↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第1部 第1章『DAY1』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/246

第1話 輪廻異世界転生

 強烈な夢のせいで目が覚めた。


 夢の中でひとつは言った。

 ここにあるべき存在ではないのだと。


 そこは蛇口をひねるだけで清廉(せいれん)な水が飲めて、スイッチひとつで風呂が沸き、端末ひとつで世界中のあらゆる情報を得られるし、自動車や電車で簡単に素早く移動出来て、日々を安全に生命の危険を感じること無く平和に暮らすことが当たり前の世界だった。


 ああ、そうだ。


 自分はかつて日本人だった。思い返せば未練なんかこれっぽっちも感じないほどには不幸な人生だった。しかし、今この異世界で生きる身からすれば前世のなんと平和で幸福だったことか。


 もうひとつは言った。

 思うがままに()すべきことを()せと。


 目が覚めたのはとても家とは呼べないほどボロい掘立小屋(ほったてごや)(わら)の寝床の上だ。ガラスどころか木製の扉さえ無い切り()いた明り取りの枠から差し込むのは、白と青ふたつの月が(はな)(まばゆ)いばかりの月光だ。


 俺は一回死んでいる。

 前世の名前は鍵屋(かぎや)禄郎(ろくろう)


 死因は三十を回ったところでの病死だ。病気は不可抗力だからしょうがない。俺はあきらめのいい人間だったからそのことについて特に思うことはない。仕事がつまらんとか、忙し過ぎだろうとか、人間関係が煩わしいとか、女関係が枯れてたとか、そのせいで趣味にハマり過ぎてたろうとか、どうでもいい。すべては終わったことだし未練も無い。


 問題はそのあとのことだ。


 覚えているのは真っ白い空間。

 どこまでも白い。


 狭いようでもあり広いようでもあり、地に足が着いているようでもあり空中に浮かんでいるようでもあった。


 そこにいる大勢のモノたちは皆黙って並んでいる、あるいは群れているようだった。順番を待っているようでもあり、先を争っているようでもあった。


 いつの間にかそいつらが徐々に減っていってる。


 そして思った。

 これ、選別しているよな? と。


 疑問が生まれた。


 何が何を何のために選んでるんだ?

 

 俺の人生とはお前の気まぐれの産物か何かだったのか? そもそもの話、生まれ変わって何になるんだ? ここからまたガチャかよ。生まれた人間が幸せになる確率って何パーセントなんですかねぇ? 辛い思いをさせるためにまた生まれるのか? お前、俺に何させたいんだよ。お前を(あが)めて、産んでくれてありがとうって言えば満足するのかよ? 


 偉そうに! 何様のつもりだ!


 神様


 とでも言ってくれればよかったのだが、そこからは急激に周りのモノがいなくなり目の前に穴が開いていて、もうそこ以外どこにも行けなくなった俺はそこに飛び込まされた。


 他に選択肢はなかった。


 従順な犬になれない俺はその世界では不要とばかりに捨てられたのだ。そいつは言った。そこで自分自身の力で好きに生きればいいと。神の定めに従う気がないのなら自分の力だけで生き延びてみせろと。ただし、お前を歓迎するものはいない。神無き世界なのだから。


 ここがどこで自分が誰かはわかっている。

 ガレリア大陸の覇者、ロガリウス帝国。


 その西部辺境地域を任されるバーランド辺境伯の直轄領で、魔獣や魔物が蔓延(はびこ)る大森林『黒の森』の防衛を支える(かなめ)となる大辺境都市『グランデール』


 中心の居城の周りをぐるぐると何重にも囲む防壁の一番外側の防壁。その防壁の外側に無秩序に広がりまくった貧民街(スラム)でこそこそと這い回るゴミ虫冒険者パーティー『赤竜(せきりゅう)(つめ)』。俺は、そんな超絶ダッセー名前の暴力組織に買われ、安宿の外にある奴隷専用の掘立て小屋の中でその他大勢の奴隷たちと一緒に寝床の(わら)の上で横になる灰まみれ(アッシュ)と呼ばれる奴隷小僧、満十歳だ。理解できなきゃ何度も読んで。


