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調教開始

「おいてめぇ!何だって、んなことしてくれやがったんだよ!僕を殺そうとしただけじゃ飽き足らず、どうしてどうしてそんなことまでして、僕の嫌がる事ばっかりしやっがってんだよ!マジいい加減にしろ!ふざけんな!僕の人生を弄んでそんなに楽しいか!ああっ!?」


「ええ、楽しいわね」


「ハッキリいいやがってこのやろ...」


よくもまぁ、ここまで悪びれることなくできるよなぁっ!


「ええ、本当に楽しくなるわ、これから。ふふ、こんなの本当に久しぶりね。ふふふっ」


「はぁっ!?」


なんだよそれ!


って、こいつまさか、人の不幸を想像して笑ってやがんのか!?


「あらあら、勘違いしないで欲しいわね。私が楽しいと思っているのは、これから、私たちの敵が、わざわざ向こうから、私たちを殺し、と思わせておいて、殺されに来てくれる事よ」


「それのどこが...って、今、私たちって言ったか?」


この際、文面にはツッコミしない


「そうよ。私たち。もうすぐここに来る殺人集団は、あなたの敵であり、私の敵でもある」


「え?は?なんでそうなるんだ?だってそいつらって、お前の仲間なんだろ?」


「まさか。『かつて』といったでしょう?というか、笑わせないで欲しいわね?あんな連中が私の仲間だ、なんて反吐が出て虫唾が走って不快感の余り一思いに殺したくなるわ」


「...........」


誰に対しても、態度を変えない奴だ


「私はね、あそこを出てきたの。脱走というのはネガティブな表現だけど、そうね。言い換えれば、私はあそこに見切りをつけたの」


「見切りって、お前、そんなことできるのか?全部を信じきれたわけじゃないけど、一応、悪の組織みたいなものなんだろう?そんな仮面ライダーじゃあるまいし、そんな都合よく抜け出せるもんなのかよ?」



「簡単よ?もう知っていると思うけど、私はこの世の全てを統べる器としては、あまりに大き過ぎて、既に神をも超えた究極の存在なの。そんなことは私自慢の、この美しい人差し指を一本立てるよりも簡単なのよ」


いや、お前が自分で言ったのは覚えているけど、実態はただの殺人鬼としてしか知らん


てか、ついに神を超えましたか


たった数時間で、よくぞそこまで自分を高められたものだ


あと何時間かしたら、こいつはどうなってしまうのだろう


「愚問ね。私はいずれ、創造主になるのよ」


「............」


どんだけ~


「とにかく、あんな低俗連中とは縁を切って、私は自由気ままに、人からお金を巻き上げて、金持ちから金品を奪って、会社のシステムに介入して横領なんかもやって、そんな地味な生活を送っていたのよ」


「地味じゃない!てか犯罪のオンパレードじゃないか!自由気ままに犯罪犯しまくってんじゃねぇよ!って、不思議に思ってたけど、この高級マンションもそういう金で買ったのか!」


「でも、それにも一年くらいで飽きてね。いい加減退屈していたところだったのよ」


「だから無視すんな!それだけ散々やっておいて退屈の一言で終わらすな!」


「そこで、あなた」


「って、はい?僕?がなに?」


「あれは、忘れもしない冬の日、私は、あなたに出会った...」


「って、何だそのさも恋に落ちた瞬間を、序盤のモノローグで語ろうとしているような雰囲気は!」


「そう...あれはあなたがコンビ二でエロ本を買おうとして、でも勇気も根性も度胸もなくてコンビニを見事なまでの不審者みたく...くるくると彷徨いあるいている時のことだったわ...」


「見てたのか?あの現場を見てたのか!?」


「ふふふっ、それを、さぞ怪しく思ったのでしょうね...警官に職務質問なんてされて、あれは笑えたわ...」


「だから、このモノローグ空間の中で、そんな人の恥ずかしい過去を晒すな!不相応すぎるだろ!」


「それをペコペコ謝って凌いだあなたは、何となく気まずくて...でもそれでもコンビ二の中に入り、20分ほど立ち読みしていたわね...」


「だから見てたのか!?その間をずっと!?」


「そして、立ち読みしながら横目に物色していたであろう、目当ての巨乳ものをさっと取り、一気にレジに持って行った...」


「うるさい!いいだろ!そんな人の好みなんか詮索すんなよ!」


「なのに、持って行った瞬間は、女の子の店員さんだったことに、動揺を隠そうとしてできていなかったわ...」


「仕方ないだろ!?ついさっきまで男がレジにいた筈だったんだから!!てか、いつになったら、さっきの意味深な「そこで、あなた」のところに行き着くんだよ!」


「ええ、そうね。その答えは、適当に殺そうとしたのがあなただったからよ」


「前振り超意味ねぇぇっ!!って何?適当?何それ?さもどこかのスーパーの、景品の一等が米5キロみたいな、しょっぼいくじ引きを、これまた適当な気持ちで引くくらいに適当なのか!?」


「別に、そこまでは言っていないけど、自身をそこまで貶められるなんて、あなた、本当にマゾなのね」


「ミステイクっ!!じゃなくて!」


「ええ、そうね。まぁ、なんというか、正直驚いたわ。あなたこの私を驚かせたのよ?もうすぐでビッグバンすら起こせるであろうこの私を、あなたは空前絶後にも驚かせたの。これは誇るどころか、伝説にすらしてもいい事象なの。それほどに、あなたの直感力、リミッター外し、そして何より、殺人鬼としての素養は、ずば抜けていたのよ」


