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187話 ホテルのタオル、持って帰る?


 8-06.ホテルのタオル、持って帰る?


 もぐもぐ。

 もぐもぐもぐ。


 食べる。もくもくと食べる。

 今回、食べているのはケーキでございます。

 陛下ってば素敵。まさかホールケーキを用意してくれるだなんて…惚れてまうやろー!

 でも、さすがに10個は多い。食べたいけど無理、腹の許容量を既に超えている。

 まだまだ沢山のお菓子類が部屋に置かれたワゴンに待機されてあるが、俺の腹が限界だと訴えてくる。

 まぁ、いいけどね、別に。持って帰れば良いし。

 あぁ、タジルよ。お主から譲り受けたマジックバック、今では俺っちの宝物でござんす。ありがたやー。

  でも、やはり一人での食事ちょっと寂しい。


 少し苦みのある紅茶で、甘口になった口内を洗い流す。


 「……ターシア」


 落ち着いた所で、俺は先ほどの出来事を思い出してポツリと呟いた。

 少し前、この部屋には国のトップである陛下が居て、退室する前にある言葉を残した。


 ___家名を〝ターシア〟にしても良いぞ


 陛下は確かにそう言った。

 その言葉を聞き、俺は放心状態となりホールケーキを一個、無心で食べきってしまったのだ。大好物のチーズケーキだったのにっ!!

 ……おっと、チーズケーキの事は忘れて、今は〝ターシア〟についてだ。



 ミネルソフィ=ターシア。


 俺が宮沢 秋人だった時にプレイした、この世界に酷似したゲームのヒロインだった女の子の名前。

 属性検査を受ける10歳の時に父親の関係者が孤児院へと訪れ、そのヒロインを引き取っていく。

 そのヒロインを迎えに来た父親の家名が「ターシア」だった。


 〝ターシア〟という言葉を国王陛下から聞いてしまった。

 何故、その名前を?

 ユナイセル陛下は俺がターシア家の捨てられた子供だと知っているのか?

 もし、そうなら何故?どうやって知った?


 俺はターシア家の捨てられた子供。その事を知るのは俺が知る限り2人だけ。

 その2人は俺の友達だ。友人の個人的な情報をペラペラ他人に教える奴等じゃない。


 考えられる推測その①、ユナイセル陛下も転生者?

 ……それは無いか。今までの事件も後手の対応ばかりだったし。


 その②、国王直属の情報部隊的な何かが調べた。

 所在不明の母親が話していたとしたら十分に考えられる。俺の特徴的なピンク髪なんて今まで俺以外に居なかったし。


 その③、情報を知る友人が裏切った。

 それは無いかな。なんやかんやで2人は俺を大切な友人だと思ってくれているみたいだし、恩もあるしな。仇で返す奴等じゃない。


 その④、陛下が持つ、何かしらのスキルでバレた。

 そんな事を考えたらキリがないよな。騎士団長が持っていたかもしれないし、そこらへんの騎士や兵士が特別なスキルで知ったとか。


 ……考えるだけ無駄に思えてきた。

 この世界では隠し事がバレても、スキルが未知数すぎて原因が分からない。

 だが、もし陛下がターシア男爵に「貴方に捨てられたお子さんですよ」とか話していたら一発ぶん殴って国外逃亡しよう。

 聖剣の覚醒は終えたのだ。この国に拘る理由からは解放されたのだから。

 あ、ダメだ。肝心の聖剣、俺が持ってるよ。どうしよう……。




 コンコン


 考え事をしながら、貴賓室に備えられてあったタオルや石鹸をマジックバックの中に盗……詰めている時、部屋の扉がノックされた。


 「ソフィ様、聖女アンジェラ様とレギオール=J=ミクシオロン様が面会を求めていらっしゃいます。どうなされますか?」


 扉の向こうから聞こえてきたのは、この部屋を護衛している騎士の声だった。

 どうやら俺の友人が会いに来てくれたらしい。


 俺は扉へと向かい、自分で扉を開ける。

 本当は室内の人物が「どうぞ」と言って、扉の前で警備してくれている護衛さんが開けてくれるという流れが一般的なのだが、今の俺が「どうぞ」なんて言ったら男だとバレちゃうかもしれないので出来ない。

 14歳になった俺は、身長は伸びなかったのに声変わりしてしまったから。

 声だけは少し男らしくなった。声だけは。身長は伸びなかったのに。声だけ。


 扉を開け、部屋の前で待っててくれたのは2人の男女。

 その2人の後ろには使用人さん達が立っていて、部屋の前で待機するようにと命令され、友人の2人だけが部屋へと入り扉が閉められた。



 女性の方は黒髪に黒目。

 そして、一番に目がいく特徴的な部分は胸にある特大メロンが2つ。

 彼女は俺と同じ14歳。もう一度言いますが俺と同じ14歳なのです。

 なのに胸にある衣服のボタンからは悲鳴が聞こえてきそうな程、大きい。ボタンが弾け飛ぶのを必死に耐えています。

 正直モゲそう。ボタンよ、耐えてくれ。それがお主の仕事だ。


 男性は緑色の髪に、エメラルドグリーンの綺麗な瞳をしている。

 メガネを掛けた姿は正に知的な雰囲気。いかにも、実力テストはいつも満点ですが何か?的な雰囲気が漂ってくる。

 背も175cm以上はあるので、俺は見上げなければならない。

 この男もまだ14歳の同年代だというのにこの身長とは……勉学に専念するよりもバスケ選手を目指せば良いのに。そしてボールが頭に当たってアホになれ。そうなれば、この身長差は許せる。



