始動~業~
閃く白刃は異様な速度だ。真っ赤に染まる柄は、鮮血のような色合い。全体を見ても1メートルはあろう立派な太刀は、刀身が純白。
片桐は迫る白刃をものともせず、優雅に踊るように軽やかに避け続ける。瞳孔を開き、愉しそうに斬りまくるメイカは、ひたすら愚直に太刀を振るい続ける。
「姉君。ああ、姉君。この瞬間、この瞬間がーーわたしは至福です」
「あらそう?私は、何時でもこんな事をしている場合じゃないのだけれど······まあ、いいわ。今回は多目に見て上げるわ銘耶。代わりにーー」
振り抜かれた一閃を避け。片桐は大きく後退。腕を真横に構えーー
「秋月。貴方は······こんな所で燻ってる場合じゃないわ。理想を叶えるのでしょう?自分の世界を、望むのでしょう?」
片桐は、微笑む。微笑んで、俺を見ながら腕を正面に伸ばす。
「私が理想を言うのは、別に私が理想を求める、ということではないわ。理想は所詮理想よ」
「とすれば、理想の先には何があるのかしら?秋月。貴方が求めるものは、理想の先にあるんじゃないかしら?理想の先には、秋月が求める何かがあるんじゃないかし ら?」
「秋月は、自分の視野がーー非常に狭いということを見直さないといけないわ。見直さないといけからこそ、私はーー少しだけ時間をあげるわ。秋月。貴方は······最強だという自覚を持ちなさい」
腕を降り下ろす。片桐の周囲からーー漆黒の渦が巻きおこり、爆発する。
「I have seen the world of eternith (永劫の世界を見てきた)」
片桐の声に合わせるように、漆黒の渦が舞い踊る。
「I’m just looking at you (私はただ、眺めてるだけだ)」
何だろうか?悲しい。凄く悲しい声に聞こえるんだ。
「It was done over and over (それは、何度も繰り返し行われた)」
理想。それはーー希望だと思っている。だと言うのに、これはなんだ?
「I am afraid to change (私はーー変わることが怖い)」
悲痛な叫び。心の内を、叫んでいる。片桐は······静かに、淡々と、叫んでいる。
「Because it is. I am watcing (だからだろう。私は眺めているのだ)」
呪縛。これはーー片桐の呪縛?
「I am a sinrer. I am timid. I am a bystader (私は、罪人。私は、臆病。私は、傍観者)」
悲しい理想の声。懺悔のような、そんな内容。悲壮。
「I hope to eliminate emotions····Yes, I wish (感情を無くしてしまえばいい······そう、願う)」
怖いんだ。片桐はーーアイツは、仏頂面の癖に怖いんだ。怖いから、淡々と全てを見届けるんだ。
「I deal manifestation formation ーー(理想顕現形成ーー)」
漆黒の渦は片桐を飲み込む。心の闇のように、それはーー片桐を飲み込む。
「Eien Prison prison umbrella (永劫監獄囚傘)」
漆黒の渦は、静かに四散する。漆黒の傘を片桐は開く。深呼吸をし、愉しそうに笑うメイカへ腕を差し出し·····
「おいでなさい。少しだけーー遊んであげるわ」
その声に合わせて、メイカは地を蹴る。白刃が、今までと次元の違う速度で連斬。速すぎて切り返しが見えない。その速度の中、悠然と片桐は体を揺らして斬撃を回避する。
「ふぅ、なるほどね。理想顕現形成か。じゃあ、こっちも始めようか」
未歩がそういって、にこやかに笑いながらーー三色の光を爆発させる。
「I thought. Without leaving like this (私は思った。このままではいけないと)」
三色の光は、未歩の周囲を回転する。綺麗なーー綺麗な光景だ。
「I did not know what to do (どうすればいいか、わからなかった)」
俺の変革は、未歩を救う方法を取ったはずだ。そうーー
「But I still do not want to give up on going forwerd (ただ、私はそれでも前に進む事を諦めたくない)」
未歩は、ちゃんと人に戻してある。機械の部分を人に戻し、この能力でーーあの籠手を呼び出す。
「If I give up ー I will end up there (諦めたらーーそこで終わってしまうから)」
意志の強さ。はっきりと発言し、俺には足りない部分を見せつける。
「I do not want it. I do not admit it (それは嫌だ。私は、それを認めない)」
凄く、羨ましい。悩んでも、泣いても、挫けない心。それが俺は欲しい。
「It is because it does not approve. I ··· transced all (認めないからこそ。私は······全てを超越する)」
俺の半身は、本当にーー俺に無い輝きを見せてくれるんだ。だとすればーー
「Hence I am more than a person (故にーー私は人を超える)」
俺が選んだこの道を、半身にだけ背負わせる事は出来ない。
「I deal manifestation formation !!(理想顕現形成!!)」
立ち上がれ。今すぐーー俺は、敵わない相手はーーいないと確信せよ!!
