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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第6章 DAY6~7

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第106話 敵対的乗っ取り

 あの日以来、俺の事を初見で『男』と言った奴はいないんだけどな。こいつは危険だ。オーサーと似たような気配がする。殺しておくか。


「ちょっと待て。俺が何かしくじったんだな? しゃべりすぎたか。まだ殺すなよ」


 やっぱりそうだな。さて。この危険を唯一回避出来る方法というと。


「奴隷誓約が出来る奴はどいつだ。ここにそいつがいなかったらお前を殺す」


 これはマジ。こいつ、危なくてこのままだともう使えないや。


「ヤリスだ! 今、目の前にいるそいつだ!」


 なるほど。目の前で誰だか知らん奴が今まさに何かの約定書(やくじょうしょ)に血印を押す寸前だ。これ、契約じゃなくて奴隷誓約の方だったのかな。


「ヤリス。俺が主人であいつと奴隷誓約だ。俺の名前はロックだ。死ぬ気で急いで誓約書を作れ。俺が遅いと思った瞬間にお前らを殺す」


 組員も、並んでいるスラムの住民も誰も動かない。事ここに至って俺を子供だとか女の子だといってナメてかかる奴もいない。ここいらの住民は命のやり取りには慣れている。死体は見慣れているので今さらそんなものには動じない。ただ、起きている事象だけが理解の範疇外(はんちゅうがい)のはずだが、今のところ上手くいってる。


 ヤリスは状況を把握したようで、急いで誓約書の作成に入った。突然オルカがカウンターを抜けて割れた窓から外に飛び出して行った。裏から逃げ出そうとしている組員を始末しに行ったみたいだ。男の悲鳴が聞こえる。俺は度胸の据わったおっさんに目線をくれる。


「お前、名前は」


「ベルガー」


「お前はここの何だ」


「俺はゲットーファミリーのボス、バイラルの右腕だ」


 実質的に組織を回してたって感じかなぁ。


「金庫はどこにある」


 『走査(スイープ)』で場所は把握済みだが念のため確認だ。


 ベルガーがゆっくりと右手の人差し指を斜め上に向ける。


「二階のこのあたりだ」


 まぁ、開かないって言ってるし嘘を言う意味もないよな。高さ、奥行一メートル半の岩石を、金庫の真下から上に向かって落とす。重さは十トン弱。それが時速三百キロで天井にぶつかる。


 ドガァツ!


 突然何もない空間に現れた岩石が天井を突き破って金庫を底から突き上げる寸前に『収納』。巨岩が無くなったので金庫が一階に落ちて来た。


 ドッガァン!


 下にいた何人かが潰れたけど既に死んでいるやつだったからどうでもいいだろう。金庫の中身だけを全部収納する。その瞬間、金庫の中に入っていたものが全て理解できた。金目のものはまあわかる。宝石の価値はわからん。魔石の価値もわからん。字が読めないので書類の束がどれだけの価値があるのかもわからん。結局現金以外資産価値がわからないんだよなぁ。


「ベルガー、契約書とか誓約書の(たぐい)を全部持って来させろ。建物内にいる奴、余った組員は全員外に並ばせろ。並んだ奴はとりあえず殺さないでやる。並ばなかった奴は俺に逆らう敵だ。全員殺す」


「お前ら! 聞いたな! 逃げたら死ぬぞ! 実際、今も外でバタバタ死んでるのはわかるな! ゆっくり外に出て座ってろ!」


 事務所内の生き残りはそんなに多くはない。


「ベルガー。この建物内に捕えている一般人がいれば奴隷も含めて全員、一旦ここに集めろ。ああ、何人かに命じて建物内の金目のものも全部持ってこさせろ」


 ベルガーは頷くと何人かを名指しで仕事を命じた。


 ヤリスが誓約書の用意が出来たことを告げる。


「キュロスさん、確認をお願いします」


 ようやく名前を呼ばれたキュロスが微笑みながら歩いてくる。ベルガーの顔が歪む。俺もカウンターの内側に入る。


「まさか女ひとりのためにここまでしたのか。手に入らなかったものを(あきら)めきれなかった未練の落とし前にしては高く付いたものだ」


 キュロスが奴隷誓約書を確認する。キュロスが識字に問題が無いのは確認済みだ。


「ロック、これはこいつらが普段から用意している一般的な奴隷誓約書よ。命令順守、自死不可(じしふか)、他の奴隷への手出し無用、意図的に主人の不利益になることをしない、だいたいそんなところね。特に問題はないわ」


「ヤリス、死なずに済んだな。キュロスさんの名前も主人の名前に付け足せ。それが出来たらベルガーに血印を押させろ。今からこの組織は俺のものだ。俺の組織の右腕はベルガー。お前じゃないキュロスさんだ」


 ヤリスは非常に優秀なようだ。毎日どれだけの誓約書、契約書を作っているのか知らないが、相当場慣れしている。ヤリスは奴隷商人(スレイブトレーダー)契約屋(コントラクター)も両方出来るらしい。各種約定書はひな形で用意されていて、主従の名前や付帯事項を付け足すだけで簡単に作成できるようなっている。


