第十一話 共に掴む夢
「ん……」
まぶた越しに降り注ぐ明るい日差しを避けるように、みじろぎする。それを阻む柔らかい何かがうっとうしい。
何故こんなに明るいんだ。誰だこんな時間に光魔法を使っているやつは。
腕で光を遮りながら、余はゆっくりと薄目を開け――
「おはよう、ターニャ」
そのまますっと目を閉じた。
幻覚だな。うん。きっと疲れているんだろう。
オスカルに求婚されて、聖女と戦闘。これからその後処理。そんな面倒な事は夢の中だけで十分だ。
「ターニャ? もしかして……キスしていいってことかい?」
「良いわけあるかたわけ!!!」
勢いよく体を起こし、目を開ける。
視界に入ってきたのは、ベッドのはしに肘をおき、頬杖をつくオスカルの姿だった。
「目を覚ましてもずっと目を閉じてるから、誘ってるのかと思ったのに」
「そんなわけあるか愚か者! そもそも何故貴様が余の部屋にいるんだ!」
余は渋々シーツの海からでて床に足をつく。ひんやりとした冷たさが、より抵抗感を加速させた。
「妻の体調を気遣うのは当然のことだろう? それに、君が寝ている間に起きたことの話を早くしたかったからね」
強張った体を伸ばしながら、視線だけでオスカルを見る。
「処理はどこまで進んでいる?」
「応接室修理の手配は終了、連合国との交渉も概ね完了、レイアの処遇もほぼ決定済みだね」
淡々と語るオスカル。その言葉に、自然と眉根に力が入る。
「そうか。余はどれほど寝ていた? 一ヶ月? それ以上か?」
まさか、ほとんどの手続きが終わるほど長く眠り続けるとは。余も衰えたものだ。
「いや、二日だけだね」
「……二日?」
あり得ない。
一体どうやってそんな短期間で?
オスカルは疑問符を浮かべる余に手を伸ばし、頬を慈しむように優しく撫でた。
「転移魔法で連合国に赴いて、向こうの王に直訴したんだよ。『国の代表として使わされた聖女が、俺の妻を陥れようとした上、他国の王宮で魔力を完全に解放した。宣戦布告と見なされてもおかしくないよね』って」
「それでも信じがたいスピードだな」
「急かしたからね。ターニャが起きた時に『まだ問題が残ってます』なんて言いたくないからさ」
さも当然のことかのように語るオスカル。
それを聞いて、妙に鼓動がはやる。
「そうか、助かった」
「今回の件については、王宮を荒らした件に関する賠償、関税引き下げなしでの婚姻承認、今後の王国・魔王国との和平条約締結って方面で進めてるよ」
「凄まじい手腕だな。まさか、そこから和平条約まで持っていくとは」
連合国との交渉は聞いていて特に問題なさそうだ。となると、問題はレイアの処罰か。オスカルが私情で暴走していなければ良いが。
「レイアの処罰はどうなった?」
「もちろん、君が望むような穏やかなものにしたよ。教育係をつけて、反省するまで表舞台から退いてもらう形にした。もし反省しても、王国・魔王国には干渉しない事も定めてある」
「……平和的だな」
更生の余地があり、なおかつ今後の事まで考えられた対応だ。オスカルは少し過激なところがあるから警戒していたが、少し疑いすぎたか。
「言っただろう? 俺はターニャが望む平和な世界を作るんだって。君の配偶者に相応しい実務能力だろう?」
オスカルはいつもの捉えどころのない笑みを浮かべ、ぐいとこちらに顔を近づける。その瞳は、心なしか揺れているような気がした。
……仕方がないやつだな。
「そうだな。対応方法も速度も申し分ない。よくやった」
こいつはもはや、余が『小童』と呼んでいたか弱い童ではない。一人の王であるのだと、そう感じさせるほどには。
「ならよかった。これで少しは俺の事を夫として認めてくれるかな?」
今までの甘さとは違う声が鼓膜を揺らす。
その音が、胸の奥をざらりと撫でた。
余は軽く息を吐き、寄せられたオスカルの頬を、そっと両手で包み込む。
「まあ、認めてやってもいい。貴様のことは嫌いではない。……少なくとも、貴様の姿が見えなくなって魔力の操作を誤りかける程度にはな」
余の声が、部屋の中に溶けていく。
オスカルは何度もパチパチと瞬きをして、そのまま黙り込んだ。
段々と、余の頬が熱を帯びていく。
それでも部屋の中は静かなままだった。
「な、何か言ったらどう――!?」
耐えかねて口を開いた直後。言葉を紡ぎ終わるより早く、体がひかれた。
余の背中に硬い何かがまわされる。首筋に当たる生温かい風がくすぐったい。
「ずっと、この十年ずっと、その言葉が聞きたかったんだ」
すがり付くようにオスカルの腕が余を抱きしめていた。
濡れた声が鼓膜を揺らすたび、腹の奥がざわりと騒ぐ。
オスカルはそっと腕を緩めた。
鼻先がぶつかりそうな距離で、やつの美しい青い瞳が優しく細められた。
「愛してる、サターニャ。……改めて聞かせてくれ。俺と一緒に、生きてくれるかい?」
余はその瞳をじっと見据え、ふわりと頬を緩ませる。
「当然だろう。余は貴様と共に夢を追うと決めたのだから」
夢を追った先に、どのような答えがあるのかはわからない。だが夢を成した時、隣にいるのはオスカルが良い。
「サターニャ、愛してる。この体が土に還るまで、共にいてくれ」
甘い囁きが、頭の中にこだます。
余は、そのまま、迫る熱に身を任せた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
皆さんの反応が励みになります。よろしければブックマーク、評価いただけますと幸いです。
いつか機会があれば続編で「魔王元婚約者編」も書きたいなぁと思っています