「Deus ex machina (展開超越武装)」
三色の光は、未歩の前腕を包み込む。光が収束し螺旋を描くと、爆発。軽快な駆動音が響くと、未歩は腕を振るう。
「さあ、行くよ。あたしはーーあたしの信じた道を譲るきないから!!」
「それでいい。それでいいんだ。だからーー」
鼓動。呼応するように、三色の光が俺から溢れ出る。大丈夫、俺はやれる。
「迎え打つ。俺は、俺が選んだこの道をーー誰にも否定はさせない!!」
唱えろ。お前が思い描く理想。それはーーきっと優しい世界。
「How come I stopped? (どうして、俺は立ち止まったのだろう?)」
呪詛。身の内に潜む、俺の心の中。片桐は弱さを、未歩は強さを見せた。
「I was suffering, I could not grasp, I stopped forever (悩んで、掴めなくて、ずっと立ち止まっていたんだ)」
俺は、自分の中の正義や悪と言う物は、矛盾していて当たり前だと思う。二律背反。人として、実に正しいと思う。
「I am scared of making decisions. But I have to choose (決断する事が怖いんだ。でも、選ばなくちゃいけない)」
矛盾していて当たり前だと思う。それは、両方で正しいんだ。両方で正しいからこそーー
「Both justice and evil ー are both correct (正義も悪もーー両方正しい)」
どっちも正しい。どっちもあってこその、正義と悪。この矛盾、この必要性。ならどうする?
「That is a necessity. Correct with correct contradicion (それは必要性。矛盾を持ってして正解)」
そうだ。二律背反。2つで一つ。なら、それを受け入れ、それを両方使う事が、この矛盾を正しい事につかえるんだ。
「Therefore I will preach the idal. This is one way to use it for the right thing !! (故にーー俺は理想を説く。これは、正しい事に使う為の一つの方法だ!!)」
だからこそーー矛盾しているからこそ、俺は理想を正しい事に使う!!これは、使う本人が全てを決断するための······戒め。
「I am a cool world hero !! (俺は格好いい世界のヒーローだ!!)」
そうだ。二律背反。矛盾。だからこそ、だからこそ!!それでもーー俺はヒーローになるんだ!!
「I deal manifestation formation ーーッ!!(理想顕現形成ーーッ!!)」
誰にも否定はさせない。誰にも追いつけない。俺の理想はーー
「Paradox scissors !! (矛盾一対理想刃!!)」
誰にも覆せない。ただ一つの、俺だけの最強最悪の武装!!
三色の光が呼応する。肘から先が変質し、赤と蒼の刃を形成。三色の光は、全てを包み込む。白銀の鎧に、いつもの格好。
『Bless for you ···· (汝に祝福を······)』
内に声が響いた。誰のかは解らない。ただーー凄く優しい声だ。
「さあ、行こう!!展開超越武装!!」
三色が呼応する。求めに応じるように、咆哮ーー
「全てをーー断ち切れ!!矛盾一対理想刃!!」
両腕を水平に広げ、俺は掛ける。互いに疾走。ぶつかり合う三色の色合いは、怒濤の勢いで互いを攻め続ける。
迫る拳をいなし、左刃を一閃。拳で弾く。スカートが翻り、回し蹴り。上体を床ギリギリまで沈め、そこめがけ走る拳を刃の面で受け止め、雄叫びをあげながら突進。
舌打ちが聞こえ、俺の肩を蹴り飛ばし背中へと踊ると、返しの裏拳。迫る剛腕は風圧の音で解る、それを背面に刃を走らせながら翻りーー後方へバックステップ。
互いに距離を取り静かに、一度視線を交わす。激闘を繰り広げる片桐達は、俺達の奥で戦っているようだ。
「御主人様」
背後に降り立つ声は静かに、俺へと背中を合わせる。ソロと対峙しているのかもしれない。少しだけ荒い呼吸は、鼓動の速さも伝えてくるようだ。
「私も、それを使えますか?」
「勿論だ。シルヴァが確固たる理想を唱えるのであれば、それは使える」
「わかりました。ではーー御主人様の背中は、私がお守りする事が前提でございます。故にーー」
シルヴァの体が熱い。背中合わせの方向で耳障りな笑い声が聞こえ、シルヴァはーーそれを一笑。
「こちらはお任せ下さい」
声音は優しい。優しい声音だからこそ、温もりは心地いい。
「I know the gentle hand warmth (優しい手の温もりを知っている)」
未歩が駆ける。真っ向から俺へと拳を唸らせ、俺は両刃を構える。連打。
「I will hold on to that hand (私は、その手を掴んだままがいい)」
退くことは許されない。背後の存在を守護しなくてはいけない。迫る猛攻を、ひたすら刃で防ぎ続ける。
「When you let go, when will you be able to grasp the next? (離してしまったら、次はいつ掴めるのだろう?)」
一閃。弾かれる。防戦一方では、どうにもならない。とは言え、同質の能力同士では、互いに決定打がない。
「So ー this moment. It is good at this moment (だからーーこの一瞬。この一瞬でいいのです)」
足が半歩後退。手数が違い過ぎる。振り抜く、突く。この動作が恐ろしく遅い。素手の呼び動作、切り返しの速さ。
「Please allow me to connect hands ··· (私が、手を繋ぐことを······どうかお許し下さい)」
だがーー俺は、こんなところで。こんなところで!!お前を含めた全てを、救う為の俺の理想を!!
