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ガラスの世界  作者: 旧式突撃歌
序章~正義の味方の話~
3/36

倒れた後、闇の中で~世界への誘い~

 真っ暗な世界にいた。どこを見渡しても、黒一色の光景。ここにいてもしょうがないと思い、一歩を踏み出すと、黒い世界にほんの少しだけ、亀裂が入った。


 卵の殻が割れるように、パラパラと細かい欠片がそこから落ちていき、俺はその亀裂へと歩き出す。


 正面に入った小さな亀裂に近付くと、そこから眩い光が溢れてくる。欠片が邪魔で、亀裂の中が上手く見えないせいで、この亀裂自体が発光しているかのようだ。


 何があるかわからないが、ここでじっとこれを眺めていても、どうしようもないと思い。剥がれそうな欠片に手を伸ばす。


 欠片はあっさりと黒の景色へと落ちていき、俺は隙間が開いた所から、眩い光の中を覗きこむ。


 瞬間、俺は光に飲み込まれる。あまりの眩しさに両腕で顔を隠し、光の中へと飲み込まれていく。


 どれくらい時間が経過したのか、眩しさが無くなった為目をうっすらと開くと、今度はまた真っ暗闇。両腕を静かに下ろし、また辺りを見渡す。


「どうして、正義の味方になりたいの?」


 不意に、そんな質問をされる。何処かで聞いたことのあるような声で、鈴の音のような、とても澄んだ声で女性だと解る。辺りを見渡しながら、姿を探ろうとするとーー


「そんな事を願ったことないよ?正義の味方なんか、いるわけがないんだから······」


 まるで、幼い子供のような声が返答する。聞きなれたはずの、自分の声ではない。問いかけをしているのと、会話しているのは、俺じゃない誰かなのか?


「いるわけがないって、どうして思うの?」


「だって·····助けてくれない。正義の味方は、困ってる人を救うんだよね?悪いのを全部倒してくれるんだよね?」


「僕は、何度も願ったよ。何度も、繰り返し」


 なんだ?これはーーこのやり取りは、一体なんだ?何を俺は聞いているんだ?こいつは、誰だ?


「僕にはわからない。正義の味方なんて、いるわけがないんだ······いるならさ、いるならーー僕を救ってよ!!」


 泣き出しそうな声。絶叫のように響く声に、俺は頭を抱えるように膝をつく。頭痛が酷い、頭が割れそうだ。


「そっか、救って欲しいんだ?願ったのに、救ってもらえなかったんだね。正義の味方は、現れなかった」


 違う!!頭を抱えたまま、体全体を使い否定する。正義の味方を、ヒーローを否定することは許されない。それは、俺のーー


「そうだよ。僕は、だから、正義の味方なんかーー」


 世界が崩れそうになる。足元の感覚が一瞬で失せる。それは、まるで呪詛のような······


「そんな妄言なんか、絶対に信じない!!」


 夢が無い。希望がない。未来が閉ざされる。


 気付けば、俺の身体は何かに横たわっていて、何だろう?と手を触れれば、硬くひんやりとした感覚が手のひらを通して伝わる。


「貴方、面白いね~ふふっ······いけないいけない。あまりに面白い話だったから、つい笑っちゃった。ごめんね?」


 ひんやりとした感覚を手のひらで押しながら、力を込めるがびくともしない。立ち上がろうと思い、背にしているものに手をつくと、水気のような、でも粘っこい液体?のような物に触れる。


「笑ってもいいよ。僕はね、本気でそう思っているんだ」


 一体何だろう?何の気なしに、手を上げる。顔に見えるように正面に手のひらを向けーー


「そう。じゃあ、貴方はーー救って欲しいと願うのね?」


 よく見えない。何だか解らない。暗いせいだな、明かりを······さっきの光があれば、見えそうだな。


「······僕は、そんなこと思ってないよ。僕が、僕だけが、救われる世界なんかいらない」


 あの光はどこへいったんだ?そもそも、このゴツゴツした壁に、無性に腹が立つ。あいつらも何時までくだらない話をしているんだ?そもそも、どうして俺はここにいるんだ?


「見つけた。ようやくーー」


 頭上で声が響く。顔を声の方向へと動かそうとするが、身動きが出来ない。腕もいつの間にか床に落ちていたようで、動かそうとするがまるでびくともしない。


「長かったわ。物凄く、長かった。どれほど、待ち望んでいた瞬間か······貴方には解らないでしょうね」


 何の話だ?問いかけようとして、口は開かない。意味がわからず、唇を動かそうともがくが、全くの無意味。


「ようやく、始められる。貴方を見つけるのは苦労したわ。まさか、ここまで手こずるとは······ね。思っていなかったもの」


 お前は誰だ?俺を探していた?どういうことだ?言葉にならない声をあげ、体を動かそうと必死になる。


「さあ、始めましょう。おめでとう。貴方が望んだ事をーー叶えてあげるわ。優しい、優しい世界で」


 意味が解らない。貴様は誰だ!?何の目的がある!!答えろ!!


