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第十一話 ハジメ、カウンターで謝る



 二人でギルドの買い取り受付に座ると、やってきたのはヒルダだった。

 昨日変な感じで別れたところだ。

 ハジメは様子を伺いながら、インベントリから成果物を取り出してカウンターに並べていく。

 

 微小魔石32個、小魔石7個、中魔石1個、スライムコア7個、コウモリの牙4個、ウサギの尻尾2個。

 すまし顔のフリをしながら、お相手さんの様子を伺う。

 初めてなりに二人で頑張った結果だ。

 またなにか言われたら、たまったもんじゃない。

 

 だがヒルダはカウンターいっぱいのアイテムには目もくれず、こちらと隣のクラウディオの様子をじっと観察していた。


「な、なあに?」

「二人ともお怪我は?」

「……大丈夫」

「なによりでございます。初探索は大成功ですね」

「……」

「それでは鑑定させていただきます」


 ヒルダの声色は一定のクールな感じだったが、自分たちの無事を素直に喜ぶ柔らかさが伝わってきた。

 ……なんだよ、そんな感じで来られたら、困るよ。

 太ももの上に作った握り拳をじっと見つめる。

 

 母は自分が試合で勝とうが負けようがどうでもいい人だった。

 ただ怪我をしたか、してないか、それだけを気にしていた。

 口を尖らせていると、隣の大男が手を当てながら耳打ちをした。


「……いい人ですよ!」


 ……なんだよわかってるよ、もう!

 グッと押し戻すと、なんの抵抗もなく巨体が元の場所に戻る。

 こっちが駄々をこねることを見透かしていたようだった。

 なんだか悔しくなって、カウンターの下でレザーの上から太ももをつねると、隣の大男がピクリと体を揺らし、眉をひそめた。


「なにやってるんですか、子供じゃないんだから」

「しーらないっ」

 

 小声でごちゃごちゃやっているこちらをよそに、ヒルダが摘み上げた中魔石を見て感嘆の声をあげた。

 

「ふむ、初日にゲートキーパーの討伐。

 初めての探索でこんなに成果が上げられるなんてすごいです」

「……まあね」

「才能ありますよハジメさん」

「……そうかなあ!」


 なんだ……わかってんじゃん。

 ヒルダに思うところはあったが、これだけ褒められてしまうと、怒りっぱなしでいるのもなんだか座りが悪い。

 まあいいや、クラウディオさんのアピールをしっかりしておこう。

 こっちは実際に一緒に探索してたくさん助けてもらったのだ。

 

 ハジメは指を折りながらヒルダに熱弁した。

 武器の強化! 的確な指示! 薬の作成!

 唾を飛ばしながらクラウディオのサポートの力を語ると、ヒルダは穏やかに頷いた。


「素晴らしい使い魔さんですね」

「な、なによ……そうなのよヒルダさん!」


 急に物分かりがいいじゃんか。

 昨日は揉めちゃったけど、わかってくれたんなら、意固地になるのもなあ。

 クラウディオは彼女がいい人だと言った。

 自分が信頼している人が信じてる人なら、私も信じてもいいのかな。


「槍も出たんだよ、見て。すごくない?」

「むっ、立派な槍ですね。ちょっと失礼します」

 

 モノクルを当てて槍を品定めするヒルダ。

 

「……エンチャントなし、鉄製の素朴な拵えですが耐久力はかなりのものです。ただし柄も鉄製で重量がある。

 持ってみてください」


 ハジメは差し出された槍を受け取って立ち上がり、軽く構えてみた。

 確かに今の槍よりずっと重い。

 強く握って脇を締めても、穂先がいまいち安定しない。

 なるほど、今の自分には扱えないかもしれない。


「……そんな顔をする必要はありません。レベルが上がればすぐに扱えるようになります」

「……あっはは、顔に出てた? 本当は明日からでも使いたいよ」


 今日初めてクラウディオと力を合わせて頑張ったが、思いの外順調に攻略ができた。

 良い仲間に加えて、良い武器が手に入ったなら、当然もっと順調に攻略を進めることができるに違いない。

 最短、最速、全力で頑張ったら、もしかしたら入社式にだって間に合うんじゃないのだろうか。

 ……甘い夢を見過ぎかな。

 ハジメが苦笑いを浮かべた瞬間、隣の相棒が胸の前で拳を握って、珍しく大きな声を出した。

 まるで「そんな顔するな」と言わんばかりのタイミングだった。

 

