らなかった」という結論を成立させるための存在になっている。他者にも選択と反応を持たせれば、主人公一人の反省録から、複数の人間が互いを見誤った物語へ変わる。

本作の着地は、過去の加害が消えず、相手から許されなくても、その後の生活を続けることはできるというものである。主人公が結婚し、娘を持ち、主治医との関係を続け、薬が減るまで安定した現在には、露悪だけで終わらない救いがある。ダーツバーも万能の治療施設ではなく、主人公が一時的に救われながら、自分で人間関係を壊した場所として残っているため、「病院は無力で、夜の店だけが人を救う」という単純な医療否定にはなっていない。

しかし、回復は物語の中で起きるのではなく、数年後の結果として報告される。夫や娘や主治医が主人公の何を変えたのか、以前なら壊していた関係を今回はどう守ったのか、症状が悪化した際に誰へ助けを求めたのかが場面になっていない。そのため、若い頃の主人公と現在の主人公の違いを、読者は行動から確かめられない。回復へ至る選択と代償を省略したまま幸福な現在へ移るため、作品全体は「回復の物語」というより、「回復後の主人公が過去を振り返る告白」に近くなっている。

回想も数が増えるほど理解が深まる構造にはなっていない。最初は相手が悪かったと思い、次には病気のせいだったと逃げ、最後に自分が相手を傷つけて関係を支配しようとしていたと認めるのであれば、回想ごとに主人公の認識が進む。現状では早い段階から後悔という結論へ到達しているため、その後の回想が同じ罪悪感を反復し、物語の進行を止めやすい。

最大の欠点は、題名にも置かれた「回復の泉」とダーツバーが、作品固有の仕組みとして働いていないことである。

修正では、ダーツを説明のための象徴にせず、主人公へ誤った判断をさせる道具として使う。若い主人公が苛立ちのまま力任せに投げ、偶然ブルへ入れたことで「正しい投げ方など要らない」と思い込む。その直後、人間関係でも同じように、相手の事情を考えず正しさだけを投げつけ、ゆーちゃんを傷つける。成功した一投が誤った自己肯定を生み、その誤解が次の会話を壊すのであれば、ダーツは場面を動かす。

ダーツバーであってダーツだけしか扱わないならそれに意味はあるのか、ダーツバーならビリヤード等も置いてくれている可能性が高い、だからそのビリヤードの反射や衝突を見てまた自分はやり直せる、衝突はしたけどまだ立て直せる、そういう演出の作り方がメインに据えたダーツバーで展開出来ていとなると、必要性というものをあまり感じない。それならバーカウンターでスマホゲーをしながら会話している、とかで良くなってしまうのだ。

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