10.そして、はじまりの日
トマスさんが・・・赤くなっていた。そして「ミレイア・・・・」と低い声で一言。
私はきょとんとしていたけど、ミレイアさんは「え?もしかして・・・・あら、ごめんなさい。」と謝っているのに、顔がニヤニヤしている。
「・・・・エルシー、行くぞ」そういうと、有無をいわせずまた私の手を強引につかんで店を出た。
それを見ていたミレイアさんが、なぜか楽しそうに「うふふ。お幸せにね♪」と手を振った。
王都はいつのまにか夕方になっていた。
そろそろ実家に戻らないといけないんだけど、トマスさんは手を放してくれる気配がなく、そのまま王宮庭園まで来てしまった。
「トマスさん、手を放してください」
「・・・・・」
「エルシー、もう少し付き合ってくれないか。ちゃんとブラン食堂まで送るから」
「・・・はい。」
私の返事を聞いて安心したのか、トマスさんが手を放し二人で近くのベンチに座る。
黙っていると、トマスさんが口を開いた。
「あのさ、エルシー。誤解は解けた?」
「・・・・はい。不倫だなんて誤解してすみませんでした」
「そっちかよ。俺はミレイアと過去にもつきあったことはないよ」
「あの。さっき、ミレイアさんが・・・・」
「ん?」
「だれもトマスさんが作ったホットチョコレートを飲んだことがないって言ってました。もしかして、飲んだことがあるのは私だけ、ですか?」
「・・・・そうだよ。エルシーのためだけにあの店で一番上質なチョコを買ってた」
トマスさんが私のほうを見つめる。
私はどきどきしてしまって、トマスさんを見ることができない。
「さっき、エルシーが恋人同士のふりをやめたいって言ったけど」
「はい」
「わかった。ふりをやめよう。今まで嘘をつかせてごめんな」
「いいえ。」心苦しかった恋人同士のふりは、終わり。ほっとしたはずなのに、どこか空っぽだ・・・。
「俺は、普通厨房に誰か来てもお茶を一緒に飲んだりしないし、ましてや別に飲み物を作って出すなんてことはしない。エルシーは、俺にとって特別だから。少しでも長く厨房で一緒に過ごしたかったんだ」
「トマスさん・・・・あ、あのね。トマスさん。私・・・私、ミレイアさんにやきもちを焼いたの」
「え」今度はトマスさんが驚いた。
「ト、トマスさんに恋人が出来たって思ったら悲しくなったの。ふりでも、一番近くにいるのは私って・・・・」言ってる途中で、言えなくなったのはトマスさんに抱きしめられたから。
「トマスさん?」
「トマス、だ。エルシー呼んでみて?」
「え。」
少しだけ顔を上げると、トマスさんが期待をこめた顔をして私を見る。
「呼ばないと、キスするよ?」
「あわわわわ。呼ぶ、呼びますっ・・・ト、トマス」
「・・・なんだ。キスができると思ったのに。・・・エルシー、好きだよ」唐突に言われて、私はたちまち顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「私も・・・」と言う代わりに私は思い切ってトマスさんの背中に手を回したのだった。
読了ありがとうございました。
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エルシーとトマスの物語、完結しました。
たぶん、私が今まで書いた中で一番糖度が高い作品かと思われます。
それにしても、8~10話って書いておいてプロローグいれたら
11話・・・。すみません、ちょっと多くなりました。
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