「わ、私がなんとかします!」

「ん?」


 振り返るとクラウディオが口を真一文字にして槍を見つめていた。


「ルーンでなんとかできると思います」

「えっホント!?」


 姿勢良く椅子に腰掛けたヒルダが、後ろに立っている大男を見上げる。

 

「クラウディオさん、大丈夫ですか?失敗したら武器がどうなるか……」


 その目の鋭さは、クラウディオの気の逸りを咎めるようでもあった。


「……はい、文字入れに失敗したら武器は壊れてしまいます」

「……そうなの?」

「あなたの筋力さえ上がって普通に扱えるようになれば、エンチャントなしでもいい槍ですよ。

 そのまま持っておくのがベターな選択肢、とも言えます」


 ――えっ、壊れちゃうの、これ。

 

 不安に思って後ろに目をやると、クラウディオは冷や汗をかいてハジメ以上に顔を強張らせていた。

 さっきまでかっこいい顔してたのに、なんだそれ。

 

「ふふっ」


 思わず吹き出すと、ヒルダがカウンターを指で叩いた。

 

「笑い事じゃないですよ」

「……そ、そうですよハジメさん」

「いいじゃん失敗しても、笑い話にしたらいい」

「これ一本売ったら二、三年は暮らせますけど、それでも笑えるんですか?」

「……うっ!?」


 そっ、そんなに? って、ダメだ!

 二、三年もここで暮らす気はない。

 そして可愛い使い魔の成長のチャンスを奪うつもりもない。

 背中に冷や汗が伝うが、わたしは必死に顔を取り繕って、ニヤリと笑った。

 

「なるほど、じゃあもっと笑えるね」


 ヒルダの細い眉が右側だけ上がった。

 わたしは普通に喋っているだけで、喧嘩を売っていると思われることがある。

 きっと生意気そうな顔してんだろうな。

 

「わ、わたくしは、笑える自信はございません」


 やる気を出したところに水をぶっかけられた相棒は、また下を俯いてしまった。

 うーん、負けん気はヒカルの方があるね。

 立ち上がってクラウディオの後ろに回り、肩を思いっきり掴む。


「いたたっ!?」

「失敗したらもう一回(リロール)だよクラウディオさん」

「……し、失敗してもいいんですか?」

「いいわけないじゃん! でも失敗したらリロールだ。

 わたしの知ってる人生はそんな感じだよ」

「……はい!」


 席に戻ると、並べたドロップ品の代わりに金貨の入った袋が置かれていた。

 仕事が早い。

 ……あれ?

 その隣に中魔石が一個、そのまま置かれている。


「550ゴールドになります。中魔石はいつでも買取できますから、別口で持っておいた方が良いでしょう」


 リスク分散ってやつか。

 わざわざご丁寧にありがたいね。

 中魔石を摘み上げて天井の照明の光に透かすと、濃いエメラルドグリーンの中のインクルージョンに乱反射して、カウンターの上で緑色の影が踊った。

 こんな綺麗な石、お目にかかったことないよ。


「石、お母様が好きでしたよね。お土産にどうですか?」

「――へっ?」

「なんですか? 初日に仰ってたじゃないですか」


 ポカンとして顔を上げると、ヒルダは怪訝そうな顔をしていた。

 あんな世間話をちゃんと聞いてくれてたんだ。

 ギルドの職員スペースの壁に飾ってある額縁が目に入る。


 ◎冒険者第一!

 

 二重丸まで描いてあって、看板に偽り無しか。

 隣から肘で小突かれた。

 ……わかってます! わたし子どもじゃないんだから!


「ありがとうございます。

 あ、あと――いろいろ生意気言ってすみませんでした」


 ヒルダはこちらを見ずに帰還届の書類をトントンした。

 

「いい槍です。どうするのであれ、大事になさってください」

「はい!」


 頭を下げるわたしの隣でクラウディオさんはニコニコ笑っていた。

 

 探索初日は大成功ってことでいいだろう。

 わたしたちはギルドの外の屋台でスペアリブを袋いっぱい買って、広場の噴水の縁に座って二人でかぶりついた。

 

 

読んでいただきありがとうございます。

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土曜日定期更新です。

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