「I only ー this one moment. I want to walk together (私はーーこの一瞬だけ。共に歩きたい)」
たかが、速度がなんだ。たかが、手数がなんだ。たかが、愛してる人がなんだ。そんなものーー俺は、全てを包み込む!!だからーー
両刃を共に連斬させる。弾かれ、拳が迫る。片方が弾かれるが、もう片方は生きている。防ぐ。即座に一閃。弾かれ、その合間を縫って一閃。未歩の顔つきが変わる。
「That’s why I am a sinner (だからこそ、私はーー罪人なんだ)」
滑らかに、一対の刃が駆け抜ける。半歩前進。そうかーー俺は剣という物を知らなさすぎるみたいだ。使い方は、本当に少ししか知らない。俺の努力不足。
「Please give me punishment. Because I should be tried (私に罰を与えて下さい。私はーー裁かれるべきだから)」
更に半歩前進。受け流し、切り込み、反転ーー未歩の顔が苦悶に変わる。打ち込まれる拳を流し、そのまま拳に添って刃を押し進め。片方の刃が、下段からの切り上げ。
慌てて拳を打ち込み、その最中前進させた体を密着させるようにーー頭突き。互いに苦悶の表情をし、刹那で刃を走らせる。
「I deal manifestation formation ーー(理想顕現形成ーー)」
両方の拳をクロスさせガード。ひたすらーーひたすら切り込む。
上、下、横ーー上斜、下斜、突き。まだだーーまだまだ!!
圧倒的な速度ではない。予備動作が鋭くない、切り込みも浅い。返しも滑らかに行かない。だがーー悪い部分を根本的に排除。最適化。見かけ倒し上等!!
「Death Scythe (死神鎌)」
背後で、蹴りこむ音が響く。時間は稼げたようだ。とは言えーー
「しつこい!!」
合間を縫うように正拳。当時のように刃で押し止めーー衝撃。
体をぶち抜く何かが、俺を後方へ飛翔させ。追従するように未歩は駆ける。跳躍。
「おちろぉおおおお!!!!」
唸りを上げるのは機械の籠手。まるでーー大気を吸い込むように、籠手の表面で何かが高速回転。それは、目に見える空気の膜を作り出す。
「Shock wave ーー!!《衝撃の》」
未歩の体が空気の層を纏う。それは、音速を超えた証!!
「Crashed / destroyed fist !! 《墜崩·撃滅拳》」
瞬間ーー俺の体は衝撃だけで、床へと背中から押し潰されーー
「ぶち抜けぇええええ!!」
刹那で迫る拳を睨み付ける。喰らったらーー喰らったら死ぬ。
『···Not lose all right. Believe myself (······大丈夫。負けない。自分をーー信じて)』
内なる声が響く。負けたくないーー負けられない。鼓動。鼓動ーー
『I believed you. You are not lonely (貴方を信じた。貴方はーー孤独じゃない)』
『『ーーーーkarma formation (業の形成) 』』
全ての。全ての光景が、一枚の写真に収められる。一枚の写真は、その光景しか写さない。
『『Once, only once. I want to hold this sight (一度、たった一度。この光景を収めたい)』』
それは、俺が望んだ世界。俺が収めたい光景。しかしーーそれはあり得ない。
『『There is no one to be undrestood by anyone (誰にも、誰にも理解されることはない)』』
当たり前だ。それは傲慢だ。俺が収めたい光景は、俺が収めたいと望んだ事によりーー今まで永久不滅。未来永劫。同じ時を繰り返してきたんだ。
『『You are lonely. You are immutable. You are contradicted (汝は孤独。汝は普遍。汝は矛盾している)』』
それは許されない。俺は許されない牢獄を、永遠に抜け出せない。ただ一人ーー何もかもを忘れて、その牢獄を歩き続けた。
『『To ask questions. Is there an end? Is there the end of this loneliness? (問いかける。終わりはあるのか?この孤独の終わりはあるのか?)』』
望んだ世界を手に入れ、全てを救う為に。今、こうして最後の物語の始まりをーー長かった先を見る為に、書き綴る。じゃあ、未来は?幸せか?不幸か?