「さあ、新規探求ニューゲームを始めましょう」


 ゲーム?何の事ーー


「······きて、起きて!!起きてよ!!イヤだよ!!お願い······だからあ」


 泣いている?誰だ?聞きなれた声が、俺を揺さぶっている?


「なんでもするから!!私、あたしを、置いていかないでよお!!」


 ああ、そうか。俺は、倒れたんだった。あの意味のわからない世界から帰ってきたのか?夢?にしては、現実リアル過ぎたし······


「起きてよ······起きてよぉ」


 まずは、泣かせたままをどうにかしないといけないな。腕、動くな。よしーー


 ひんやりとした床に手をつく。どうやら、身体を正面に向けてくれていたみたいで、ほんの少し力を入れたら、上体が起き上がれそうだ。


 瞬きをする。泣き晴らした顔が正面にみえ、目が合うと、彼女は目を見開き、大粒の涙が頬に降り注ぐ。


 腕に力を入れ、手のひらで床を押し返し、俺はようやく上体を起こす。彼女は、そんな俺の動作に体を一瞬後退させながら、背中にちゃんと手を添える。


 温かい、力強い、支え。


「おはよう。悪いな、寝てたよ」


 なるべく、普通に挨拶を言う。何でもないと、ただ寝ていただけだと。普段と変わりはない事をアピールし、彼女に微笑む。


「うしょ、うしょだよ~だって、倒れてーーあたし、一人になっ······やだよぉ!!」


 起きたばかりの俺目掛け、彼女は抱きつく。


 威力的にはラグビーのタックル並みの衝撃と速度があるような感覚に、後頭部から床に叩きつけられるのでは?と思うほどの突進力。たまらず、片手で床を押し返し気合いで耐える。


 グズグズと泣き止まない彼女に、困ったように髪を軽く撫でながらため息を軽く吐き出し。


「お前な·····加減という言葉を知れバカものが」


「うぅ······そんなの、知らないよぉ。嬉しくて、凄く嬉しくてーー」


 泣き止まない彼女にどうしていいか解らず、とりあえず、怒られない範囲でどうにかしようと思い。少しだけ上体を起こす。彼女も自然と体と顔が上を向く。


 彼女の頭に、そっとーー手を添える。彼女の体がピクっと震え、触ったのが不味いのかと慌てて手を引こうとすると、下から覗き込む彼女の顔が視界一杯に広がりーー


「あ、たま。撫でたい?の?」


 潤んだ真っ赤な瞳が、凄く艶かしい感じに俺を見つめ。頬が真っ赤に染まり、困ったように形を変形させた小さな薄いピンク色の唇が、熱い吐息と共に蠢く。


 なんだこれは?何が起きたんだ?おかしい、どうしたというんだ?


 心臓の音が、鼓動が、互いに共鳴しているかのような錯覚に陥る。心臓の音、吐息、擦れる布地の音。よく見れば、ほどよい胸が俺の胸板に押し潰されーー


「こわ······くないから。いいんだよ?」


 顔が近づく。唇がくっつく錯覚。歯痒い。


 吐息が重なる。気付けば二人とも荒い呼吸を繰り返していて、彼女は優しく微笑むと、おもむろに腕を背中に回し、その感触に俺の体は震える。


 それを優しく撫でて落ち着かせるようにしながら、俺の後頭部にいつの間にか腕を回し、彼女は目を閉じると俺の頭が静かに押されーー


「よおおおーーー!!龍人たつと!!聞いてくれよ!!今日さ、ヤバかったんだよ!!」


 玄関から家中に響くような声が木霊する。一瞬理解出来ずに、両者は互いの今の状態で固まるしかなくーー


 ドタバタと足音と、袋がガサガサなる音を響かせながら、奴は現れた。


「いやさー今日さ、超当たったの!もう、ホクホクで······さ?」


 コンビニで色々買い込んできたのだろう、大量に物が入った袋が床に盛大に音を立てて落ちる。お互いに見合い、完全に硬直。


「······」


「······」


 事態を把握したのは、乱入者が早かった。頭をかきながら、うすら笑いを浮かべつつ、ほんの少し後ろに足を引くと、落としたコンビニの袋を何事も無かったように拾い上げ。


「テイク2行くか!!」


 そんな声に、乱入者の背中へと近くにあったスリッパが飛ぶのは、ほぼ同時だった

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