74話 強さ
「ここから出ていいぞ」
もう何日いたのかわからないくらい経った頃、リックスは急に解放された。
身なりを整えさせられ、いくばくかのお金まで渡されて。
やっと解放された。
はやくシルヴィアに会いに行かないと。
リックスははぁあぁと息を切らせながら、教わったシルヴィアの居場所に向かう。
待っていて、シルヴィア。
君は僕が救ってあげるから。
あのモーニングスター男に脅されて婚約までさせられて可哀想なシルヴィア。
僕が今迎えにいくよ。
けれど、リックスにまっていたのは、非情な現実だった。
ちょうど出かけるところだったらしく、ヴァイスに手を引かれて、馬車に乗り込もうとするシルヴィアの姿を見つけリックスは絶句する。
大事そうにお腹をかかえて、嬉しそうにヴァイスと見つめあったあとキスをしているシルヴィア。あのお腹の中には確実に別の魔力があり、何かが宿っているのが視てとれた。
……なんで。なんで。恋人の僕がいるのにあの男とキスを?しかも妊娠?
『私だって仕事をお姉さまがほとんどしているなんて思わないわっ!!
しかも自分が不妊の癖にお姉さまのせいにしていたじゃない!!』
サニアの言葉が思い出される。
違う。違う。違う。僕が悪いんじゃない。全部シルヴィアのせいだ。
シルヴィアが出来ないから僕が教育していただけ。
はやくシルヴィアを取り戻さないと。
「シルヴィアぁぁぁぁ!!!君は何をしているんだ!!!!」
思わず門にしがみつき、リックスが叫ぶ。
門番が複数の護衛らしき男たちがすでにリックスを取り囲んでいるが知った事じゃない。
はやくシルヴィアを取り戻して浄化してあげないと。
リックスの叫びに気づいたようで、シルヴィアがヴァイスと一緒に手をつないでリックスの前までくる。
門越しに会話がなんとか聞き取れる程度の距離で、シルヴィアがぴたっと止まった。
「シルヴィア、待たせたね。やっと迎えにきたよ」
リックスが言うと、シルヴィアはにっこりとわらって言い放った。
「リックスごめん。
子どもの産めない貴方はエデリー家に相応しくないって天国の父が言っていたの。
だから何も言わず消えてほしい」
その言葉に、リックスの悲鳴があたりに響くのだった。
★★★
「……少しすっきりしました」
リックスが涙をながしながら悲鳴と嗚咽をあげてずるずると護衛に連れられていくのを見ながら私はため息をついた。
他にも言うべきことはいっぱいあった気がするけれど、たぶんあの人には通じない。
自分が全て正しくて、私の考えは間違っているって人にどれだけ辛辣な言葉を書けても届かない。間違っている私を正さなきゃという考えになって終わりだろう。だから彼が一番傷つくであろう、言葉だけなげかけた。
別に子どもができなかったとしても、手を取り合っていける夫婦だったらよかったのに……。
彼はその責任を私だけに擦り付けた。責め立てた。その報いを受けてもらっただけ。
もう地位も名誉も何も残っていない彼にはこれで十分だろう。
「それはよかったです。もう彼と貴方が会う事は二度とないでしょうから」
そう言ってヴァイス様がにっこり笑ってくれる。
ヴァイス様が言うなら本当に、二度と会う事はないと思う。
それに……リックスの肌に薬物の中毒症状がみられた。硬質化とはまたべつの、緑がかった肌になり、変質がはじまっている。たぶん、彼の未来は明るくない。
でも私を誘拐してヴァイス様を殺そうとしたことを考えるなら――それも仕方ないと思う。
私はにっこり笑って、「ありがとうございます、ヴァイス様」とヴァイス様の頬にキスをして、リックスのその後を聞かない事にした。
ヴァイス様が話さないと判断したなら私はそれを受け入れるだけ。
ヴァイス様と結ばれるということは、そういう事だから。
ランドリュー家の規模を考えれば、綺麗ごとを貫くのはもう無理だ。
家を守るためなら、防衛のために相手を先に陥れる必要性だってでてくる。
そしてヴァイス様はなんの罪のない人を陥れたりはしない。
陥れるのはちゃんと陥れるだけの理由がある人ばかりだから。
私は伴侶としてパートナーとしてヴァイス様の貫く正義を信じたい。
そしてヴァイス様の貫く正義を手助けできるように、彼に任された事を精いっぱいがんばって、ヴァイス様を支えて――そして家と家族を守らなきゃ。
もう、私は守られるだけの立場じゃない。
ヴァイス様と一緒に守らなきゃいけないものができた。
もうヴァイス様に守られるだけの自分は終わりにして、必要な時に頼ってもらえて、ヴァイスを支えられて、ランドリュー家を……そしておなかに宿った命を守れる強さを持たないといけない。
それが私のこれからの仕事になる。
私はおなかにチクリと痛みを覚えて、おなかを撫でる。
安定期にはいってすっかり大きくなった宿ってくれた大事な私とヴァイス様の愛しい子。
どんな事があっても、貴方と貴方のパパを守れる強いママになるからね?
「さぁ、行きましょうマイレディ」
ヴァイス様が笑ってくれて、私に手を差し出してくれて、私は嬉しくて笑って手をとった。








