第三話 結衣の大学生活
〈目次〉
・第一節 邂逅
・第二節 壮絶な体験談
・第三節 小さな悪魔
〜登場人物〜
・山崎結衣
19歳。山崎弘・美佐子夫妻の長女。意義人の姉。文学部の女子大生。美白な肌と綺麗な茶色のロングヘア、美脚、丸い小顔が特徴。普段は青いワンピースを着ている。少しだけ女優として活動している。弟の意義人とは喧嘩中だ。
・山崎意義人
山崎弘・美佐子夫妻の長男で、結衣の弟。17歳の男子高校生。結衣と比較すると地味な顔立ちだが、似ている部分もある。姉と喧嘩中。
・山崎弘
山崎義郎・文枝夫妻の長男で、結衣と意義人の父。年齢は45歳。容姿は、眼鏡をかけた地味な丸顔で、髪は少し薄く、小太りである。愛娘の結衣を溺愛している。大喧嘩した妻の美佐子からは口を聞いてもらえず、気まずい思いをしている。
・山崎美佐子
田辺寛夫・優美子夫妻の長女で、結衣と意義人の母。年齢は42歳。顔は結衣と似ているが、結衣よりほんの少し面長。髪型は、若干ウェーブがかかった茶髪。優しい性格。
・山田茜
結衣の高校時代からの親友。髪型は黒いショートヘアで、生意気な顔をしている。悪戯好きな性格。
第一節 邂逅
とある平日の朝、目を覚ました結衣は、いつもの青いワンピースを着て、顔を洗う。結衣は、二階から一階のリビングへ降りる。ダイニングテーブルには、美佐子が作ったと思われる朝食が用意されている。弘は既に家を出たようだ。美佐子は、まだ寝室から出てこない。結衣は、美佐子の様子を少し心配しながらも、女性の平均的な量をかなり上回る朝食をあっさり食べ終える。結衣は自慢の、長くて美しい茶髪を整えると、赤いハイヒールを履いて、大学へ向かう。
大学に着くと、結衣は女友達の山田茜に会う。茜は一般的な大学生の服装をしており、胸の大きさは結衣と比較するとかなり小さい。
茜「結衣〜!おっはよー!またその青いワンピ着てるし。ほんと好きだよね〜。」
結衣「茜、おはよう!別に良いでしょ?これ、お気に入りなんだから。それより、聞いてよ〜。私ね、弟と喧嘩して、ずっと仲直りできてないの。」
結衣は弟と喧嘩してずっと仲直りできていないことを茜に話す。茜は結衣の胸を揉み始める。
茜「これが寂しいやつのおっぱいか?www」
結衣「ちょっと!茜!やめなさいよ!」
結衣は怒る。しかし、茜の悪戯っぽい行動に、少しだけ慰められたそうだ。
結衣「もう、茜ったら。でも…少しだけ、元気出たかも。ありがとう。」
結衣と茜は笑い合いながら教室に向かう。
〜お昼前の授業〜
授業を受ける結衣。青いワンピースと赤いハイヒールが少し目立つ。結衣の隣の席には茜がいる。教室にはたくさんの学生がいる。
空腹を感じる結衣。朝食はしっかり食べたのに、なぜかもうお腹が空いてきた。隣でノートを取っている茜を横目に、結衣は自分の胃袋と格闘していた。
数分後、結衣の頭の中は、学食のことしか考えられなくなっていた。からあげ定食、カレーライス、パスタ…。ああ、どれも美味しそうだ。
「くきゅるるる…」
教授の淡々とした講義が続く中、結衣の腹が鳴り始める。
結衣は必死に腹を抑える。教授の声も、茜のノートを取る音も、全てが遠のいていく。頭の中は、食べ物のことでいっぱいだ。
「お昼休憩まで、残り30分…」
結衣は、時計をちらりと見て、心の中で呟いた。早く、早く学食へ…!