 ハッピーバースデイトゥミー。


 この世界では満十歳になった瞬間にスキルを授かることがあるという。


 昨日までの自分には無かったものが今、(おのれ)の中に確かに存在していることをはっきりと感じる。スキルを授かったことにより、今からちょうど十年前の今日、この瞬間に生を受けたということ。そして自分がかつて日本人だったということを知った。


 パニックになって叫んでもおかしくない状況。

 しかし、そうはしない。目が覚めた時の姿勢のまま身じろぎもせず奥歯を噛み締めてふたつの月を(にら)む。


 お前の思う通りになるなんて嫌だと言ったら世界から捨てられて異世界転生させられた。こっちの支配者にはお前の来るところじゃないと言われた。


 五年前にあった戦争で、住んでいた村だか街が攻め込まれて孤児となった俺はそのまま奴隷商人に捕まって奴隷になった。自国民も敵国人も一緒くたに奴隷になる辺りが笑っちゃうほど野蛮人。


 子供の奴隷の使い道はそれはもう色々だ。言葉にするのも(はばか)れるような用途もある中、俺は比較的まともな『戦闘奴隷』に選ばれた。たぶん俺が黒目黒髪(くろめくろかみ)だったからキモがられて貞操が守られたんだろう。顔も知らない両親に感謝。戦争が終わってしまえば戦闘奴隷は冒険者用の奴隷になる。


 冒険者用の戦闘奴隷といえば先行斥候(アドバンススカウト)だ。パーティーの斥候(スカウト)のその更に先を行って魔獣をおびき寄せるのが先行斥候(アドバンススカウト)の役割だ。


 さすがにすぐに死んでしまうと買った人からクレームが来て困るので、身体強化を覚えさせて斥候職用の戦闘訓練をする。適性があった奴だけが生き延びるし値段も上がる。


 俺は適正アリだったらしい。


 が、しかし! 訓練キャンプが国境近くにあったせいで対戦国のアゼリア正教国の奴隷たちから黒目黒髪(くろめくろかみ)の俺への忌避(きひ)(ひど)く、これはもう一緒にやってられないからどっちか捨ててきなさいってことになって、社内会議で天秤に掛けられた結果、一瞬の後の満場一致で俺が身売りに出されたってわけ。


 本来なら満十歳でのスキル発現の有無、授かればそのスキルの内容を確認した後に売りに出されるはずだった。当たりスキルを持っていれば価値が何倍、何十倍にもなるのだからそりゃ普通は待つだろう。


 しかし、俺は十歳の誕生日を待つことなく、訓練期間わずか二年の七歳という幼さで、訓練も途中でスキル発現も未確認という不良品の格安商品の今後に期待のお楽しみガチャとして奴隷商人(スレイブトレーダー)に二足三文で下取られ、流れ流されここ大辺境都市グランデールの南スラムギルド所属の冒険者パーティー『赤竜(せきりゅう)(つめ)』にお買い求めいただいた。


 それから約三年。

 俺、生きてる。

 

 よし、ここまではいいな?

 俺の短い第二の人生の話だ。じっくり味わえ。


 あらためましてハッピーバースデイトゥミー。


 スキルをもらったから今日が満十歳の誕生日。


 十歳の誕生日にスキルを授かることがある……スキルならさっき俺も手に入れた。


 思い浮かぶスキル名は漢字(ふた)文字。


出納(すいとう)


 これ、この世界の奴らは誰も読めないだろうと困惑する。ってことは来たかこれ? チートか? チートだな? ざまあみろ神。お前の加護は無い方が俺の引きが強いじゃないかよ。


 そしてスキルがもうひとつ。

 ……読めない。 この世界? この国の文字なのか? いや、この世界の字なんか読めないし書けないから。今世ではそんな高等教育は受けていない。まあ、漢字だろうが現地公用語だろうがスキル名はどうでもいい。どんなスキルかは理解出来るから。


