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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第48話 魔法少女よ、永遠に(その5)


 *


「へえー、やるじゃない。あの子たちの力を見縊っていたわ」


 エミは、テレビモニターの画面に映る、ゴーレムを粉砕した“我が弟子”たちの雄姿を、感心しながら見入っていた。


「ふふふ、ゴーレム一体を倒すためにこれだけ手こずっているようでは、先が思いやられるわね」


 意識を取り戻したアリスが、皮肉を込めて言った。


「あら、お目覚め? 女王様」


「誰が女王様よ。それより、今の闘いを見てわかったけど、あの子たちは、我々アイオンの計画にとって、さほど脅威ではないことが判明したわ」


「何強がり言っているの? あなたご自慢のゴーレムも、あの通り、あの子たちが力を合わせれば倒せることが証明できたじゃない」


「確かに、一体ならば、ね」


「一体ならば? それ、どういうこと?」


「まさか、私たちがゴーレム一体で人類を殲滅しようとしているだなんて、思っていたの?」


「ということは、私たちが昔戦ったときと同じように、数体のゴーレムを準備しているわけね」


「ふふ、数体、ねえ」


「何よ、その笑いは。この際、はっきり言いなさいよ」


「私たちが動かそうとしているゴーレムは、すでに世界中に手配済み。その数は、約1万体よ。

 人類を駆逐するには十分過ぎるんじゃないかしら。

 人類リセット計画が本格的にスタートすれば、このゴーレムたちが世界各地で一斉に起動することになってるわ」


「どう、驚いた?」と問うアリスに対して、エミは余裕の笑みを返した。


「そうかぁ、一万体かぁ、ちょっと多いけど、その時は、その時。あの子たちが今のように粉砕してくれると信じてるわ」


「何言ってるの? そんなの無理に決まってるじゃない」


「っていうか、そのゴーレムは、世界中にストックされている核兵器と同じでしょ? 

