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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第6章 器の少女達
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【3】 離脱

火球と化したポーラ・ヴィクの布帯。

それが燃え落ちていく中、その火球に薄く包まれたニレが、ポーラを見つめる。

(これが魔神級の宝玉少女?)

ポーラ・ヴィクは脳内で呟きながら、その火球を見つめていた。

ものすごい力、魔力量だ。

周囲に民家もあるため、あるいは仲間もいるためか、たぶんこれでも制御しているのだろう。

まともにやりあってはあぶない。

そう判断したポーラは攻撃を加えるより、次の相手の攻撃をどうかわし、どう逃げるのか、に神経を集中させていた。


対してニレの方はと言えば、攻撃が続けざまに来る、と読んでいたのに、ポーラが止まってしまったままになっていたため、少し呆気に取られている。

だが深い戦略や思惑などは、ニレにはわからない。

止まったのなら攻めてみよう。

そう判断して、糸のように細い熱線をポーラめがけて放った。


ポーラは用心していた。

あの熱の球を見るに、自分の布攻撃では全て燃やされてしまう、と判断していた。

そこでカウンター攻撃に切り替えて、ニレの攻撃を待った。

当初の予定通り、時間稼ぎをしたあと、脱出する目算だったが、すんなりとさせてくれそうな相手ではない。

そこで、カウンター狙い。

ただし、布帯では瞬時に燃やされてしまうだろう。

そこで...。


熱線を放ったニレは、それが相手をとらえたと思った。

細い目の少女に熱線が到達し、燃え上がったからだ。

声もなく燃えていく少女。

しかし、どこかおかしい。

そう考えた瞬間、背後から細い紐で締め上げられた。

「え?」

紐は火球の熱で少し焦げながらもニレのからだに到達し、ニレを締め上げ、地面に引き戻した。


(やはり思った通りだ)

ポーラはそう考えて、紐状によった布でニレを縛り上げ、地面に引きずり下ろすと、港湾倉庫の扉口に巻き付けた。

炎で周囲をおおっていても、 肌の上に高熱の大気が出ているわけではない。

肌の上、少しのところに熱の壁を作っていたのだろう。

だからそこさえ突破すれば、からだに到達するはず。

恐らく燃やされてしまうだろうが、それでも相手の身体に衝撃を与えることができるかもしれない。

そう考えて、自身のいた場所を布人間とすりかえ、ニレの背後に回り紐を投げかけたのだ。

しかし、そんなに長くももたないだろう、というのも、ポーラは自覚していた。


ニレとポーラ・ヴィクが戦っていた頃、ゲルンはパーヴィエと剣を打ち合っていた。

いや、正確には、剣と錫杖を滑らせながら斬りあっていた、と言うべきか。

剣と錫杖は、お互いに相手の体軸に切り込んでいくため、それを剣や錫杖で受けるのは危険だと判断した。

それで攻撃を剣で躱しつつ正面からの打撃はさけていたのだ。

だが、お互いに自分の攻撃がかわされたと知るや、それ以上の深い打ち込みはさけて体制を取り直す。


強い。

パーヴィエは相手剣士の並々ならぬ力量を実感していた。

錫杖の方が長さに優っていたが、躱された時の体勢の持ち直しで不利になっている。

それゆえ決定的な次の攻撃が出せない。

(まぁいいさ。今回は相手の力量さえ測れればそれでいい。今回は時間稼ぎがメインだからな)

こう考えて、距離を取りつつ、仲間二人の方の気配を探っていた。


また、風弾を撃ちつつ魔王の娘と渡り合っていたオルガナは、二人に比べて比較的余裕を持っていた。

相手を倒すことより、時間稼ぎをちゃんとやる。

それに切り替えていたため、無理な攻撃はしなかったからだ。

加えて、脱出の算段では自分が要となる。

ここで簡単に倒されてしまっては話にならない。

そこでなるべく手の内を見せず風弾を連続で放ち、エルゼベルトに詠唱する余裕を与えない戦法で戦っていた。

エルゼベルトの方も風弾に手を焼きながらも、相手の余裕ある態度を見て、どう攻め込むべきか、風弾を躱しながら考えていた。

(この女、私の攻撃を待っているのか?)

だがカウンター狙いに見えない。

風弾が矢継ぎ早に飛んでくるため、魔術詠唱の時間がとれなかった。


オルガナの風弾は、空気圧を用いたものなので、肉眼ではとらえにくい。

加えて早く、正確にこちらの胴体を狙ってくる。よけてばかりだったが、突然相手の動きが止まった。

(何か大技をしかけてくるのか?)