第二節 壮絶な体験談
「お昼休憩まで、残り25分…」
教室は静まり返っている。教授の声だけが、単調に響き渡る。結衣は、顔を真っ赤にして、さらに強く腹を抑える。しかし、虚しい努力だった。
「ぐうぅぅぅ〜」
結衣の腹から、さっきよりさらに大きな、地鳴りのような音が鳴り響いた。教室中の学生の視線が、一斉に結衣に突き刺さる。結衣は、羞恥心で死にそうになる。頭の中は真っ白だ。穴があったら入りたい、とはまさにこのことだ。
隣の茜は、この状況を楽しんでいるためか、無言でニヤニヤしている。結衣は、茜を睨みつけるが、茜は肩を震わせて笑いをこらえているようだ。
結衣「や、やめて…」
結衣は、声にならない声で茜に訴えるが、茜はさらにニヤニヤするだけだ。結衣は、もうどうにでもなれ、という気持ちで、小さくうずくまった。この授業、どうやって乗り切ればいいんだろう…。残り25分が、永遠のように感じる。
茜は、笑いをこらえきれないといった様子で肩を震わせながら、そっと結衣にスマホの画面を見せた。そこには、見るからに美味しそうな、色とりどりの寿司の写真が映し出されている。大トロ、ウニ、イクラ…結衣の好きなネタばかりだ。
茜の手は、笑いで小刻みに震えている。その震えが、結衣の怒りをさらに煽った。
結衣「(あ・か・ねぇぇぇ!!!)」
結衣は、声にならない悲鳴を心の中で叫んだ。目の前にある寿司の写真は、もはや拷問だ。空腹が限界に達し、結衣の理性は吹き飛びそうになっていた。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜っ!」
今度は、先ほどよりもさらに大きく、長く、まるで飢えた猛獣が獲物を求めるような音が、結衣のお腹から鳴り響いた。教室中の視線が、再び結衣に集中する。教授も、さすがに講義の手を止め、怪訝な顔で結衣の方を見た。
結衣は、もう限界だった。顔は真っ赤を通り越して真っ青になり、恥ずかしさで今すぐこの場から消え去りたい衝動に駆られた。隣で震えながら笑っている茜の顔が、今は悪魔のように見える。
結衣「(茜…覚えてなさいよ…!この恨み、いつか絶対晴らしてやる…!)」
結衣は、心の中で誓った。しかし、今はそんなことを考えている余裕もない。早く、早く授業が終わってほしい。そして、一刻も早く、学食に駆け込みたい。結衣の脳裏には、もう寿司の写真しか浮かんでいなかった。
第三節 小さな悪魔
待ちに待ったチャイムが鳴り響いた。教授が「今日はここまで」と告げると、教室は一斉にざわつき始める。結衣は、解放された喜びに安堵の息をつく。しかし、周りからはヒソヒソと笑い声が聞こえてくる。結衣は、耳まで真っ赤にして、顔を伏せた。
隣の茜は、結衣の途中までしか書かれていないノートを覗き込み、わざとらしく質問した。いつもの結衣は、びっしりとノートを埋めているはずなのに、今日の結衣のノートは、前半数ページしか文字が書かれていない。
茜「あれ?結衣ちゃん、どうしたの?今日のノート、全然書けてないじゃん。いつもはもっと真面目なのに〜。もしかして、お腹の虫と戦うのに必死で、授業どころじゃなかったとか?」
茜は、にやにやしながら結衣の顔を覗き込む。結衣は、もうこれ以上ないくらい恥ずかしかったが、同時に茜の悪意あるからかいに、少しだけ怒りを感じていた。
結衣「あ、茜…!もう、やめてよぉ…!私の恥ずかしい姿を、そんなに楽しんでるんでしょ…!」
結衣は、茜の腕をバシッと叩いた。叩かれた茜は、さらに楽しそうに笑う。
茜「いっった!何するのよ結衣!事実を言ったまでじゃん。ていうか、結衣のお腹、ほんと凄かったね〜!教室中に響き渡ってたよ、猛獣の咆哮がさ!」
