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第七話 冒険者少女ハジメ、お土産を拾う


 

 足元、直径1メートルほどの魔法陣から、ゆっくり光が引いていく。

 目を開けると二人は薄暗い洞窟にいた。

 

 迷宮探索初日。

 

 今日から冒険が始まる。

 相棒はいつもの通り真っ黒なレザー尽くし。

 ギルドからもらった祝い金は、クラウディオがソロバンを叩きながら全てハジメの防具に注ぎ込んだ。

 麻製のシャツとズボンを着て、その上からレザーアーマーを装着している。

 腕甲と脛当てまで買うお金はなかった。

 着付けが難しかったが今日はクラウディオがやってくれた。

 

 周りを見渡すと、そこにはなだらかな岩肌がずっと奥まで広がっていた。

 小学生の遠足で行った鍾乳洞みたいだ。

 ひんやり冷たい空気が足元に流れている。


「ハジメさん、武器を出しましょう」

 

 ぼーっとしているとクラウディオが前に出て警戒を促した。

 

「魔法陣の近くはセーフゾーンと呼ばれています。

 魔物は入ってこれないそうですが、念のためです。

 気をつけていきましょう」

 

 背中越しにおじさんの横顔が見える。

 

「あっ、ありがとう。よく知ってんね」


 褒められたクラウディオは恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「知識だけはあるんです。ハジメさんも少しずつ覚えていきましょうね」

「うん! 二人とも知ってた方が良いもんね。じゃあ気をつけて行こう」


 少しずつ洞窟を進んでいると、道の先でモンスターを見つけることがあった。

 スライム。

 コウモリ。

 角兎。

 この1階層で出てくるのはどうやらこの三種類だけらしい。

 クラウディオは全て戦闘を避けた。

 モンスターが群れていたかららしい。


 見上げるほど大きなおじさんとテクテク歩いていると、なんだか手に持った槍がおもちゃのような気がしてきた。

 自分はそんなにか弱く見えるのかな。

 

「アレくらいなら槍がなくても倒せるよ私。中学で空手黒帯取ったんだから」


 歩きながら前蹴りを繰り出すと、遅れてきたズボンの裾がパンッと鳴った。

 門下生たちの鳩尾を何度も抉ってきた得意技だ。

 年下でゲロを吐かせてない奴は一人もいない。

 クラウディオは嫌味なく素直に頷いた。

 

「おっしゃる通りハジメさんなら問題はないです。

 でもまずはスライム一匹を狙いましょう。

 何事もはじめが肝心です」

 

 はじめが肝心か。空手の先生も同じこと言ってたな、押忍!

 次の角を曲がると、道の先にふるふると震えるスライムが見えた。

 一匹しかいない。

 クラウディオがハジメの視線を受けて頷いた。


「ど、どうするんだったっけ……」

「やることは一つだけですよ。

 ほら――きほんの『き』!です」

「ま、前で定めて後ろで突く!」

「はい、頑張ってください」


 ズボンの裾で手汗を拭う。

 

 ――行ってきます!

 

 地面を蹴り出す。

 槍を強く握り込むと穂先の金色のルーンが輝いて、体にキラキラと金色の粒子が降りかかる。

 おおっ!?

 体が軽い。自分の体じゃないみたい。

 つんのめりそうになる体を立て直す。

 気づけばもう、スライムは目の前だった。

 

「核を狙ってください!」

「押忍!」


 腰をしっかり落として、前の手で方向を定めて、後ろの手で強く押し出す。

 腰を回して体重を乗せると槍はまっすぐに突き出されていく。

 目に力を入れると敵の動きも自分の動きもゆっくりに見える。

 穂先は狙い通り、スライムの体内に漂う赤い核の中心を貫いていた。

 半透明のゲル状の体が硬化していき、ひび割れて灰になった。

 

 地面に小さな水晶のようなものが残る。

 

「素晴らしい手際でした。初めてでスライムを一撃とは見事なものです!」

「そ、そう? へへ!」

 

 追いついたクラウディオが水晶を摘んで拾い上げてハジメに差し出した。

 

「これが魔石と言います。

 モンスターを倒すと落としますので基本的には回収しましょう。ギルドが買い取ってくれます」

 

 透かしてみると中でひび割れた筋が美しく反射している。

 玄関に置いてある水晶みたいだ。

 母は天然石が好きで、家には原石やらパワーストーンがちょこちょこある。

 胸がキュッと締まった。

 

 ――帰りたいな。

 

 俯きかけた時、横からクラウディオが相槌を打った。

 

「そうだっ。綺麗なのが見つかったらお母様へのお土産にしましょう。きっと喜んでくださいます」

「……っ! うん!」


 思わず歯を見せて笑うと、クラウディオも嬉しそうに微笑んだ。

 ひとりぼっちじゃないだけで、人は元気が出る。

 自分は人には恵まれている。

 二人はお互い笑い合った。

 ハジメはクラウディオの迷宮講義を聞きながら洞窟の奥へと向かった。




読んでいただきありがとうございます。

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土曜日定期更新です。

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