 要するに『魔力操作』ってことらしい。


 これで高度な魔法を使える可能性が高くなった! チートか? チートだな? お前の来るところじゃないとか言って突き放した神の親戚みたいな奴の恩恵無しの俺自身の引きの強さで勝ち組だ。ザマーミロ。


 だが、現段階では高位魔法は一切使えない。なんなら低位の生活魔法と呼ばれるものでも、今使えるのは(のど)(かわ)きを(いや)す程度の水魔法と火起こしのための着火程度の火魔法だけだ。


 他にも魔力を必要とするやつなら『身体強化』と『索敵』が使える。『魔力操作』で強化されるなら大歓迎だ。特に『索敵』は希少な能力だし今後も役立つだろう。


 スキルをふたつも習得できたことにガッツポーズと一緒に浮かれた奇声のひとつも上げたくなる衝動(しょうどう)を無理矢理押さえ込む。


 熱くなるな。 冷静になれ。


 『出納(すいとう)』は要するに物の出し入れだ。経理とかじゃないぞ? 物質の出し入れの話だなこれ。ちょっと使ってみたいが、今はバレないように自重(じちょう)すべきだ。


 『魔力操作』これは受動型(パッシブ)っぽいから現時点で既に俺の魔力はブーストされてるはずだ。試しに索敵を使ってみたところ使いやすさと探知距離と精度が上がっていることがわかった。


 ちなみに残念ながらこの世界にはレベルの概念は存在しない。この世界にあるのは、魔法と月の女神から授かるとか信じられているスキルだ。魔法と言っても前世の俺のイメージでいうとほとんど超能力だな。


 イメージしてそれに魔力を這わせるというか流すというか、それがうまく出来ると発動する。魔法の強さや持続時間は魔力の強さや魔力量によっても変わる。詠唱はイメージを補う技術として存在している。「火柱よ立ち昇れ!」とか言うとイメージが通りやすいですよ~みたいな。決めポーズとかでも良さそうだなこれ。だから、天才は誰かの魔法を見ただけで使えるし、才能なしや魔力量が少ない奴は弱かったり使えなかったりする。


 それともうひとつ。俺には無関係だから忘れがちなのが『呪い』だ。たぶん魔法かスキルの一種。


 で、この『呪い』を扱うので一番有名なのが『奴隷商人(スレイブトレーダー)』と『契約屋(コントラクター)』だ。俺の左の首筋から頬のあたりまでべったりついてるイレズミのような模様が『奴隷紋(どれいもん)』だ。場所が首だし鏡なんか無いから自分では見えないので自覚は無いが、ここにいる他の奴隷にはバッチリついてるから俺にもあるんだろう。こう、ぐい~っと左下の方を見ると鎖骨の上あたりに少し見えるから間違いなくあるはずだ。


 リーダーのドーガが誓約書(せいやくしょ)を持っているはずだ。そこに誓約の血印か何かがあるはずだ。だって誰も字なんか書けないし書いた覚えもないから。契約ではなく誓約。一方的な誓いによって成り立っているから約定書を破棄しない限り効果は消えないはずだ。条件を満たせば成就して自動で解除される契約とは違う。俺を奴隷解放するには誓約書を燃やすなり破るなりして破棄すればいいはずだ。


 手に入れたスキルがわかりやすく攻撃魔法のスキルとかじゃないし、武器系でもないからどうやって勝ち(すじ)を作ればいいか悩むなぁ。


 『出納(すいとう)』をどう攻撃に生かすか考えないとなければ。


 さて、そろそろ起きる時間だ。電気の無い世界の朝は早い。太陽が完全に顔を出す前から動き出す。起きてまずはトイレ(超絶汚い)行って、メシ(こんなもん食い物じゃねー!)食って、さぁ出発。


 ちなみに奴隷はメシ食うのは床の上ね。時々「ほれ」みたいな感じでパンとか肉とか落とされる。「食え」とか「食ってよし」みたいに命令されて初めてそれが食える。


 それを、さきほど、素面(しらふ)の私がやりました。


 うふ。うふふふふふふふふふふふふふ。


 それはそうと大問題なのはこの世界、このスラムの衛生観念。風呂なんて存在しない。布もないから清拭(せいしき)もない。井戸とか川とかの水場で掛け洗い。汚れが気になったらその辺で水魔法でパシャパシャして手でゴシゴシぐらい。それが普通だから誰も何も気にしてない。記憶を取り戻した今の俺にはもう無理。ごわごわした放浪ドレッドヘアが許せない!