 使われなけば危険はないわ。つまり、あなたたちアイオンがそのゴーレムを起動しなければ安全というわけよね」


「……ここで、私を殺そうというの」


「まさか、あなたを捕まえて、国際機関でちゃんと裁判してもらうわよ」


「ゴーレムのありかを私が白状するとでも思ってるの?」


「まあ、私も、あなたと同じ“魔女”だし、人類には私たちのような脅威もあるということを知ってもらうのも悪くないわね。

 世の中の悪に対する抑止力として、最終兵器のゴーレムがどこかにある、でもその場所ははっきりしない。まあ、それもありといえば、ありかな」


「あなたが、案外食わせ物だったってこと、今思い出したわ」


 アリスが力なく笑った。


 *


 手足を捥がれたゴーレムに、多少なりともショックを受けていたマリーだが、すぐに気を取り直した。


「まあ、そんな木偶の坊、別になくたって構わないさ。

 最初から、自分のものじゃなかったし」


 重たい武器を身体から投げ捨てて身軽になった軽騎兵さながら、杖を2、3度クルクル回してから構え直した。


「ふ、どうやら、魔石を身に着けてるようだね。さっきとは段違いの魔力を感じるよ。

 だが、お前の攻撃パターンはすでに見切ったよ。

 お前の能力は、周りにいる者の魔力を奪い取って使うというものらしいね」


「違います。アリスさんも同じようなことを言ってましたけど、それはエミさんが否定してくれました。

 私の能力は、皆の力を奪うんじゃなくて、皆と力を合わせて仲間と連携することだって」


「どっちでも同じことだよ!」


 マリーが苛々して叫んだ。


「いいから、いくよ」


 マリーがいきなり攻撃を放った。

 しかし、戦いに慣れつつあるのか、ケイトは、その攻撃が当たる寸前に、ジャンプして躱すことができた。

 そして、反射的にカウンターでマリーに攻撃を放った。

 これは自分でも驚きだった。

 実際、マジック・ワウンドを使った光の攻撃は、この時が初めて放つものだった。

 アリスやマリーが操るその攻撃を受けているうちに、自然に覚えてしまったのだ。

 残念ながら、その初めての試みは失敗に終わった。杖振り方が大き過ぎたせいで、マリーは簡単に避けることができた。

 だが、ケイトは、初めての試みで攻撃を放てたことの方が嬉しかった。


「お前、攻撃を外したのに、何を喜んでるんだ、気持ち悪い」


 嬉しそうに笑うケイトに、マリーが不快そうに顔を歪めた。


「そうか!」


 その時、ケイトは閃いた。


「アオイちゃんを救う方法は、これしかない」


 何を思ったのか、ケイトはマリーの元に飛び込んでいった。

 接近戦を挑まれると思ったマリーは、自らを防御しようとして体の前で杖を構えた。

 ところが、ケイトは攻撃を加えるのではなく、マリーの体に抱きついたのだ。


「うわ、なんだ、コイツ」


 マリーはいきなり抱きつかれて、顔を赤らめた。

 ケイトの生暖かい体温が薄い衣装を通して、直に感じられた。


「やめろ、気持ち悪い」


「アオイちゃん、目を覚まして!」


「だから、私はアオイじゃないと言ってるだろ!」


 ケイトは、マリーの言葉には耳を貸さず、相手の体を抱きしめたまま、渾身の魔力を振り絞り、“ある魔法”をかけた。


「マリーさん、アオイちゃんから離れて、あの魔石に戻って!」


 それは一か八かの転移魔法だ。

 物質に通用するなら、精神にも通用するかもしれない。

 マリーの魂をアオイの肉体から引き離し、魔石に戻す。

 それが可能であれば、“すべて”が終わる。


「うがあああああ」


 マリーの絶叫が響いた。

 ケイトはマリーの体を抱きしめたまま、さらに魔力を振り絞った。


「ケイト!」


 ゴーレムを倒したあと、二人の様子を見守っていた黒チームの四人が、心配の声を上げた。

 ケイトに抱きしめられたマリーの体が小刻みに痙攣し、やがてピタリを動きを止めた。


 ケイトは、マリーに腕を回したままで、二人ともばったりとその場に崩れ落ちた。


「ケイト、大丈夫か!」


 ミサトが真っ先に駆け寄り、ケイトの様子を伺う。


「だいじょうぶ、それより……」


 ケイトは宙に浮かぶゴーレムを、目で探した。

 見ると、ゴーレムの赤い目の光りが先ほどよりも増しているのを発見した。ケイトの視線で周りの全員がゴーレムに注目した。


〈ピシッ!〉


 ガラスにヒビが入るような音が断続的に聞こえ、赤い目を中心に四肢を失ったゴーレムの体がヒビが入った。やがて、ゴーレムは見えないハンマーで打ち砕かれたかのように、バラバラになって地上に落下した。真下にいた人々は危険を察知して逃げ惑い、運悪く駐車していた黒塗りの高級車をスクラップにしてアスファルトに転がった。

 そして、道路の真ん中に、ゴーレムの目から離れた赤い魔石“アンフェル”が、カクテルライトを浴びたルビーのようにポツンと輝いていた。

 サキが反射的に駆け寄り、魔石の回収にあたった。

 一瞬躊躇ったが、素手で魔石を拾うと、ケイトとマリーの元へ持っていった。


「これ、拾っておいたわ」


 サキが魔石を手渡そうとすると、ケイトは「サキちゃん、預かっておいて、あとでエミさんに渡すから」と言った。


 ケイトにはまだ不安が残っていた。

 マリーは気を失い、倒れたままだ。果たして自分の魔法をうまくいったのだろうか。

 すると、倒れていたアオイちゃんの目がパッと見開いた。


「アオイちゃん?」


「あれ? ケイトちゃん、私、どうしてここに?」


「アオイちゃん、だよね、マリーじゃないよね?」


「何を言ってるの? マリーって、誰?」


「よかったああ!」


 ケイトはアオイを抱きしめて泣き叫んだ。

 うまくいった、マリーの魂が魔石に封じ込められたのかどうかまではわからない。

 だが、少なくともアオイちゃんの体から引き離すことはできたのだ。


「アオイちゃん、おかえんなさい」


「え? ただいま?」


 アオイはケイトがなぜこんなにも、自分を抱きしめているのか、そもそも、なぜこんな場所にいるのかわからなかった。

 街の道路の真ん中で抱き合う二人の少女を囲んで、数人の魔法少女が見守っている。

 そのうち、物陰に退避していた人々がぞろぞろと集まり始め、彼女たちの周りを取り囲み、誰ともなく、拍手が起こった。

 やがて拍手の輪はどんどん広がり、少女たちを労う声が飛び交った。


「いいぞ、よくやった!」


「魔法少女、万歳!」


 人々の歓声が鳴りやまぬ中、ケイトの肩に顎を乗せて呆けたアオイの顔に、ほんの一瞬だけ、不敵な笑みが浮かぶのだった。


〈了〉



 一年以上に渡り、不定期に連載を続けてまいりました拙著「魔法少女ノワール・ケイト」は今回を持って、一旦終了となります。

 取敢えずは、終了ということで、機会があれば、彼女たちの活躍をまた別の形で書いてみたいと思います。

 ご意見やご感想がございましたら、ぜひともお寄せください。

 最後となりましたが、これまでお読みいただいた方々に、改めて感謝申し上げます。

 次回作でまたお会いできればと思っております。それまでご機嫌よう!


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