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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第5章 宝玉
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【13】 西方の影

「どうやら戻ってくるみたい」

アニトラの加勢に来たというふたりの少女のうち、小さい方がぼそっと呟くように言った。

「こちらにか?」

「おそらく」

この二人ののやりとりを聞いて、メーネムが

「すまないが、名前を教えてはくれないか。話がしづらい」

大柄の方がメーネムの方を向いていった。

「あたしはレモナ。器の3番。こいつはノクトゥルナ。器の4番」

小さい方、ノクトゥルナと紹介された方が

「どうも」

と言って、軽く頭を下げる。


レモナと名乗った大きい方は、全身に異民族風の文様が入った布を巻きつけた衣装で、肩や大腿部は露出した派手なスタイル。

短髪で、背に長い両刃剣を背負っている。

それに対してノクトゥルナは小柄で子どもほどの背丈。

しかも全身足首まで隠れるローブに包まれ、フードに覆われた顔からは鼻から下しか出しておらず、目が隠れている。


「アニトラ、ここではおまえの方がなれてるだろ? 一応聞いておきたいが、私たちが攫ってもいいんだな?」

レモナがアニトラに話しかけると、

「勝手にしな」

とアニトラがぷいと横を向いた。

だがこの様子を気にするでもなく、ノクトゥルナが言う。

「私たちの宝玉少女ほどは強くない」

ノクトゥルナが二人とは違う方向、建物の中ではわかりづらいが、北方を向きながら言う。

「まだ魔神の力を吸い込んではいない」

この言葉を聞いて、アニトラが少し慌てた。

「ノクトゥルナ、確かかい?」

ノクトゥルナが「うん」と力弱く頷いて肯定すると、アニトラの顔色が少し変わっていく。

それに気づいてメーネムが「どうした?」と声をかけると、

「それはたぶん、私たちが追っていた方じゃない」

と答えた。


「どういうことだ?」とメーネム。

「ノクトゥルナが今感知したのは、もう一方。あのキャラバン立ての中にいた方らしい。あちらはまだ覚醒していない、と思ってたのだが」

これを聞いてノクトゥルナがまたもやぼそぼそ呟くような声で言う。

「解放の信号を感知したから間違いない。今、こちらに向かってくるのは、つい先ほど宝玉の封印を解いた女」

「おまえが追っていた方じゃない、ということは、フレーボムには宝玉少女が二人いたってことか?」

レモナが尋ねると、

「そういうことになる。片方はまだ封印が生きていたので、後回しだったんだが」

こう言ってアニトラが少し考えるそぶりをして、いった。

「そうか、あちらの方も解呪したのか」


「まぁ、どちらでもいい。というか、宝玉少女が二人いっぺんに手にはいるなら、それに越したことはない」

だがレモナのこの言葉に対して、アニトラが言う。

「私が追っていた方は既に覚醒しているわ。うちらの宝玉少女と同等の力だった」

「ノクトゥルナ、どうだ? やれると思うか?」

レモナが尋ねると、

「レモナの力なら、たぶん。向こうは私たちに気づいていない。今は絶好のチャンスだと思う」

それを聞いて、レモナがメーネム達に指示を出した。

「よし、それじゃ決行する。あんた達は私が戻り次第、この地を脱出する準備をしておいて頂戴」

「おう」と

メーネムが立ち上がり、生き残った部下たちに指示を出す。

狭い建物が、急に忙しくなっていく。



一方こちらは『山の魔王の宮殿』

ブレンダたちを送り出した後、ゲルンとニレは力を緩めて寛いでいた。

広間では残された寝台にニレが横たわり、その傍らのソファではゲルンが身を沈め、のんびりとしていた。

魔王とグリムは既に退出していたが、フリティベルンは残っており、ゲルン同様疲れた体を癒している。

エギュピタスとの交渉が終わったと聞いて、トルカ、ルル、フリーダも舞い戻っており、エルゼベルトもやってきた。

直接解除の場に立ち会ったわけではないが、その近くにいたので、エルゼベルトがトルカ達に事の顛末を説明している。


ところが急にニレが広間の寝台から身を起こす。

様子が普通ではなかったため、ゲルンが

「どうした、ニレ?」

と声をかけると、ニレのカラダが薄黄色の光に覆われ始めた。

すぐにフリティベルンも気づいて近くにかけよろうとすると、ニレの身体が浮き上がった。

瞳から赤い光が放たれて、どこか違うところを見ているようである。

広間の中空に浮き上がったニレが、右腕を上げ、南方を指さす。

「解呪ノ信号ヲ悟ラレタ」

こう言ったのち、光はますます強くなり、黄色から白色へと変わっていく。

「アレハ、魔女姫ノ覚醒ヲ感知シタ。アレハ...敵ダ」

声質は間違いなくニレなのだが、言っている内容、声の抑揚が、まったく別人のように響いている。