 この男女2人は俺の友人。

 女性は公爵家の娘で、名前はアンジェラ=K=モンテネムル。

 俺の〝白の聖女ソフィ〟に対し、〝黒の聖女アンジェラ〟として有名になった人物。

 そして俺と同様、この世界が前世でプレイした乙女ゲーム【愛ある出会いの奇跡 ~君と癒しを共に~】、通称【あいきみ】に酷似した世界だと知る大切な友人。

 前世の名前は『品川 小夜』さん。

 飛行機の墜落事故で亡くなったらしく、BL病の重篤者である。

 現在、BL神と交信できる腐教祖様として裏の世界(?)でも有名。噂では腐信者の数は億を超えているとかなんとか。


 男性は公爵家の跡取りで、名前はレギオール=J=ミクシオロン。

 父親は、ランブレスタ王国の知恵袋として有名な宰相様。

 彼が持つスキルには『精霊の愛子』というものがあり、凄腕の魔術師だ。

 そして、インテリ系としてあの乙女ゲームで名を馳せた攻略キャラだった。


 この2人は白の聖女ソフィが、俺の女装した姿であると知る数少ない友達だ。

 ……ちなみに俺が一番、背が低い。




 「それで、ミネル。念願だった聖剣には会えたのね?」


 アンジェラが紅茶を用意してくれて、3人でソファーに座った。

 俺が紅茶を淹れると味が濃くなったり薄くなったり酸っぱくなったりするから2人とも飲んではくれない。フェイは飲んでくれるのに……。


 「もう知ってるんだ」

 「ええ。この部屋への入室許可を陛下から頂く時にお教え頂いたわ。それで……どうだったのかしら?」


 今はレギオが居るので言葉を省略したけど、彼女が聞きたいのは『聖剣の覚醒イベントは無事に終えたのかしら?』という事だろう。


 「まぁ、うん。無事に済んだよ。なんか、こう…凄かった」

 「国宝である聖剣の対面を成したのに君の感想は薄いね、ミネル」


 アンジェラからの問いに答えたら、レギオが微笑みながら言う。

 少しトゲがある言葉だが、俺は怒らない。

 身長は伸びなくても、せめて心だけでも大人へと進化してみせる。

 …長い足を組んでんじゃねぇよ。おっと、ダメダメ。怒ってはダメだぞ、ミネル。

 …なんだか14歳になった俺の心が荒んでいる。これが反抗期というやつか。

 この反抗期を無事に終えるには成長期が頑張るしかない。


 「えーと、神々しかったかな。うん、とても輝いて見えた」


 実際、超光ってたし。


 「それよりも2人は何しに?今は学園の生徒会で色々と忙しいとか言ってなかった?」


 実はこの2人、貴族学園の中等科で生徒会に所属しているらしい。

 生徒会長は言わずもがな、エルナルド殿下。

 あと、騎士団長の息子であるアレクシスも生徒会に所属しているんだと。


 「もうすぐ代変わりの時期だからね、引き継ぎには色々と覚えるべき事が多いんだよ。そんな忙しい中、君にプレゼントを届けに来たんだよ。わざわざ、この僕がね」

 「プレゼント?」


 レギオは懐から小さな袋を出して、その小さな袋から小さな箱と少し大きい箱を取り出して机に置いた。

 レギオってばドラ○もんみたいだ。マジックバックって、やっぱり便利だなぁ。

 その2つの箱を俺の前に移動させた。

 2つの白い箱。チョコレートかな?と期待して開けてみる。


 「……指輪とチョーカー?」


 箱の中には銀色の指輪と白色のチョーカーが入っていた。

 どうみても食べられない、残念ヨヨヨ。


 「……レギオ、何これ?俺、べつに今日が誕生日とかじゃないんだけど?」


 ……ん?ちょっと待て、指輪?指輪だと!?

 これは、まさか_____



   ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○



 ここは王都ランブレスタから遠く離れた田舎町。

 この町には少し小高い丘があり、その頂上に小さな教会が建てられていた。

 白く小さな可愛いその教会で今日、一組の夫夫(ふうふ)が誕生する。


 「我等が大いなる神よ。今日、結婚の誓いをかわす二人に満ちあふれる祝福をお注ぎ下さい」


 静かな空間に神父の言葉が木霊する。

 神父の前に立つ2人は生涯を共にする事を誓い、その証である指輪を交換する。

 夫夫(ふうふ)となる2人は、参列者の前で愛と共にパートナーの指輪をはめ合った。


 「一生、大事にするからね。ミネル」


 夫・レギオールは俺の手を優しく包みながら愛を囁く。


 「神聖なる婚姻の契約のもと、神々の前で愛する者達である証を」


 神父の言葉で、レギオールが俺の顎をクイッと上を向かせた。

 そして少しずつ近付いて来るレギオの真剣な顔に、俺は瞳を閉じた。



 リンゴーン リンゴーン



   ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○




 ぎぃやぁあああああ!!


