8 森で出会う
木々は好き勝手な形で立っている。
傾いたもの、裂けたもの、途中でねじれたもの。
それなのに、どこを見ても似た印象を受ける。
だが視線を外し、もう一度見たとき――その形が、わずかに変わっている気がした。
肩甲骨あたりで揃った赤髪の毛先を指先で弄ぶ。
「ハナコ、どこ行ったんだろ」
どれくらい進んだのかは分からない。
同じところを回っている気もするし、まったく違う場所に来ている気もする。
「……ま、いいか」
小さく呟く。
止まっても仕方ないし、考えてもたぶん意味はない。
だったら、このまま歩いていれば――。
そのうち、どこかには出る。
根拠はない。
――零時が近い。
前方に人影が見えた。
◇
木々は好き勝手な形で立っている。
傾いたもの、裂けたもの、途中でねじれたもの。
それなのに、どこを見ても似た印象を受ける。
だが視線を外し、もう一度見たとき――その形が、わずかに変わっている気がした。
赤髪の魔女を探し始めて、二か月。
いまだに出会えていない。
噂を聞いてこの森にも来たが、また偽物だったらと考えると気が滅入る。
「……次も偽物なら、もう諦めるか」
そう呟きながらも、次は本物に会える気がした。
根拠はない。
――零時が近い。
前方に人影が見えた。
赤髪の女が、こちらへ歩いてくる。
お互いの視線が合う。
この旅の中で、【赤髪の魔女】を騙る偽物を、幾度も見てきた――。
一目で分かる。
こいつがホンモノ。
緊張と微笑みを浮かべ、赤髪の女を見つめる。
「赤髪の魔女……やっと見つけた」
「なんか用?」
赤髪の魔女はわずかに首を傾げた。
「聞き飽きてるかもしれないが――」
腰のナイフを抜き、つかんだ髪束に刃を滑らせる。
「お前を探してた」
ばっさり切った髪に魔力を込め、光へと変換させる。
変換させた光を左腕に纏い、掌を赤髪の魔女へと向けた。
赤髪の魔女は意にも介さず、こちらへ歩み出す。
「私が勝ったら、おかっぱにしてあげる」
左腕から光を放つ。
その瞬間、赤髪は地を蹴った。
獣じみた加速で光を躱し、一直線に間合いを詰めてくる。
左腕に纏わせていた光を、全身へ走らせる。
迫る間合いに合わせ、出力を分散――受けに回る。
赤髪の拳が、私の腹を下から抉るようにめり込む。
「がはッ…………!?」
防御が貫かれ、次の瞬間、全身の光が弾け飛んだ。
素の攻撃で私の魔力を貫通する威力……。
これが赤髪の魔女……。
距離を取るため、殴られた勢いも利用して後方へ跳ぶ。
だが、赤髪はその間合いごと踏み潰すように、こちらへ踏み込んできた。
私は腰のポーチからマナグサを取り、魔力を込めた。
――そして瞼を閉じる。
左手で銃の形を作り、赤髪に向けた。
直後、指先から閃光を放った――。
月を打ち抜いた、あの時と同じ閃光。
それは赤髪の腹部を通り抜け、遥か後方へ消えた。
お腹に熱を感じるまで、貫かれたことに気づけない。
それほど一瞬の出来事。
赤髪は貫かれた腹部を片手で押さえ、心底驚いた表情でこちらを見た。
「すごい……。
魔力を極限まで圧縮して飛ばしたのか。
全く軌道が見えなかった」
赤髪の魔女はそう言うとナイフを持ち、刃を髪に滑らせた。
「50mm、変換」
切った髪に魔力を灯し、光へと変換させ全身を覆った。
赤髪が逆立ち、陽炎のように周囲が歪む。
破壊的な魔力の密度に、私は一歩退いた。
ナイフを持ち、刃を髪に滑らせた。
「200mm、変換」
ばっさり切った髪に魔力を灯し、光へと変換させ全身を覆った。
赤髪が踏み込み、そのまま顔面に拳が飛んできた。
咄嗟に腕で防御したが、有り余る威力で体ごと吹き飛ばされる。
吹き飛ばされながら、左手で銃の形を作る。
瞼を閉じた後、全身の光を左手だけに集め赤髪に向けた。
二度目の閃光。
赤髪の顔面を捉え、直撃した。
しかし今度は通り抜けない。
閃光は赤髪の魔力を貫けなかった。
衝撃でわずかに動きは鈍ったが、すぐに間合いを詰める。
胸ぐらを捕まれた瞬間――。
爆発とともに意識が消えた。
*
ぱち、と音がした。
そして横からじわりと熱が伝わってくる。
目を開ける。
視界の端で、火が揺れていた。
ゆっくりと体を起こす。
焚き火の向こう側に、赤髪の魔女がいる。
視線が合う。
「あ、起きた。体は大丈夫?」
受けたはずのダメージがないことに戸惑っていると赤髪が答える。
「私の魔法で治療したの」
「どうして……」
「ほっといたら死んじゃうでしょ」
火をいじりながら言った。
「私は殺す気だったのに、優しいんだね」
「もったいないって思ったんだ」
「もったいない?」
「あんなカッコいい魔法、初めて見たから。また見たいじゃん」
「私は二度と見たくないけどね。あなたの魔法」
そう言って立ち上がる。
「もう行っちゃうの?」
「……帰る」
立ち去ろうとする私に、赤髪が声をかけた。
「私、キリエって言うの。あなたは?」
「ユリ……」
振り返らず答えた。
「そっか。ユリまたね!」
数歩進んだ後、キリエの方へ振り返る。
「そうだ、私の髪切ってよ」
え? とキリエは目を丸くする。
「負けた時の約束。おかっぱでしょ」
「楽しかったし、今回はなかったことにしてあげてもいいよ」
「妹に、仇討ちって言って出てきたんだ――」
私はナイフを取り出す。
ためらいもなく、束ねた髪に刃を滑らせた。
ざくり、と重い音が落ちる。
「綺麗なままじゃ、帰れないでしょ」