茜は、笑いすぎて涙目になっている。結衣は、もう反論する気力もなかった。ただただ、この場から逃げ出したかった。
結衣「もういい!私、学食行く!茜は来なくていいから!」
結衣は、そう言い捨てると、そそくさと荷物をまとめ、教室を飛び出していった。足早に学食へと向かう結衣の耳には、まだ茜の楽しそうな笑い声が聞こえてくるような気がした。そして、お腹の虫は、相変わらず「早く!早く何かを!」と叫び続けている。
茜は、結衣が去った後、ニヤニヤしながらスマホを取り出し、結衣のお腹の音を録音したファイルを再生する。
茜「くっくっく…これこれ〜。いい音だなぁ〜、猛獣の咆哮!これでいつでも結衣をからかえるぞっと…。」
茜は満足げにスマホをポケットにしまうと、結衣の置き去りにされたノートを手に取った。パラパラとページをめくり、空欄だらけのページを見つけては、またニヤニヤする。
茜「あーあ、結衣も大変だねぇ。まさかあの結衣が、お腹の虫に負けるとはね。しかもよりによって、あの猛獣みたいな音。これはしばらくネタに困らないな。」
そう呟きながら、茜は結衣のノートに「今日の授業のハイライト:私のお腹の猛獣。教授もタジタジ」と落書きをして、自分の荷物をまとめる。そして、満足げな顔で教室を後にした。結衣が学食にたどり着く頃には、この話はもうキャンパス中の噂になっていることだろう。茜は、そんな未来を想像して、また楽しそうに笑った。
茜は、教室を出ると、足早に学食へと向かう結衣の姿を見つけた。結衣は、まだ怒っているのか、振り返りもせずにスタスタと歩いている。茜は、そんな結衣の背中に、いたずらっぽい笑みを浮かべて駆け寄った。
茜「結衣〜!ちょっと待ってよ〜!」
追いついた茜は、結衣の隣に並びながら、わざとらしいほどに明るい声で話しかける。結衣は、茜の顔を見るなり、不機嫌そうな顔をした。
結衣「何よ、まだ私をからかいに来たの?もういい加減にしてよね!」
茜「もー、そんなに怒んないでって!いいじゃん、お腹の音くらい。生理現象なんだから、誰だって鳴るんだし。むしろ、結衣のお腹の音って、なんか迫力あってさ、聞く人を惹きつけるっていうか…」
茜は、心底面白そうに笑いながら、結衣の顔を覗き込む。結衣は、茜の言葉に、ますます顔を真っ赤にした。
結衣「あんたねぇ!そんなこと言って、まだ私のこと笑ってるでしょ!?もう、絶対許さないからね!今日のお昼ご飯、奢りなさいよ!」
結衣は、茜の腕を掴んで引っ張った。茜は、結衣の勢いに少しよろめきながらも、楽しそうに笑い続ける。
茜「えー!なんでうちが奢らなきゃいけないのよ〜。でもまあ、結衣がそこまで言うなら、考えてあげてもいいけどね。ただし、その猛獣の鳴き声、もう一回聞かせてくれたら、の話だけど?」
茜は、再びニヤニヤしながら、結衣のお腹に耳を近づけるようなジェスチャーをした。結衣は、もう呆れてものが言えないといった表情で、茜を睨みつける。
結衣「もう、茜ったら!本当に意地悪なんだから!いいわよ、別に奢ってくれなくたって!私一人で食べるんだから!」
そう言って、結衣は茜の手を振り払い、再び学食へと向かって歩き出した。しかし、その足取りは、先ほどよりも少しだけ軽くなっているように見えた。茜のからかいに、少しだけ救われた自分がいることを、結衣は自覚していた。
茜「はいはい、そーですか。でも、一人で食べるのは寂しいでしょ〜?ほら、結衣の好きなお寿司、食べに行こっか!」
茜は、結衣の背中に向かってそう叫び、小走りで結衣の後を追いかけた。今日のランチは、賑やかなものになりそうだ。そして、おそらく、寿司になるだろう。結衣のお腹の猛獣は、まだ完全に大人しくなってはいないようだった。
『山崎結衣の憂鬱』第四話につづく




