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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第3章 DAY3

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第49話 あんた誰

「オルカ、まずは広場のライズのところに顔を出しに行こう」


「わかった」


「荷物が負担に感じなくなるぐらい軽く身体強化を掛け続けながら行こう。魔力をできるだけ効率よく使う訓練になる。余分に掛け過ぎると魔力を使い過ぎていざという時に魔力枯渇で困ることになるからな。常に自分の魔力量と使っている量を把握するんだ」


 真剣な表情で俺の話しを聞いている。


「魔力量がだいたい半分ぐらいになったら必ず報告すること。パーティー内では自分だけではなく、メンバーの位置や魔力量も常に把握するんだ。武器は自分だけじゃない。仲間は自分の武器にも防具にもなる。パーティーという生き物の一部になるんだ。いま俺とオルカはふたりで一匹の獣なんだよ」


 最後の言葉を聞いてオルカの透き通る青灰色(クリアブルーグレー)の瞳が輝き出した。具体的にイメージできたかな? やっぱオルカには理屈じゃないよな。


「最初は意識しないと出来ないことも繰り返していれば無意識にできるようになる。だから今出来なくてもいい。出来なければ出来るようになればいい。それだけだ」


 歩き出して数歩でやらなければいけないことが何個も出てきた。どうだオルカ? やること知らないことがたくさんあって楽しいか?


 俺が五年間掛けて感性だけでやってきたことに前世記憶が流れ込んできて理屈が追いついた気がする。ソロでやるつもりだったけどこうなった以上はオルカには悪いけどガンガン行こうぜでやらせてもらうよ。足踏みしてると悪意だらけのこの世界にあっという間に飲み込まれてしまいそうだから。


 円形広場までは近いから準備運動にはちょうどいいだろう。俺もオルカもフードを目深(まぶか)に被ってデカいバックパックを(かつ)いでる。ありふれた格好だが、モノの程度の良さと身体の小ささがアンバランスだ。あえて言うなら壁の中の金持ちの子供の新人冒険者だ。スラムには不釣り合いだ。絡まれるかもなぁ。でもそれが嫌だからってわざわざ小汚い恰好するのもムカつくしな。いっそのこと顔を売るっていうのもありかな。見掛けても手を出したらマズイっていうふうになりゃいいのかもしれんな。っていうのは昨日までの俺なら出来たんだけどな。オルカがまだひとりじゃ対処しきれんか。


 広場に到着した。身体強化は荷物の分しか掛けていないので速度は普通に歩くのと変わらないから本当にのんびり散歩していたようなものだ。オルカを見ると平気そうな顔をしているので問題なさそうだ。屋台の並びは昨日と変わりはないみたいだ。場所が指定されているのか、それともなんとなく固定さているのかまではまだわからない。一番の串肉が見える位置にはアーノルドがいる。ということはライズは休憩中かもう一軒の方を面倒見ているのか。今は朝のラッシュも終わったし、昼までも時間はあるしで一番暇そうな時間帯だ。客もいない。アーノルドをさりげなく見ながら歩いていたらフイと顔を横に振った。どうやら昨日の茂みの中に行けということらしい。なかなかわかっているじゃないかアーノルド君。


 今さらオルカと別行動を取っても見た目でペアだってバレバレだろうから二人並んだまま歩いて周りの視線が切れたと思った瞬間に茂みの中に入る。オルカは俺の動きをトレースしていたらしく事もなげに着いてきた。やべー。育成ゲーム楽しい。生徒が優秀だとなお楽しい! 『赤竜(せきりゅう)(つめ)』の時はクソゲー過ぎた! 今度は神ゲーだぜ! 初期キャラガチャ成功の気分!


 茂みに入った瞬間から姿勢を低くして周りから見えないように移動。すぐにライズが見つかった。脅かさないようにわざと少し音を立てながら近づいて腰を下す。オルカは俺の斜め後ろに陣取ったらしい。視界を確保しつつの攻撃位置だ。これはたぶんもう無意識でやってるレベルだ。


「お、ロック。来たのか」


 うしろのオルカを気にしてるな。


「ああ、ちょっと様子を見に来た。どんな感じだ」


「問題ないよ。もう一軒の方も順調だ」


 この場にはライズとルシアだけしかいない。ルシアが眉間にシワを寄せて俺の後ろを見ている。


「……オルカ?」


 俺がフードを外しながらオルカを振り返るとオルカもフードを外した。その瞬間、ルシアとライズが息を呑んだのがはっきりわかった。そりゃ驚くよな。


「あーそうだ、その報告もあって顔を出したんだ。オルカは俺とパーティーを組むことになったんだ。よろしくな」


 オルカは無言だ。まぁ、特に言うこともないわな。


「え、ちょ、え?」


 うーむ。ライズよ、それは昨日の俺の時にも見たぞ。


「まぁ、あれだ。風呂に入れたらこうなった」


「こうなった」


 オルカが無表情に頷きながら言った。オルカは今朝、髪を切ったあとに鏡を見た。もちろん生まれて初めてだ。それでもどれだけ自分が変わったかぐらいはわかる。その証拠に(うなが)されるまで鏡の前を動こうとしなかったからな。


 目の前の少年少女はショックを受けていた。俺の時は他人という意識が強かったから受け入れるまでも早かっただろうが、自分たちの知っている人物だと受け入れられるまで大変だろうな。特に同性のルシアは受け止め切れるか難しいところだ。