一瞬、魔焔公がよみがえったのか? と危惧したゲルンだったが、ニレはゲルンの方に顔を向けて、こうも言った。

「御主人様、魔女姫ヲ奪ワレルト、大イナル災厄トナリマス」

と言ってくるので、ニレの意識はある程度残っているのだろう。


「ニレ、最後の宝玉少女がここに来ているのか?」

ゲルンは魔焔公ではないと判断して、ニレに問いかける。

「否、来テイマセン、シカシ...」

「しかし?」

「ソノ息ノカカッタ恐ロシイ手練レノ気配ヲ感ジマス」

既にフリティベルンだけでなく、トルカやエルゼベルト達も気づいていて、この会話に耳を傾けている。


このやりとりを聞いて、

「にいさま、今度は私も行っていいよね」

エルゼベルトが目を輝かしている。

「ニレ、そいつらはお前目当てではないんだな?」

フリティベルンが妹の申請には答えず、ニレに問いかけた。

「ワカリマセンガ、今ハアノ姫ヲ狙ッテイマス」

「そいつらは我々の害になるかと思うか?」

今度はゲルンが問いかけた。

「断言ハデキマセンガ、オソラク」

これを聞いてゲルンが、フリティベルンに再び遠征を申請する。

「フリティベルン、敵方に宝玉使いが二人出現するのは危険だ」

フリティベルンは従者の一人に耳打ちして魔王への伝言を託して退室させ、言った。

「よし、やろう」



フレーボムではこの両者の動きはまだまったく知られていなかったため、ブレンダの帰投を一同喜んでいた。

ラーベフラムが姫に抱きつきながら、

「姫、御無事でなによりです」

「お婆、心配かけたわね」

すると戦士たち、曲芸少女たち、娼婦たちが一斉に周りに群がってきて、祝意を述べた。

エレオノーラが喜びの輪を抜けて、ブルーノの側にやってくる。

「それで、ブルーノ、姫の中の宝玉はどうなったの?」

ブルーノが経緯を語り、その上で説明する。

「国の復興をなす程度の力なら、姫の中に宿った、とのことです」

「復興をなす程度? 妙な言い方をするのね」

そう疑問をぶつけると、

「魔神を身の内に収めていませんから、魔神級の戦いは無理だけど、再興のための武力としては、十分以上、ということかと思います」

ブルーノはそう言って、ブレンダの中には宝玉魔術の力が宿っただけで、魔神級の戦いはまだできないことを説明した。

「私たちの故地は今はまったくの放置状態。王国の軍も力を失いつつある。ここに姫の力が加われば」

ブルーノがこう言って微笑むと、エレオノーラもほほえみ返して、

「御苦労だったわね。正直不安と疑念もあったのだけど」

と言って、握手を交わした。


やがてラーベフラムも合流して、もう一度経緯の説明をしたあと、軽い歓談会となった。

「それでは今晩はここで一泊して、明日から急ぎ南方へ戻り、大河の畔で我々を待っている者たちの元へ合流しよう」

エレオノーラがこう宣言して、皆の拍手に包まれている。

ブルーノ、フーゴ、ジャック・パレ達も肩の力を抜いて、弛緩し始めていた。

軽い宴会気分になっていく。

だがその時。

ラーベフラムが妙な気配を感じて、

「皆、静かに!」

と浮かれていた皆を鎮めた。


「お婆、どうしたい」

酒が回り、赤ら顔になっていたギュルケスが言った。

「誰じゃ?」

ラーベフラムが広間を見渡した。

何人かがきょとんとしてラーベフラムを見つめている。

うつらうつらしかけていたブルーノも、このラーベフラムの挙動に気が付いて、ハッとして立ち上がり、周囲を見回した。

出かけた時のままの広間、見知った顔ぶれ。

何もおかしなところはない。

にも拘わらず、何かしら得体の知れない気配が漂っている。

「ジャック、何か見えるか?」

ブルーノは近くにいたジャック・パレに小声で声をかける。

「いえ、何も」

ジャックも何がなんだかわからぬまま、周囲に目を走らせてみたが、何も感知できない。

ラーベフラムとブルーノの顔が真剣だったのに気づいた一同は、少しずつ今までの浮かれ気分が抜けていく。

「敵か?」

誰かがこうつぶやいたが、殺気は感じない。


奇妙な空気が続いたが、やがて、聞きなれぬ声が聞こえた。

「魔女姫、お迎えに上がりました」

ブレンダの背後、突然空間を割って一つの影が出現する。

ブレンダが驚いて背後を見ると、そこには異民族の文様を縫い込んだ布に全身を包んだ大柄な女が立っていた。

声を出す暇もなく、その女が身を包む布を解いて、ブレンダの身を包み直した。

フーゴとシリアが驚いてそこにかけよろうとするが、布に包まれた女は一瞬の内にブレンダを包み込み、空間の中に消えていく。

ブレンダが今そこに立っていた場所には争った痕跡すらなく、その姿だけがかき消すように消えてしまった。

この一瞬の出来事のうちに、喜びの会場は一点、悲しみの会場へと変化していく。

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