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29 俺は悪魔のルーナと出会った

 昔、希望の家でルフェ先生に聞いたことがある。


 この星がまだ、地球と呼ばれていた時代。

 そこには人間だけが住んでいた。

 悪魔や天使がまだ別々の星に住んでいた時代だ。


 人間はその時、魔法を使えなかった。

 未だ機械の力に頼って、文明を支えていたのだ。


 そこに革新的な技術がもたらされた。

 超能力だとか、心霊現象だとか、色々な言われ方をされてきたけれど。

 人間達はそれらの不思議な現象を確かに見つけて、こう名前を付けた。

 ・・・魔法、と。


 だが、魔法が見つかっても人間の生活が一変するわけじゃなかった。

 魔法が寿命を消費することに、恐れを抱いたからだ。

 宗教的にも禁忌とされた。

 けど、少し時が経ってから、その禁忌は解放されることになった。


 悪魔と天使がこの星にやってきたからだ。

 いや、正確には悪魔の住む星と、天使の住む星が地球へやってきたのだ。

 やってきて、”合体”した。

 衝突して砕けるのではなく、溶けて混じり合った。


 そこに住む人間と悪魔と天使が死ぬことなく、その3つの星は1つになった。

 その時だ。

 この星が地球と呼ばれなくなったのは。

 そして新たに、スティーラと呼ばれるようになったのは。


 そんなことを、何故か夢の中でぼんやりと思い出した。



 ---



 目が覚めると、ベットの上にいた。

 ふかふかのマット。

 暖かい毛布。


 天井は木で出来ていた。

 壁も、床も。

 向かい側には火が現在進行形で燃えている暖炉があった。

 どこか家庭的な、そんな感じの部屋だった。

 きっとここはログハウスなんだろうな・・・とか思いながら、俺は再度寝ようと毛布を頭から被ろうとする。

 だが・・・


 「クロロ!!目を開けて!お願い!!!」

 「ふげっ!?」


 謎の声の主が、俺に心臓マッサージを強引に行った!!

 しかも、俺の腹に乗って全体重をかけて!!


 「死なないで!死なないで!死なないで!死なないでぇぇぇ!!!」

 「へごっ!!ぐべっ!ぶほっ!!あごっ!!」

 「息を吹き返して!!ほら、声のする方へ走って!!」

 「ふがっ!!ほごっ!!ぐげっ!!あばっ!!」


 胸を勢いよく押される度に、俺は奇声を上げる。

 やばい!

 本気で息が出来ない!!