 書類はあっという間に出来上がってベルガーに先に血印を押させる。キュロスが押してから俺も押す。手持ちのポーションを開けてキュロスの指の傷を治す。こんなことにもったいないとキュロスが呆れる。


「キュロスさん、あなたに傷を残すなんてそんな恐ろしいことが私に出来るわけもありません」


 その会話を聞いてベルガーがまた苦い顔をしている。せいぜい俺のキュロスへの溺愛を目にして自分たちの間違いを悔いればいい。自分たち、というかキュロスにご執心だったのはザイツェフだけだったのかもしれんが。


 俺も自分の指を治してポーションを置く。ヤリスが血印の押された奴隷誓約書を置いて左手で触れる。右手を誓約書の上に(かざ)すようにして薄目で文字を追っているようだ。ほんのり血印が光る。ヤリスがキュロスに誓約書を渡す。確認したキュロスが俺に手渡す。丁寧に折りたたんで胸に入れるふりをして『収納』する。


 ベルガーを見ると左の首筋に奴隷紋が浮かんでいた。キュロスはベルガーを見下しながら自分の奴隷紋をトントンと叩いて見せた。だがベルガーは平然としていた。むしろホッとした表情だ。俺の殺意が消えたことがわかったってことだ。


「ベルガー。組の生き残り全員を俺とキュロスの奴隷にしろ。いま奴隷のキュロスが誰かに命じられてお前らがどうにかなったとしても俺は知らん。あきらめろ」


 そう言うとベルガーは頷いたがキュロスは笑っていた。


「ヤリス、キュロスさんの誓約書を出せ」


 ヤリスがベルガーを見る。俺が視線を移す前にベルガーがしゃべり始める。


「金庫の中だ。金庫に入ってない誓約書と契約書は今持って来させている」


 再びヤリスを見る。


「ヤリス、まずお前と俺たちの誓約書を作れ。外に並んでいるチンピラが見えるな? お前との誓約が成立したらあそこに並ぶ奴ら全員に奴隷誓約させる。主人は俺とキュロスさんだ」


 ベルガーが命じた連中が金目のものを次々に事務所に運び込んでいる。書類はベルガーの机に積まれている。どうでもいいが事務所内に血臭(けっしゅう)(こも)ってえらいことになってきた。


「ベルガー、あいつらの奴隷誓約を急がせろ。誓約が終わった奴から順次建物内の作業員を入れ替えて、まずはこの部屋の匂いの元を片付けさせろ」


 さあ、やっとここに来た本来の仕事の仕上げだ。


「キュロスさん、キュロスさんの戦闘奴隷契約書に書かれているご自分の名前の文字を教えてください」


 キュロスは優秀な冒険者らしく理由を聞かずにすぐにヤリスから紙とペンを借り受けて自分の名前を書いた。戦闘中なので時間の無駄は排除の即断即決だ。俺は書かれた文字を見ながら『出納』に収納している書類に検索を掛ける。検索した瞬間に発見。俺は自分の胸当ての内側に手を入れて契約書を取り出す。折り目の無い一枚の契約書だ。


 キュロス、ベルガー、ヤリスの目が見開かれる。ベルガーとヤリスは口も開いている。このタイミングで不自然な場所から不自然な状態で取り出すならそいつの正体はひとつだ。


「キュロスさん、もう効力は切れているはずですけど。私からのささやかな贈り物です」


 そう言ってキュロスの戦闘奴隷契約書を手渡す。


「ロック、ありがとう。まったく、信じられないわね。きっとあなたは世界一の魔術師ね。聞いたわよ。あたしのいない時にあなたの誓約書、シェリル姐さんたちに燃やしてもらったんでしょ。だからこれはロックが燃やして」


 キュロスはそう言って俺に契約書を返す。俺は魔術師というよりはペテン師なんだけどなと思いながら契約書を受け取る。


「戦士キュロス。貴女の契約を解く栄誉を(たまわ)ることを誇りに思います」


 (うやうや)しく一礼し契約書を高く掲げ手を放す。


 ボウッ!


 燃えながら灰になって落ちてゆく契約書。床に落ちる時にはもう影も形もなくなっていた。


 それを見届けるとキュロスが俺をそっと抱きしめた。背の高いキュロスが戦闘用ブーツを履くと俺の頭はまだキュロスの胸に届くぐらいまでしかない。キュロスが戦闘用の革製のボディスーツなのが残念だ。数秒の後にキュロスが俺を離す。


 ヤリスが自分の奴隷誓約書をキュロスに渡す。文言を確認するキュロス。ふたたび血印を押してポーションで治す。


「これはたしかにポーションが必要みたいね」


 外に並び始める組員を見ながらキュロスがつぶやく。ヤリスが自分の奴隷誓約書に効力を通すと血印が光ってヤリスに奴隷紋が浮かんだ。誓約書を受け取って『収納』する。


 さて、当初予定とはだいぶ話が変わってきたぞ。

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