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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第41話 魔石の秘密(その1)


「アオイちゃん?」


 自分の恩師を吹き飛ばして高笑いするアオイに、ケイトは恐怖を感じていた。

 捕まった時のショックなのか、それとも、アリスに魔力を吸い取ら過ぎて、精神的に少しおかしくなってしまったのか、今のアオイはかなり危険なことだけは理解できた。


「アオイ、気は確かか?」


 ナーシャがアオイの元へ駆け寄り、肩を掴んで振り向かせようとすると、その手をパッと払いのけて険しい顔で睨んだ。


「気安く触るんじゃないよ!」


「あんた、誰なのか?」


 アオイのまるで別人のような態度に、ナーシャが反射的に問い掛けた。


「久しぶりに生身の身体を得るのは気分がいいねえ。特に若い子の身体は、よく動くよ」


 アオイは、そう言いながら、両手を組み手のひらを天に向けて大きく伸びをした。


「私は、マリー。マリー・ダスピルクエットさ」


「マリー・ダスピルクエット? その名前、聞いたことあります。

 確か15世紀の頃にいたフランスの魔女ですね。

 あなたが、そうなんですか?」


「よく、知ってるねえ。

 ヴァンサン・フェリエとかいう聖職者に魔石の中に封じ込められてたんだけど、今回、アリスという後輩の魔女のお陰で“外”に出られたというわけさ」


 それを聞いて、ナーシャは物知りだと、ケイトは改めて感心した。


「昔は、魔女というだけで、罰せられた時代があってねえ。

 中には魔女じゃなくて、ただの人間でも魔女扱いされて、火炙りにされていたもんさ。

 私は違うよ。私は生まれたときから正真正銘の魔女だという自覚があった。

 結局、宗教裁判で火炙りにされたんだけど、その際、最後の魔法を振り絞って肉体と魂を分離して別の肉体を探していたのさ。

 ところが、私の魂が宙を彷徨っているというのを、フェリエという聖職者が感づいて、手近にあった“魔石”の中に私の魂を封じ込めたんだよ」


「魔石の中にいても、あなたの意識はあったんですか?」


「ああ、ちゃんと肉体があった時よりも、ぼんやりしてたけど、意識はあった。

 その魔石はフェリアが務める教会の奥にずっと保管されていたんだ。最悪の魔女を封じ込めた魔石ということで、光栄にもアンフェル(地獄)という呼び名を付けていただいたよ」


「なぜ、アオイちゃんの身体を乗っ取ったの?」


 ケイトが尋ねると、“マリー”は心外そうに顔をしかめた。


「おいおい、乗っ取ったって、人聞き悪い言い方しないでくれよ。

 アリスという魔女が、魔石アンフェルを手に入れて、その魔力を使ってゴーレムの中に命を吹き込もうとしたらしい。

 だが、ゴーレムには生命エネルギーを与えることはできても、人の精神までは移せなかった。

 その時、たまたま、触媒にしようとしたこのアオイという子の身体に入り込むことができたというわけだ。別に私が望んで入ったわけじゃないよ」


 アオイの身体を得たマリーは、マジック・ワウンドを片手で器用にぐるぐる回しながら喋り続けた。


「それにしても、この子の身体は、いろんな魔法が使えそうだねえ。いいポテンシャルを持ってるよ。

 この杖なんか、私の時代にはなかった“代物”だけど、こいつはいいねえ」


 そう言うと、マジック・ワウンドの先端をナーシャに向けて、いきなり光を放った。

 不意を突かれて光を浴びたナーシャは、眩しさに片腕で目の辺りを抑えながら、「うっ」と短く唸ってよろめいた。


「何をするんですか、いきなり攻撃するとは卑怯ですね」


「いまさら何を言ってるの、あんたは。さっき言ったでしょ。私は“最悪の魔女”と呼ばれていたんだよ。カカカカ」


 どうやったらこんな獣のような声で笑えるのだろうか。

 アオイちゃんの身体を使って、酷いことをしているこのマリーとかいう魔女は絶対に許せないと、ケイトの中に怒りが込み上げてきた。


「マリーさん、アオイちゃんの身体から、今すぐ出て行ってください」


「へ? 何を言ってるんだい、このお嬢ちゃんは。

 そんなこと言われて、『はい、わかりました』と言って、私が出ていくとでも思っているのかい。

 第一、精神と肉体が融合しているのに、どうやって出てくというのさ、自分でもどうしようもないんだよ、アホが」


 ケイトはアオイの顔で、マリーから憎々しいことを言われて、涙がこみ上げそうになった。


「おっと! お前さん。あんた、かなりの魔力を持っているねえ。

 今怒った拍子に、こっちに魔力の波動がビンビンに伝わってきたよ。

 一丁やるかい!」


 マリーは面白い玩具でも拾ったかのように目を輝かせながら、やや腰を屈めてマジック・ワウンドを構えた。

 その動作に釣られて、ケイトも咄嗟に、臨戦態勢を取った。

 しかし、アオイちゃんの姿を相手に、どう戦えばいいのか、よくわからない。

 ケイトが実践で使った魔法といえば、相手を“消し去る”魔法と、アリス相手に見せた防御魔法ぐらいのものだ。

 攻撃魔法を使うこともできそうな気はしたが、アオイちゃんの身体を傷つけるのはできれば避けたい。

 ここは相手をどこかに消し飛ばすしかなさそうだ。


「おっと、この身体があんたの知り合いだからって、手加減しようと思ってるのかい。

 そんな気構えでいたら、死んじゃうよ、ククク……」


 マリーはマジック・ワウンドの先から塩でも振るように、さっと魔力を放った。

 その軽い腕の振りと相反するように、稲妻のような強力な衝撃波がケイトの足元に落ちた。


「おや? よく避けたね。今度はそうはいかないよ」


 ケイトは避けたつもりはなく、勝手に相手が外してくれたから助かったが、これほど強力な衝撃波がもろに体に当たれば、ただでは済まない。

 相手の次の攻撃が来る前に、ケイトもマジック・ワウンドを振りかぶった。


「えい!」


 先日、埠頭でギャングたちを相手に放った時と同じ魔法を使った、はずだった。

 マリーは、ケイトの魔法を受けると、一瞬姿が薄くなり、そのまま姿が消えてくれるかと思ったが、再び色の濃さを取り戻し元の状態に留まった。

 魔法が失敗したのか、それともマリー相手では魔法の出力が足りなかったのか。


「おっと、危ない危ない。それ、相手を消し去る魔法か何かかい?

 惜しかったねえ、普通の人間相手なら、簡単に消せるところだろうけど、私には力が足りなかったみたいだねえ」


 マリーが冷や汗を掻いたのは本当のようだ。先ほどの馬鹿にしたような笑みが消えていた。

 しかしこれで相手が消えてくれないとなると、ケイトにはもう打つ手がない。


「それじゃ、本気で行くよ!」


 マリーの攻撃が再び始まり、防戦一方となった。

 ケイトは、アリスの攻撃を防いだ時と同じようなバリアを前面に張り巡らした。

 

「なんだい、そうやって攻撃を防ぐだけかい。

 盾の魔法少女か、あんたは」


 ケイトが碌に攻撃できないことを知って、余裕が出たようだ。

 マリーは、不敵な笑みを取り戻して、一旦攻撃を止めた。


「一つ教えて置いてあげよう。私を倒すにはねえ……」


 見下ろすような視線をケイトに向けて言った。


「この頭をぶち抜くしかないんだよ」


 こめかみの辺りを指差して、にやりと笑った。



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