「オルカ……どうして」


 ルシアが思わずつぶやいた。オルカにとっては何を言われているのかわからないだろうな。別に元からパーティーでもパートナーでもないのだから。ルシアがどういう意味で言ったのかは俺も正確にはわからない。「どうしてそんなに綺麗に」「どうして俺とパーティーを」「昨日別れてからの短い時間になにが」女の子って一晩で変わるよね。知らんけど。まぁ、変わり過ぎてしまった俺は何も言うまい。


 振り返ると口角を上げてうれしそうに微笑むオルカがいた。オルカに悪気はない。ただ、俺がオルカをパーティーパートナーにしたという事実を自分の知り合いに告げたことで、より強く現状を実感できたうれしさが出ただけだ。いわゆる「こいつ俺の彼女」って紹介してもらってうれしい的なソレだ。


「ルシア。オルカがいなくなって不便もあるかもしれない。時間が合えばまた一緒に何かやろう。『銀狼(ぎんろう)の牙』も上に行きたいなら訓練ぐらい付き合うから。ただな、俺もオルカも冒険者ギルドとは繋がってないんだ。俺に至ってはばっちり商業ギルドと繋がってる。その辺は注意してくれ。」


 まだ混乱から立ち直っていないがパーティーリーダーの責務としてライズはなんとか話しを聞いて理解しようとしていた。目線はほとんどオルカだったけど。身近な女の子が一晩でこんなんなったら何があったのか気になるよなー。わからんけどわかるよ。動揺と妄想が(はかど)り過ぎて俺たちの装備までまだ目線が降りてきてないもんな。


「ライズ、昨日のことでもう少し話しをしておこう。ゲットーファミリーのことだ」


 ゲットーファミリーの名前を聞いてビクっと反応した。さすがにルシアも俺を見た。


「あいつらがいなくなったっていうのが組織内でいつ共有されるかわからん。今日からはもう注意しろ。あの手の輩は手あたり次第なにをするかわからん。とにかく単独行動は絶対にするな。ルシア、わかっているか? トイレに行くのもひとりでは行くなということだぞ。もし狙われたとしたらその時にやられる」


 なぜ私が? という顔だ。


「もちろんお前たちが狙われるかはわからん。でも奴らも誰をどうすればいいかわからないんだ。だから、奴らが動き出したと思ったら街を出て採取に行くぐらいでもいい。常に二人、できれば三人以上で行動しろ。常に周りに気を配れ。おかしいと感じたら逃げろ。ライズ、わかるか?」


 犯罪組織のボスの息子だ。相当ヤバいぞ。ま、原因は俺なんだけど。


「ライズ、親がいるんだよな? いざとなったらフロンティアに連れて行くぐらいのことも考えておけ。先の先を見るのはリーダーの役目だ。当面は普段と同じ行動を心掛けろ。ユルゲンの死体はぜったいに出てこないからな。まぁどこかで晒すのも手だけど……組織の連中は街をひっくり返すぐらいのことはやるかもしれん」


「ロック、あいつらのこと知ってんのか?」


「まったく知らん。だけどあの手の馬鹿のやることなんか決まってるだろ。奴らの基準であやしいっていうヤツを手当たり次第捕まえて何をするかぐらい想像できるだろ」


「そう、だな」


「俺の力が必要な時は『夕暮れの泉亭』の支配人のユセフっておっさんに伝言を入れろ。運が良ければ俺まで伝わる」


「わかった」


「じゃあ引き続き頼む。明日の午前中にまたここで会おう。冒険者が多い朝の早い時間帯は外せ。こんなところに隠れているのが探知されると余計に目立つ」


 ライズがうなずいた。


「ルシア、また今度話そう」


 そうして広場をあとにした。オルカのヤンデレまではシナリオ的にあるよなーと思いつつ、最初はルシアの方を注意していたのだが、まさかオルカとの繋がりがそんなに希薄だとは思わなかった。ルシアも独りだったら昨日の俺ならオルカ共々引き込んだかもしれんな。さて、甘いことばっかり考えてると足元(すく)われるぞ。


 とりあえずスラムから出る。ここはなにをするにも人目がありすぎる。オルカに身体強化を使って歩くよう命じる。今度はさっきよりも少し強度を上げて移動速度も上げる。


 スラムを出て荒野を行く。昨日森まで歩いたルートだ。ウサギを見掛けるがスルーする。森との中間地点あたりの林で小休止。適度に木があって視界が切れていていい感じだ。今は誰もいない。


「オルカ、ちょっとこっちに来てくれ。そこにバックパックは降ろしていい。ここは窪地になっていて誰からも見つからないから話しをするのにちょうどいい」


 開けた荒野の木に囲まれた窪地に降りる。危険だ。匂いで寄ってくる獣がいても目視できないから接近に気付けない。オルカもそこに気付いて少し不安そうだ。


「オルカ、俺には()()()()から大丈夫だ。安心しろ。そのことも今から話す」


 ただの小休止ではないことに気付いたオルカに少し緊張が見える。


「オルカ、昨日話した俺とパーティーを組んだら守らなければならないことっていうのは覚えてる?」


「うん。秘密は守る」


「そうだ。さすがだね。大事なことをちゃんと覚えてる。えらいぞ」


 年上のおねえちゃんの頭を撫でる。昨日と違って右手はもうなにも言ってこない。


 さて、告白タイムだ。うまくいくかな?


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