 この一件だけでスラムのすべてを燃やし尽くしてやる! っていう気になる。早く自由の身になって風呂だ! 今の自分の状態が許せない!


 そんな俺が捕らえられている大辺境都市グランデールというのは、ロガリウス帝国という国の西の端にある西部辺境地域っていうところにある。大辺境都市グランデールはその辺境地域のさらに西の端っこ。ここからさらに西に行くと『最前線防衛都市フロンティア』ってのがある。


 大辺境都市グランデールと最前線都市フロンティアの間にも森がある。森は昼間でも暗くなるぐらいでっかい木が多くて、魔素のせいで野生動物が変身してしまった邪悪な生き物『魔獣』が多く生息してるんだけど、その魔獣のおかげで都市社会が成り立っているのも事実。だからその森はここでは『恵みの森』と呼ばれている。冒険者の中では単に『森』って言えばそこのこと。


 森までの最短はグランデールの西門からで、馬車で三十分から一時間ぐらい。五キロ強って感じかな。往路だと身体強化で走った方が早い。帰りは疲れてるし、獲物があったりすると馬車がいいよねってなる。まぁ奴隷には関係ないけど。ちなみに、俺が黒目黒髪なのに『灰まみれ(アッシュ)』と呼ばれているのは、俺が捕らえられた時、灰にまみれて真っ白だったことが原因。


 さあ、そろそろ狩場(かりば)に到着だ。ここに来るまでの間に頭の中でいろいろ試してみた結果、俺のパーティーメンバーに対する殺意は正常に働いた。特にメシの時のことを想像しながらだと効果抜群だった。


 昨日までの俺には叶わなかったことだ。ものすごーーーく嫌だという気持ちはあるのに、それをどう表現していいのかわからないという違和感が今はない。すっきり爽やかな殺意を(いだ)ける! 顔がニヤけそうになるのを我慢して無表情を維持。


 異世界転生、ね。


『俺様の世界の輪廻が嫌なんだろ? だったら他に行けや!』ってことなのかな。どうやら俺は神様に捨てられたらしい。マジか。やってくれるじゃないか。


 なっちまったものはしょうがない。ここがゲームの世界なのかアニメの世界なのかは俺の知識にはない世界設定だからわからない。だけどこんな世界にこんな境遇で送り込みやがって! 俺には怒りしかないぞ! アッチの神もこのゴミパーティーもそれに関係する奴らもどうなっても知らん! こっちの女神には責任は無いかもしれんが、まずは気に入らない奴らは全部潰す!


 精神年齢アラサーの十歳児ナメんなよ。


 さあ、冒険のはじまりだ。






――――――――――――――――――

【あとがき】

お読みいただきありがとうございました。


『最弱スキル『地図』が『こうしえん』になった!? - 高度戦術支援地図で最強クランに成り上がれ!』


上記連載開始しました。

こちらもお時間ありましたら応援いただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。


イイネ、ブックマーク登録を入れていただけますとランキングに繋がります。

作者のモチベが上がって投稿頻度も上がります。

皆さまからの応援が執筆の燃料です!

どうぞよろしくお願いいたします!


いつも『応援』★星評価いただいている皆様、ありがとうございます!

毎回チェックしております。

励みになります!


秋乃せつな

―――――――――――――――――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
前世の「鍵屋禄郎」としての記憶が、最悪なタイミングで、しかし最高の武器と共に目覚めましたね! 平和な日本と、命が安い奴隷階級。そのギャップに呑まれず「日本人の思考は甘すぎる」と自分を律する冷静さが、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。