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白黒出版・白版~本が売れない時代だから出版を考える~  作者: 伊阪証


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『宿り木の雨宿り』のレビュー

https://kakuyomu.jp/works/16818622177661885569

『ヤドリギの雨宿り』は、入口の見せ方は良い。粘液を伴う雨、人間の植物化、恋人を撃った警官、恋人に似たクロロノイドの少女という材料は、読者が状況をすぐ掴める。ホラーとしても、雨に触れることへの嫌悪感、屋内へ追い込まれる閉塞感、元恋人と似た怪物を殺せない不安があり、題材の引きは十分にある。

ただし、文章が良い材料を処理しきれているかは別である。概要上の流れを見る限り、出来事の説明は追いやすいが、植物化した人間をどう見るかという迷いが早く処理されすぎている。特にジュニファーを撃つ場面は、主人公の罪悪感を作るための重要場面なのに、殺すまでの渋り、観察、救助の試み、隔離の失敗が足りない。ここが薄いと、読者はデビットの苦しみより先に「なぜそんなに早く殺すのか」と引っかかる。平和な場所で生きた警察官が保身の為に即座に殺せるのかとなる。

作品の骨格は分かりやすい。雨で日常が壊れ、主人公が恋人を失い、恋人に似たロゼッタと出会い、研究所へ向かい、元凶を倒して雨を止める。ハリウッド映画のように一本の筋で進むため、読者が迷うことは少ない。デビットとロゼッタの関係も、殺した恋人と殺せない怪物という対比があるので、話の中心に置く材料としては良い。

しかし、作品としては悪い部分が目立つ。ジュニファーが「主人公に罪悪感を与えるために処分された存在」に見える。恋人を撃った過去が重い出来事であるなら、殺すまでの過程も重くなければならない。数日間の変異で、しかも病のように苦しんでいる相手を、平和な町の警官がすぐ殺すのは納得しにくい。悲劇にしたいなら、助けようとして、失敗して、それでも殺すしかない状況まで追い込む必要がある。そこがないまま進むと、デビットは傷を背負った男ではなく、非常時に恋人を怪物認定して即殺した男になる。保身の為に恋人をぶっ殺せるのだ。軍隊上がりだろうか、いや、寧ろ軍隊上がりの方がやらないまであるが。

最大の問題は、クロロノイドへの変異の意図が弱いことだ。植物の怪物を出しているのに、植物である意味が物語へ十分に入っていない。ユーカリやパイン、特にカリフォルニアや西部の山岳地帯を連想させるような、周囲を燃やして生存圏を作る攻撃的な植物を使うなら、土地も思想も自然に絞れる。そういう植物を元にしたクロロノイドなら、主人公も読者も「これは人間と融和する存在ではなく、周囲を焼いて更新する危険な生命だ」と理解できる。

ところが、作中のクロロノイドは、植物というより普通の変異モンスターに近い。なんか知らないが速く動く。蔦で絡め取る恐怖も薄い。根を張る、成長する、覆う、枯れる、剪定される、時間をかけて移動するという植物らしい性質が、主人公の後悔や物語の進行に結びついていない。どっちかと言えばピッコロ大魔王である。

ここが非常にもったいない。植物設定を使うなら、移動の遅さこそ感動と後悔の材料になる。たとえばボスを倒すのに数か月かかり、戻った時に、ジュニファーが遅い身体でデビットの場所へ向かっていた痕跡に気付く。あるいは序盤で数年かけて世話をしているうち、彼女がほんの少しずつ動いていて、自分の所を目指していると察する。それなら、デビットが戦わなければならない理由が「世界を救う」ではなく、「置き去りにてしまったから、ケリをつける」になる。設定次第で殺す殺されるよりも辛いドラマなんて簡単に作れるものなのだ。

殺して、掃除して、はい終了が役目なら別に恋人である必要性は無かったし殺すことへの重さは見ず知らずの罪の無い他人の方が痛むだろう。モブにすれば先のシナリオも両立できる。恋人を植物化させるという感動の下地を用意しておきながら、その植物化を人間ドラマへ使わず、序盤の傷として捨てている。これは残酷だから悪いのではなく、素材を上手く使えていないと感じてしまう。

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