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第二十章 推理、そして時は来た

一番隊の集会が終わり、千影は二番隊隊長室へと戻ってきていた。

そっと音を立てないようにドアを開けると、玄斗が文清、董真と3人で話している。

「あ、おかえり」

玄斗がそう言って千影に手を振る。「ここ座って」と玄斗が自分の隣を指差し、仕方なく千影は恐る恐るソファに腰掛けた。

平気なように喋ってはいるが、玄斗もだいぶ気が滅入っているらしく、顔には脂汗が滲んでいて顔が幾分か青白い。

「千影くんも戻ってきたし、再開するね」

そう言って董真は話を戻した。

「まずは裕貴殺害の犯人特定から。俺達が死体を見つけたのと同時に、公偵部隊が動き出した。現場の痕跡から俺は愚裏厨離の不知火月歩に目星をつけた。」

董真が差し出したのはある現場写真だった。

「この現場に残されたいくつかの線。これ、なんだと思う?」

文清が口元に手を当てた。「2本線のセットが複数あって、それが一見不規則なように並んでいる…赤い線なので血の跡だと思って良さそうですね。とすると、動線的に()()でしょうか?」

「ご明察」董真はにやっと妖艶に微笑んで、「そう。これは足跡なんだ。ただ、この2本線が通常の靴でついたとは考えにくい。よってこれは特殊な形状の靴、()()によってできた足跡だと考えることができる。しかもこの感じは仕込み下駄だね。2本目の線が時々掠れているから多分下駄の歯の長さが若干違うんだ。どちらかの歯に何かしらの機構が入っているんだと思う。信長さんに聞いたら不知火は下駄を履いてたけど戦う時の重心が変なところにあったって言っていたから、片方の歯は使わないのかも知れない。」

「なるほど、それで不知火に目をつけたってわけか」と玄斗も納得してうなづいた。

「そこで彼とその周りの人間の犯行時刻の動向をさらってみた。結果は…犯行ができなかったとは言い難い状況だね。ただこれだけじゃ証拠は少ないってことで、武器と傷跡の照合をしてみたよ。」

「武器の照合って、武器持ってないとできないんじゃないのか」と千影が聞くと、玄斗が答えた。「前に愚裏厨離の下っ端を倒して、武器を貰うかわりに見逃したことがあんだよ。だからアイツらの武器は持ってる」

鳳蝶って取引みたいなことするんだな、と千影は思いながら、董真の話の続きを聞いた。

「つけられた傷は爪で引っ掻かれたような形状だ。傷跡を元に六番隊に刃先の再現をしてもらったら、ほぼ奴らの使う武器『()()()()』と形状が一致したよ。」

文清と玄斗が真剣に証拠に見入る中で、疑問の残る千影はおずおずと手を挙げた。

「…あのさ。なんでこんな調査するの?犯人がわかっても、警察が捕まえてくれる訳じゃないじゃん。」

千影の問いに董真は笑って答えた。

「単純だよ。勘違いで抗争が始まるのを防ぐため。」

どういうことか分からずにいる千影に、文清が説明する。

「僕達鳳蝶をはじめとした愚連隊形式の自衛組織は幾つかありますが…そういった組織には非戦闘員の一般人が在籍している。もし勘違いで抗争を仕掛けてしまうと、その人達にまで危険が及ぶんです。だから自衛組織には公偵部隊がつきものなんです。『ペンギン』、なんて呼ぶ人もいますね。

そういう意味で言うと、四番隊は抗争部隊と言って差し支えないでしょう。僕達は一般人への報復を恐れているので、抗争後に残党が組んで長期戦にならないよう、一気にかたをつけるんです。」

千影はだんだん鳳蝶のシステムが分かってきたような気がした。一〜五番隊の戦闘要員がメインなように見えているが、実態は七番隊を最優先し、彼らのために戦っているのか。

「これで証拠は揃った」と董真と文清が真っ直ぐ玄斗を見つめた。

「総長、御決断を」

玄斗は暫く渋い顔をしていた。

「俺は無意味な争いはしたくない。でも、こうなってしまった以上、裕貴のためにも抗争は避けられない。

…勝てると、思うか?」

縋る様にして見上げた千影と玄斗を前にして、董真は悪い笑みを浮かべ腕を組んだ。

「当然」

玄斗は分かったと困り笑いを浮かべ、息を大きく吸った。

「一週間後。それが愚裏厨離との決戦の時だ。」



そして数時間後、千影はルイの家のリビングで、鳳蝶本部からの伝言を全て話し終えた。

「…抗争は一週間後、か」

ルイは決心したように力強く前を向いた。

「ありがとよ、千影。

…俺はこの戦いで、アイツの仇を取るよ」

千影は柄にもなく不安げな顔をした。

「…死ぬなよ、ルイ」

「死なねぇよ」

間髪入れずにルイが答えた。

「お前さ、正直俺のこと舐めてるだろ」

ルイは淡々と喋る。千影は不意を突かれて、「へ?」と間抜けな声を出してしまった。

「確かに俺は文清隊長や董真さんみたいに強くないし、俺は誰かの力を借りなきゃ不知火もやれない雑魚かもしれない。」

あまりにも真剣な顔をするので、千影はついルイの瞳をまじまじと見つめてしまった。

べっこう飴の様なキラキラと光る琥珀色の目には、彼の信念が宿っていた。

「俺は何が何でも生き残ってやる。

…それがアイツとの約束だから、さ」

ルイは拳を千影の前にすっと差し出した。

「お前も約束してくれ。絶対五体満足で生きて帰るってよ」

ルイの言葉に、「約束するよ、ルイさん」と力強く千影は拳をルイの拳にぶつけた。

ルイは心底嬉しそうに笑った。

…目の端から落ちた雫に、千影は気づかないふりをして。

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