 「やめっ!!ろっ!!おほっ!!がふっ!!」

 「スタンドで心臓をダイレクトに掴むように押すぅ!!スタンドで心臓をダイレクトに掴むように押すぅぅ!!!!」

 「いい加減死ぬわぁぁぁ!!!!」


 俺は火事場のクソ力で謎の声の主を押しのけて、ベットから転がり出た。


 「俺の肋骨と心臓と肺を破壊する気かぁぁ!!!」


 力の限り叫んだ。

 だって、殺されるかと思ったのだから当然だ。

 よく見ると、謎の声の主はハルカだった。


 「お、お前何やってんだよ!?」

 「そんなに怒ることないでしょう?ただのハートマッサージくらいで」

 「そのハートマッサージで俺はデッドオアアライブを彷徨ったんですが!?」

 「ハートキャッチプリ〇ュアが大好きなクロロのことですから、心臓(ハート)をキャッチされたら嬉しがるかなって思ったんです」

 「心臓をキャッチしたら普通死ぬよ!?と言うかハートキャッチプリ〇ュアなんて俺見てないし!!」

 「ああ、プリ〇ュアシリーズでは初代派なんでしたっけ?」

 「そんなに俺はマニアックじゃない!!」


 何で俺が女の子系のアニメが好きなことになってるんだよ。


 「てかここはどこだよ!」

 「精神と時の部屋です」

 「嘘吐けや!」

 「私が嘘吐いてることを証明する物的証拠でもあるんですか?」

 「木製の壁に飾られてる時計の長針が、さっきからチクタク進んでるんだが?」

 「あれは・・・目の錯覚です」

 「誤魔化し方がヘタすぎる!!」


 ベットから起きて早々大声を出しっぱなしの俺。

 少しだけ頭がクラッとして、よろめいてしまう。


 「・・・大丈夫ですか?」

 「俺を心配してくれるなら、ボケはなしにしような(泣)」

 「無理です(キッパリ)」

 「ですよね~」


 いや、もう分かり切ってることではあるからいいんだけども。


 「で、ここはどこだ?」

 「私の家よ」


 俺の疑問形に答えたのは、ハルカではなかった。

 聞こえたのは冷えた声だ。

 感情的にもそうだし、何より物理的にも涼しげな類の声色。

 そんなツンツンな音を発した奴が、ドアを開けて部屋の中に入ってきた。


 「良かった。3日も目を覚まさないから心配したけど、大丈夫そうね」


 言葉は優しげだが、極めて冷静に彼女はそう言った。

 そう、彼女だ。

 女なのだ。

 さらに付け足すと、悪魔の女。


 年齢は20代前半くらいか。

 水色の髪の毛に、これまた水色の瞳。

 角は控えめに生えていて、髪飾りみたいに見える。

 清楚な顔立ちで、これほど美しいという言葉が似合う女性も中々いないな、と思わせるレベルだった。

 服装は優雅ではなく、むしろロングスカートに白シャツという質素なものだったが、そこが逆に清楚っぽい。

 以上、大変な美人さんであった。


 「私、ルーナ・レイジア・ウルファンスって言うの」


 ん、挨拶されちゃったな。

 これは返さないと失礼か。


 「・・・クロロだ。よろしく」


 お互いに握手する。

 彼女の手は、ひんやり冷たかった。

 まるで雪女みたいだ。

 きっと彼女の持ってる魔法が影響してるんだろうな。


 「もしかして、お前が俺達を助けてくれたのか?」

 「3人が浜辺に打ち上げられているところを見たら、助けないわけにはいかないでしょ?」


 そうか。

 俺達は・・・あれから浜辺に流れ着いたのか。

 それはとても運が良い。

 本当に良かった。


 「・・・サリアは?」

 「別の部屋で寝てるわ。今、午後10時くらいだからね」

 「だいぶ夜に起きちゃったな」

 「なら、寝直せばいいじゃない」

 「いや・・・」


 ここがどこかも分からないのに、安心して寝られるわけがない。

 あの強力な処刑者がやって来るかもしれないのに。

 そう、処刑者だ。


 殺されるところだった。

 死ぬ一歩手前まで来ていたのだ。

 覚悟していたこととはいえ、あれは怖い。

 出来れば、もう2度と会いたくないと思えるぐらいには。

 そんなことを思った俺の緊張の原因に心当たりがあったのか、彼女が淀みなく答える。


 「ああ、ここなら処刑者は来ないから大丈夫よ」

 「・・・事情を知ってるのか」

 「そこにいるハルカさんに教えてもらったわ」


 ハルカの方を見ると、呑気にへらへら笑っていた。

 まるで他人事だ。


 「彼女に感謝しなさいよ?気絶した貴方を海からここまで連れて来たんだから」

