079話 ミネルと大精霊
4-15.ミネルと大精霊
俺には死んだ記憶が無い。
気が付いたら乙女ゲームの世界に居て、ヒロイン役の立場になっていた。ずっと考えていたけど何故そうなったかは、やはり分からなかった。
でも、こういう状況の話では、死んでしって転生するとか、死にかけた瞬間に異世界に転移するとかが多い。〝死〟というものが前提の話しだった。
死んでから神様と会って「転生しますよ」とか言われ、チートとか貰えるんだろう?でも、俺には無かった。いつも通り高校への受験勉強をして、疲れたから自分のベットで寝た記憶だけ。
それが〝宮沢 秋斗〟としての最後の記憶。
時の大精霊なら分かるのだろうか?しかし、違う世界の事だから、あまり期待はしない方が良いな。
それよりも、今だ。ダイアナさんのウッカリ発言によって、俺が聖女である事がレギオールにバレてしまった。どうやって誤魔化すべきか・・・
レギオは記憶力が良いから忘れないだろう。聞き間違いだよ☆と言っても怒られるだけだろうし・・・困った。
【そうそう。最初の質問、まだ答えてなかったわね。教えるわ】
俺が悩んでいると、ダイアナさんが話し始めた。綺麗な笑顔で微笑んでいるけど、貴女のせいで今の俺はピンチなんですよ?
しかし、大精霊様が話そうとしているので、レギオは俺からダイアナさんに視線を向けた。とりあえず今だけ助かった。
それにしても、樹の大精霊って話すのが好きな人だったんだな。乙女ゲームをプレイしていた時は分からなかったよ。
でも最初の質問か・・・あれ?なんだっけ?なんか衝撃な展開が多過ぎて忘れてしまったぞ?
【〝何故、視るだけしか出来ない筈のミネル君がお願いをすると精霊達が聞いてくれるのか〟。それはミネル君が私達、大精霊と存在が近いからなの。だから精霊達はミネル君のお願いを聞いて、叶えてくれるのよ】
・・・・
・・・・・・・・・・・WHAT!?
は?大精霊と存在が近い?・・・意味ワカメ、どゆ事?俺、普通に人間ッスよ?〝人間止めてる系〟という事?それは、もしやチート的展開なのだろうか。
「あの・・・樹の大精霊様?その、僕にもよく分からない言葉が聞こえたのですが、ミネルが大精霊様と近い存在というのは、どう意味、なのでしょうか?」
さすがのレギオも困惑気味。フェイにいたっては分からないあまり、獣耳が垂れて首を傾げている。あ、俺ちょっとキュンとした。可愛いぜ不覚。
【別にミネル君が『大精霊』だという意味じゃないわ。彼は間違いなく人間よ。でもね、近くで見て分かったのだけど、彼の波長が私達大精霊とかなり似ているのよ】
「波長・・・ですか?」
【これについては説明が難しいわね。・・・そうねぇ、あなた達の言葉を借りるなら〝神気〟に近いかしら】
〝神気〟。神から授かった物から内包する力が溢れてしまい、漏れ出した力の余波。
え?俺って常に何かを漏らしてるの?やだ、ナニソレ。ちょー恥ずいんですけど。
「・・・・・お漏らしミネル」
おい!聞こえてるからな、フェイ!何、顔を赤くしてるんだよ!笑いたきゃ笑え!殴るけどなっ!!
【さ~てと!たくさんお話が出来て楽しかったわ、ミネル君。また、お話しましょうね?私はそろそろ帰るとします】
「あっ!樹の大精霊様、まだ知りたい事がたくさんあるんです!もっと___」
【ふふふっ、そう慌てなくても私はいつでも此処に来れるわ。この若い聖樹の門は、まだ『時の大精霊』も『空間の大精霊』もまだ管理していないから。だからレギオ君、そう急がなくてもいいのよ?】
「・・・・・・・あ」
【あら、ごめんなさい。私は大精霊、あなたの事が分かってしまうの。だから、レギオ君。〝そんなに急がないで〟?】
「・・・・・分かり・・ました。すいません」
あれ?そのセリフって、乙女ゲームのヒロインちゃんである『ミネルソフィ=ターシア』が言ったセリフだよね?良いの?恋愛が発生しちゃうよ?
『大精霊と精霊の愛子との恋愛物語』・・・売れる!!
それと何気にさ、気になる言葉が出てきたよな。〝時〟に加えて〝空間〟の大精霊ってのも初めて聞いた。あんなにやり込んだゲームなのに知らない事が次々と出てきて、ちょっとヘコむ。
【じゃあね、ミネル君。また会いましょう。でもその内、貴方なら私達が住む『神域』に来れるかもしれないわね】
おいいい!?何、気になる去り方しとんじゃい!夜、気になって眠れなくなるだろうが!!
樹の大精霊であるダイアナさんは【バイバイ】と言った後、消えていった。
つ、疲れた。頭がパンクしそうだ。新しい情報を無理やり頭に叩き込んだ、あの日の受験勉強を思い出す。
「・・・ミネル、今日はもう帰るとするよ。落ち着いて情報を整理したいからね」
そうっすかぁ、お帰りはアチラです。自分で勝手にお帰り下さいませ。今回は見送りはせぬよ、疲れたから。
でも良かった。こんな疲れた状態で〝ミネルは聖女様だよ〟発言の事実確認はされないみたいだ。言い訳をしないで済む。
「また来るからね、絶対に。僕は君が『聖女』だという事を聞いたのだから、もし逃げ出したら王族の方にバラすからね?絶対に逃げちゃダメだよ?」
全然、良くなかった。しょぼんぬ。
・・・もうヤダ、誰か俺を慰めてくれ。巻き戻し機能とかないのか?ロード機能でも良いぞ。
レギオは護衛と一緒に帰って行った。
あの護衛の方は、孤児院に居る子供達の良い遊び相手になってくれる。高い木を登る感覚で遊ぶ子供達。その木は不動で、子供達が危なかったら手で押さえる安全装置付きの新しい玩具。護衛さんには悪いが、ここに居る間は子供達を頼みます。
それにしても、時の大精霊ジーク=クロノウス・・・か。俺の知らない重要な登場人物が居て当たり前だったんだな。俺は、この乙女ゲームにあったクリア後の世界を知らないから。
じゃあ・・・じゃあさ、もしかしてあの声も?
『 ___ねぇ 誰に?____ 』
あの黒歴史が刻まれた日、確かに聞こえた少女の声。
俺の知っている声優さんと、声がかなり似ていた。だから可能性は高い。きっとクリア後の登場人物だ。それが誰なのかは、まだ分からないけど。
でもあの日、俺に協力してくれたんだと思う。俺が激怒して放った消滅魔法があそこまで異常な威力を発して成功したのも、それが原因だと思うから。敵では無い・・・とも思う。まだ会った事もないし、声しか知らないけど。
もう今日は疲れたな。風呂に入って、すぐに寝よう。
今日は許しをもらって、フェイと一緒のベットに寝ようかな。慰めと癒しが足りない。フェイの獣耳、触っても良いかな?フニフニして遊びたい。