「もう、ホントに凄い表現だよな、おまえって...でも、殺人鬼の素養だって?直感力の方ではなく、殺人鬼の?ふざけるなよ、俺にそんなものないぞ」


「いいえ。あるわ。この私が言うのだから間違いないのよ。今の、ふざけるな、という言葉は後で、粛清するとして、だからそれを見てね。あなたを育てたくなったのよ」


「育てるって、僕を殺人鬼にか!?ゴメンだそんなの!僕は真っ当に生きていくって決めているんだ!後、謝りますから粛清は勘弁していただけませんか」


「そんなの知らないわよ。私が決めたんだもの。下僕であるあなたに拒否権はないわ。仮に拒否したら、その場で切り刻んで肥溜めに叩き込むわよ。もちろんどちらを拒否しても」


「...だ、だからさ、そんな酷い殺し方をしないでくれ。思いっきりブルーになるだろ?」


「ああ、でも、殺人鬼にする、については安心なさい。別に本当に殺人をしろ、と言っているのではないの。私自身、今更殺しそのものに興味があるわけでもないのよ。そう、言うなればトレーニングといったところかしら。私はあなたを訓練し鍛錬し教育して、調教してあげるよ」


「安心できるか!なんだ最後の調教って!途中まで素で聞けたのに、なんで最後の最後でそんなぶっちゃけワードが出てくんだよ!」


「あら、口が滑ったわね。失策だわ。最初から言ってしまっては、面白みが半減してしまうじゃない。私としたことが世紀の大スペクタクルね」


「面白み云々で、世界級の事象を語るな!それは僕のアイデンティティーに関わる問題だ!」


「何言っているの?あなたアイデンティティーなんてものは、つい先ほど捨てていたじゃない。もう簡単にポイッて」


「くっ、そんな、簡単になんて捨ててない、ぞ」


多分


「あら、いけない。そろそろね。思わず会話を楽しんでしまったわ」


「僕は全然楽しくなかったけど...何がそろそろなのさ?」


「ん?それはね、調教の、じ・か・ん」


ガッシャ――――――――――――――ンッ!!!!


「な、なんですと―――――――――――っ!!!!」


突然破られたガラスから、冷たく、とても強い風が吹き込んでくる


辺り一面に飛び散ったガラスに、せっかく僕が掃除した床が傷ついてしまう


あまりに突然な出来事に、僕は一瞬我を失ってパニクってしまっていた


もう慌てふためき、いい笑いものみたいになっていた




でも、そんな中


そいつは


威風堂々


虎視眈々


明鏡止水


自信満々


唯我独尊


もう、とにかく不遜なのだが


それでいて、とても自然な形で


なぜか美しさすらも感じられるような


そんな殺意を放っていた


そして僕は不覚にも、その在り方に、見惚れてしまっていた


一瞬のパニックがどうでもよくなるくらいに、見入っていた


「さぁ、行くわよスレイブ。楽しい調教と、狩りの時間よ」


「って、いやいやいやいやいや、絶対に嫌だからな!僕はそんなのゴメンだからな!」


「...全く、往生際の悪い。あなたも、今、私のようになりたいなんて、普通の人間では、到底思わないような、欠陥を内包した感情を持ちえてしまったのよ?だったらもう諦めなさいな。人間失格さん」


「うっ、仮にそうだとしても僕は!」


「無理よ。もう戻れない。あなたと私はもう戻れない。なら精々楽しみましょう。退屈で尊い日常は、たった今崩壊したのだから」


その言葉に、僕は、何も言えなくなる


もう崩壊した日常


戻れない日々


この先にあるのは、延々と続くであろう非現実


どうしようもなく不遜で、身も凍るような恐怖に満ちた態度


そんな姿を、美しいだなんて思ってしまった僕


人間失格と呼ばれてしまった僕


そんなの、到底認めるわけにはいかないけれど


まだ全然、普通の人生を諦めてなんていないのだけれど







「だったら、せめて」


「ん?何かしら」


「せめて、お前を名前で呼ばせてくれないか。いい加減呼称がないのも面倒くさい」


「あら、そうね。失念していたわ」


失念って、どの口がほざくのか


どうせ、言うタイミングを逸しただけじゃないか


「そんなわけないでしょう?私は、楽しみは最後にとっておく女よ。だからあなたも最後にそれを知りたくなったでしょう?」


「...う」


「ふふっ、まぁいいわ。教えてあげる。その耳の穴を血が出るほどにキレイにしてから、よくお聞きなさい。私の名は」







彼女の口からは、やっぱりというか、唖然な答えが返ってきた


それが名前なのかよ、ってツッコミをいれたくなるくらいの珍妙で愉快な名前だった


正直、親御さんのセンスに感服するも、どちらかと言えば呆れ果てた


しかし、確かに彼女を表現するには、実に正しいような名前のような気がする


というより、似合い過ぎて醜悪だ


最悪だと言ってもいい







「私の名は、鳳凰寺無敵。殺されても永遠に蘇り続ける、美しくも恐ろしい、人類最強の名前よ」

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