『『answer. If you think that it is lonely, you are alone and only want to disappear ー (答える。孤独だと思うのならば、汝は孤独で無くなればいいだけだーーと)』』
そんなことは誰にも解らない。それでもなお、俺は願う。望んだ世界。望んだ光景。切り取った写真の光景。
『『Taht is a contradiction. Say that you can fight lonery and say you will not be lonely (それは矛盾だ。孤独に戦えと言い、孤独になるなと言う)』』
俺はそれを大事に仕舞う。孤独ではないと。戦えと望めと、それを実行するのであればーーお前は生涯孤独に戦う。それはそうだ。この世界をこうしたのは、俺が望んでそうしたからだ。
『『So what. Thon art that is thine (だからどうした。汝は、それでこそ汝である)』』
でも、願わくはーーこの孤独を終わらせて欲しい。
『『No one can deny the ideal that you envision (汝が思い描く理想は、誰も否定できない)』』
罰は受ける。この身、因果応報を受け続ける。ただ、それでもーーそれでも、救いはあると······
『『So then, see the end of contradiction (ならばこそ、汝は矛盾の果てを見よ)』』
本を開くんだ。そこに描くのは、俺は救われたい。全てを救いたいと、全く逆の事。矛盾。
『『Thou at good. You are forgiven. Wrap up all of you (汝はそれでいい。汝は許される。汝の全てを包み込もう)』』
身を焦がされる。描く度に、俺は業火に身を焦がされる。これは罰だ。全てを救いたいとし、自己を愛する罰だ。
『『You are not lonely. I have seen. Because of that, I decided to keep seeing you forever eternally (汝はーー孤独ではない。私は見てきた。故にーー未来永劫、汝を見続けると決めた)』』
それでもーーここで、へし折れるわけにはいかない。俺は描き続ける。描いて、描いて、この物語をーー完結させなくちゃいけないんだ。
『『Let’s recite. To contradict yourself, to know the future (故にーー唱えよ。矛盾した汝の、その先を知るために)』』
光景を収め、文字を書き込み、始まりの終わりへと向かう。その為のーーただ一つの物語。それは、俺が望んだ世界のおとぎ話!!
『『Reincarnation (再生)』』
本がーー無数の数限りない本が、古びた机から、一冊ずつ綺麗に本棚へと収納されていく。凄まじい速度、凄まじい数は、尋常ではない本棚をびっしりーーそれこそ世界を埋め尽くす。
『『Alice is alive(アリスは生きている)』』
圧倒的な光景。見渡す限りの本。見渡す限りの本棚。古びた机の周囲には、無限とも思える図書館が、出来上がった。
圧倒的な光景を前に、微かに動いた指が何かに触れる。それは一冊の本。真新しい、赤茶色の一冊の本。それがーー
『待っていました。この瞬間を、ずっと待っていました。あなたを、ずっと見続けた。果てのないーー無限のような時間。あなたを、ずっと見続けていました』
語りかけるのは、優しい声。何だろう?聞いた事のある声じゃない。だというのに、俺は、酷く胸を締め付けられる。
『ようやくーーようやく。あなたを救える。あなたに触れられる。あなたを、孤独にはさせない』
『私がーー守る。全てを許し、全てを愛し、全てを救う。あなたを見続けた私が、あなたを救える。この瞬間を······本当に長かった、この瞬間を。私は、あなたを許します』
本がーー真っ白の光を放つ。純白。その光は、俺を優しく包み込む。
『全てをーーこの世の全てを、私は見てきた。長い······本当に長い牢獄。だからこそ、共に歩んだ。共に学んだ。共に繰り返した。そして、私は見続けた』
『自問自答を繰り返し、様々な事を体験し、それでもーーここまでやって来た、あなたを······見続けた。だから、孤独にはさせない。させるわけがない。あなたが嫌でもーーあなたの全てを包みます』
純白の光が、俺の世界を飲み込む。本当に、優しいんだ。何もかもーー今までの罪も、罰も、すべからく等しく愛せるような、優しさ。
『唱えて。私をーーで······』
純白の光は、世界を動かす。切り取った世界がーー時間を取り戻す。
『『Akashic Record ー manifestation!! (アカシックレコードーー顕現!!)』』
全智を知る、全てを包み込む純白の光がーー溢れだした