 「・・・俺は出会った時から彼女に感謝してるさ」

 「あらそう」


 クサイ言葉に淡白な言葉。

 相容れないと思われがちな両者は、奇妙な程すんなりと交じり合ってなくなった。


 「お前、俺達を・・・外の連中に引き渡すのか?」

 「どうしてよ?」

 「どうせ俺達が、処刑人に襲撃されてここに流れ着いたってのは知ってるんだろ?」

 「もちろん。私が貴方達を助ける以上、ハルカさんには全て洗いざらい事情を話してもらったわよ」

 「だったら、俺達が危険指定者ってのも知ってるはずだ」

 「ええ、だから?」

 「だからって・・・俺達が危ない存在だとか思わないのか?処刑人に俺達を引き渡した方が厄介ごとにならないとか思わないのか?」

 「全然」


 態度を全く崩すことなく、クールに言ってきやがる。

 テロリストに対して、恐れもなく話しかける奴はおかしい。

 それと同じだ。

 こいつ、普通じゃない。

 良い意味でか、悪い意味でかは分からないが。


 「そもそも、何を以って危険とするかは、人それぞれなんじゃないの?」

 「・・・包丁を持っている気の触れた巨漢は、万人に対して危険と言えるだろ」

 「巨漢を簡単に倒せる手練れなら、危険じゃないわ」

 「テトロドトキシン(猛毒)は?」

 「猛毒に耐性を持っていれば、危険じゃないもの」

 「アバダケダブラ」

 「死の呪文は存在しない」

 「・・・本当に淡白っすね」

 「私、フィクションに興味はないのよ」

 「でも、死の呪文を知ってたじゃないか」

 「知ってるだけよ。好きじゃないの」


 話が逸れていることが気に食わないのか、彼女・・・ルーナがしかめっ面を俺に見せつけてくる。

 ああ、なるほど。

 表情を使って、自分の感情を伝えるのが上手いタイプか。

 ポーカーフェイスとか得意そうだな。


 「・・・どうして俺達を助けたんだよ?」


 率直な疑問。

 俺的にはストレートに言った方が、彼女みたいなタイプとは話しやすいだろう。

 うわべの取り繕いはいらない。

 自分を隠すことがどれだけ心に負担をかけることなるか分かっているからだ。

 俺はそういうタイプの人間なのだ。


 「助けるのは当たり前でしょ?目の前に死にかけの人達がいて、助けない方がおかしいわ。前時代の人間でも、救急車を呼ぶくらいはするでしょうに」

 「それが危険指定者だとしても?」

 「犯罪者でも、治療を受ける権利はあるわ」

 「俺達がここから無理矢理逃げるって言っても?」

 「本当に逃げる気ならそんなこと言わないわよね。それに、どっちにしろ治療はするわよ」

 「・・・何でそこまで俺達のことを気に掛ける?」


 俺の質問が、彼女の聞かれたかったことなのだとすぐに分かった。

 彼女がニヤッと笑ったからだ。


 「何でだと思う?」

 「分からないから聞いてるんだが・・・」

 「まあまあ、とりあえず答えてみて」


 促されて、つい乗り気になってしまう俺。

 こういう無駄な誘いに弱いんだよな。


 「俺達を奴隷にしたいから?」

 「違うわ。私、そんなに悪人に見えるかしら?」

 「いや、俺の連れがそういうことを言ってたもんでな」

 「・・・ハルカさんが?」

 「おう」


 当のハルカはと言うと、恥ずかしい記憶を思い出したかのように両耳を塞いでうずくまっていた。

 うん、ハルカにとってあの思い出は黒歴史か。

 素直に俺と一緒にいたいって言えなかったんだもんな。

 そりゃあ恥ずかしいか。

 いや、なんかハルカが乙女っぽいような印象を与えるモノローグだったが、俺を奴隷にしようとした方法はゲスいのであしからず。


 「やっぱり分からん」


 素直に俺が降参すると、彼女は冷たく軽く美しく、とんでもなく驚くようなことを言った。


 「そもそも、私も処刑者だからって言ったら?」


 その言葉にゾクリときた。

 背筋が凍りそうな・・・そんな瞬間。


 「冗談よ冗談。安心しなさいよ」


 ・・・騙された。

 しかも、すごい簡単に。


 「・・・おい」

 「そんなに怒った顔をしないでよ。ね?」

 「言っていい冗談と悪い冗談がある」

 「冗談ではあるけれど、嘘ではないわよ」

 「・・・は?」


 俺が首をかしげたのを困惑とみたのか、彼女は自分を指さしてこう言った。


 「私、元処刑人の危険指定者なのよ」

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