22話 戦争って本当に嫌い
ガレスさんが先頭で敵を排除しながら走るわたしに進む方角指示している。
「アリシア!そのまま真っすぐだ!目標はそこにいる筈だ!」
この人なんでそんな事知ってるんだろうと思っているとミーシャも同じ事を考えていたようで横合いから飛びかかってきた敵にダガーナイフを突き立てながら言った。鎧を着ていたけど隙間を縫うように首筋を一突きだ。怖い。
「その情報正しいんですよね」
「ああ、敵軍に潜入してた情報科の人間からもたらされた情報だ。このあとそいつらと合流する」
成る程、オーランド支部長のところと連携してるわけか。まぁ、ロペス軍団長が来ているので妥当なところではある。
後方では冒険者と軍混成部隊が敵の集団とぶつかり合っている。
わたし達の攻撃は奇襲のような形になっている為に出てくる敵は武装しきれていない小集団が散発的に出て来ている。数の優位が生かせていない。
そりゃ、いきなり壁壊されたら準備を整える暇もないよね。多分、向こうからすればいきなり爆音がしたと思ったら武装集団がなだれ込んできたように感じてる筈だ。奇襲とはそれだけ強力なのだ。
当然だが指揮系統も機能してないらしく敵部隊は統制を保てて居ない者が多い。中には分隊単位で連携を取る猛者も居るようだが、連携はそこで絶たれている。
敵ながら見事ではあるがあれは数の暴力で押しつぶされるだろう。しかも彼らの相手は王国でもトップクラスの戦闘技能を誇る特殊戦技隊。分隊単位の破壊工作から前線でのど付き合いまでなんでもござれの荒事エリート達である。
しかし、こうして久々に戦場に来て感じる事がある。戦争って本当に嫌い。
国同士のゴタゴタにみんなが巻き込まれる。孤立しながらも奮闘する敵兵とか見てると本当そう思う。
わたしが軍を離れた一番の理由はもちろん健全で文化的な生活を送る為ではあるのだが、単純に戦争行為そのものが嫌いだと言う背景もある。
まぁ、わたしが軍を離れたところで結局わたしがそういった現場を見なくて済むだけでどこかで血が流れるという事実は変わらない。
しかも、今後、この戦場が可愛く見えるような戦争が起こり得るってんだから笑えない。
わたしに戦争を止めるとかそんな力はない。わたしの力は起こってしまった後のものだ。
でも、ここで敵の頭を捕らえて情報を引き出すことが出来れば、この先流れる血が少なくなる、かもしれない。そう思わないとやってられない。
この先少しでもマシな未来の為に今は目の前の敵は殺す。 ゴリラだなんだと言われても結局わたしはただの雑兵に過ぎないのだ。
いや、わたし自身は断じて自分がゴリラだなどとは思っていないがーー兎に角それ以上の戦略的な事は偉い人達の領分だと言うことだ。
前方から駆けてくる敵集団を見据え。持っていた斧槍を握る手に力を込める。本日何度目になるかわからない薙ぎ払いを繰り出す。
斧槍自身の重量にスピードの加わった薙ぎ払いは敵の防御を打ち払い、或いは粉砕し、敵の本体に命中する。中には武装の不十分なものも混ざっていた。そう言ったものは体を裂かれ周囲に鮮血が飛び散る。
そんな敵の様子をみたわたしは顔を顰めーーるわけがない。そんなのはまだ綺麗な者たちの特権である。散々殺してきたわたしに敵の死を悼む資格などあろうはずもない。
崩れ落ちた敵が事切れるのを確認したわたしはすぐに道を駆け出した。
周囲では散発的に戦闘音が聞こえてくる。指揮所に向かい駆けているとまた前方から敵が走ってくる。
「アリシア、味方だ」
後ろからゲイルさんに掛けられた言葉を聞いて武器を持つ手から力を抜く。駆けてきた人影はわたし達と合流するとくるりとターンしわたし達を先導しだす。
「情報科の者です敵の長はこの先にいます。強いです、ご用心を。他の敵は既に排除してあります」
まぁ、そんな気はしていた。単独で敵地に潜入、わたし達と合流する前に敵のお掃除。そんな事をやってのける人が特戦隊と連携するんだから、情報科では拘束が困難なんだろう。
いや、オーランド支部長ならいける気はしなくもないが……わたしの見立てが正しければ戦闘に置いて彼はもう君だけでいいんじゃない。と言わせるような化け物である。ロペス軍団長もね。まぁ手が回んないのかな。
ここに居らぬ化け物共を当てにしたところでどうしようもない。情報科の人間と合流したわたし達は一路、敵の長がいるであろう場所まで一息に駆け抜けるのであった。
今回短め