そう考えたが、千載一遇のチャンス、ともとらえて、氷結呪文の詠唱に入った。

「ハッ!」

詠唱が完了し、相手のからだを凍結させた、と思ったその瞬間。

そこに風弾の撃ち手は消えていた。


ゲルンと戦っていたパーヴィエが突如戦闘を放棄し、ポーラ・ヴィクの方へ走っていく。

ポーラはニレを倉庫の扉に縛りつけたものの、ニレは高熱を出してその紐を焼き切り、炎の中から立ち上がる。

それを見てポーラは潮時だと感じて、パーヴィエとオルガナに合図を送った。


まずはオルガナが、周囲の空気密度を変えた。

それにより、光の進行が一瞬ずれて、かき消すように姿が消えてしまう。

正確には屈折させた大気が光を偏光させているスキに高速で移動したのだが。

パーヴィエにはそんな芸当ができないため、戦闘を放棄してポーラ・ヴィクの元へと駆け寄る。

そこで再びオルガナが、三人の前の空気圧をいじり、光の方向を変化させる。

相手が自分たちの元いた場所を見つめているすきに、素早く脱出したのだ。


ゲルンは明らかに相手が逃げ出したこと、そして横から見ていたこともあり、エルゼベルトと戦っていた少女が何か光に細工したことが見えていた。

しかしその行動は早く、あらかじめ打ち合わせをしていたかのように逃げてしまったため、追い続けることができなかった。


「消えたように見えました」

ゲルンの元に駆け寄ってきたトルカがこぼした。

「最初から時間稼ぎだったのかしら」と、エルゼベルト。

「まだいくつか技を隠しているみたいだったし」


「逃げられたのは仕方がない。それよりルルは?」

ゲルンがそう言って、倉庫脇で倒れているルルのところへ向かった。

介抱していたフリーダが言う。

「剣士様、戦いは?」

「逃げられた。最初からそのつもりだったようだ」

ゲルンはこう言ったのち、ルルの容態を尋ねた。

「大丈夫です、鳩尾に打撃を受けただけで、毒や魔術の類ではありませんでしたから」

すると、身を起こして穀物袋の上に座り直したルルが

「いやぁ、面目ないです」

と言って、頭をかいていた。


「ご主人様」

いつものしゃべり方に戻ったニレが、よろよろと近づいてくる。

「ケガはないか?」

ゲルンがニレの身を支えると、その中に倒れこむようにして抱き着いた。

「ケガはありません。でも、あの女の子達、すごく強いです」

ゲルンはニレをギュッと抱きしめて

「無事でよかった」

とだけ言って、背中をさすってやっていた。


一行は宿を探して落ち着くことにした。

コートブルクのような常宿地はないものの、混雑するシーズンでもなかったため、すぐに見つかった。

大通りを少しはいったところにある、木造りの古い宿屋。

そこに腰を落ち着けて、今後の相談に入る。


「連中は西へ逃げています。強い魔術痕跡がありますから」

ニレがそう言うと、エルゼベルトも、

「西ね。私もその気配は少し感じているわ。たぶんレントゥックか、ガレノン。」

と言っている。

「どちらも王国の権威も、『山の魔王の宮殿』の勢力の及ばないところだ。ほとんど外国と言っていいな」

ゲルンが少し困ったような表情で言うが、エルゼベルトは、

「でもゲルン、追いつくことはそんなに困難ではないわ。一応両国とも、私たちと友好関係にはあるのだから」

「まぁ、そうだな。今後はわからないにしても」とゲルン。


「私の考えではレントゥックが有望だと思います」

とメルシュが言う。

西方都市レントゥックは魔術都市とも言われ、魔術研究の盛んな土地。

宝玉少女を抱え込んでも、さほど違和感なく都市の中に溶け込めそうだからだ。


「当面はレントゥックを目指すとして、我々の目標を確認しておこう」

とゲルンが切り出した。

エルゼベルトが、うん? という顔をして、

「そんなの、エギュピタスの魔女姫を奪還することじゃないの?」

と聞くので、ゲルンが説明した。


もちろんブレンダ奪還が当面の目標だが、それが最終目標ではない。

誘拐した一団が、我々と対立しないこと、その確認だ。

だがニレを攫おうとした連中と同じだとすると、それはかなり難しい。

われわれの『山』に敵意を持つ連中の殲滅、これが最終目標になるのではないか。


ゲルンがこう言うと、トルカが嬉しそうに応える。

「さすがはマイ・ダーリンです」

ゲルンがまたか、という顔をして、いや、ちょっと待て、と言うのだが、今だけは皆トルカの意向に賛成だった。

「ゲルンさま、戦いになるのは我々も望むところではないのですか?」

とザックハーが薄気味の悪い笑顔で、言う。

「まぁ、そうだな」

とゲルンも苦笑い。


一同の賛意を得られたので、ゲルンはフリーダに、宮殿のベルカに水盤連絡をするよう頼んだ後、

「もう一つ。仮に連中の行先がレントゥックだと仮定して、レントゥックの中枢が関わっているのかどうか。それを確認するまで町では事を起こさないように」

と一堂に言い含めた。

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