 俺は心の中で叫ぶ。体は冷め、顔は真っ青になっているかもしれない。

 なんて物を俺にプレゼントしやがる!

 俺は指輪という危険物が収められてある箱を閉め、レギオールにご返却。


 「ミネル、それは魔道具だよ」

 「魔道具?」


 白目になっていた俺は、レギオの言葉で正気に戻った。

 魔道具といえば、魔法の力を宿した道具の事。

 この部屋にもある照明とかも魔道具。俺も持っているマジックバックとかもそうだ。


 「ミネルは陛下の誕生祭の日、僕と参加した前夜祭を覚えているかな?」

 「ああ、もちろん。大変だったし覚えてるよ」

 「そうだね、とても大変だった。あの日、暗殺者が襲撃してきたからね。例えミネルだろうと覚えているか」


 あり、ディスってる?

 覚えているかな?とか聞いておきながら、それに答えただけなのにディスるってどうよ。


 「その暗殺者達の所持品に不思議な鉱石があってさ、その鉱石についての研究を我がミクシオロン家が任されたんだよ。そして、その鉱石がある程度の魔法を凍結保存させるという効果があると判明された」

 「へぇ~、魔法を。それは便利そうだな」

 「そう、まさに便利過ぎる代物だった。強力な魔法を保存・保有するのは不可能だったけど、この鉱石が大量にあれば1人でも多重術式の魔法が可能となるかもと言われる程に」


 多重術式かぁ。つまり、2つの属性を組み合わせる魔法だよな。

 右手に炎を纏い、左手に風を纏ったら、炎の嵐が吹き荒れる。火魔法には『ファイアーストーム』という似た魔法が存在するけど、多重術式での魔法は威力が桁違いらしい。

 言葉で表すと火の台風ではなく、まさに炎の嵐。

 消費する魔力も、それに比例する。単純に1+1=2では無いらしい。

 火と風を足しても2よりも遥かに多い魔力が消費されるんだと。

 去年、アンジェラが発動させたスザきゅんの技も〝火〟と〝闇〟を合わせた多重術式だ。


 「その鉱石を利用して完成させたのが、その指輪とチョーカーだよ。陛下から何個かその鉱石を頂く事ができ、ミクシオロン家の研究所で制作した物だ。それぞれ〝ある効果〟が付与されている」

 「その、ある効果って?」

 「指輪には闇魔法の〝ダーク・ペイント〟。髪の色を変化させる魔法が付与されている」


 へぇ~、髪の色を…………え、ショボ。それだけ?


 「君は今、〝それだけ?〟と思ったかもしれないが、君にとっては必須道具になると思うよ。なんたって、君のバカみたいなその髪の色は白の聖女ソフィと同じ色なのだから。他に、そんなマヌケな色をした人なんて僕は見た覚えが無い。だから、そのアホそうな目立つ髪を隠せるんだよ」

 「よーし、分かった。喧嘩売ってんだな?ん?喧嘩売ってるんだよな、俺に!表で出ろや!」

 「あぁ、ごめんごめん。愉快な色をした髪だと言いたかったんだよ」


 なるほど、愉快……って、それも(けな)してるよな?

 蛍光色のピンク色は確かに目立つけど、この髪色を設定したのは乙女ゲーム会社だ。ていうか、レギオもゲームではこの髪を褒めてたんだぞ。

 レギオのルートでは後半、ヒロインちゃんの髪に触れながら「君の柔らかな髪が――」とか変態宣言する場面があったんだぞ。Aボタン連打でスキップしたけど。


 「つまり、その指輪を付ける事で君の馬鹿みたいな……失礼、とても目立つ髪色を変化させられる。今や国中、いや他国でも有名となってしまった白の聖女は特徴的なピンク髪であると誰もが知っている。だからミネルは、その髪色を隠して日々を過ごした方が良いと思うよ」

 「な、なるほど。確かに……」

 「でも、ここで注意が1つ。その指輪の効果は12時間、それ以上は起動維持が保てない。魔力が足りなくなる前に自分で補充してくれ」

 「ふぅん、12時間か。どうやって補充するんだ?」

 「指輪を握って、魔力を指輪に流す想像をすれば大丈夫」

 「なるほど、分かった。でも12時間……せめて24時間ならなぁ」

 「これでも効果時間は伸びたんだよ。部分指定と髪の色を固定する事によってね。もちろん長時間の変化が可能になるよう、今でも研究は続けられている。どうやら鉱石の加工にも、保存する魔法の効果や効力が関係しているようなんだ。今や研究員たちは熱心にその研究に取り組んでいるよ。もしかしたら鉱石を付ける装飾にも何か関係してくるかもしれない。そう、火属性の魔法には火属性の魔物の討伐部位を使用したり。なら銀ではなく____」


 俺と話していた筈なのに、レギオは1人でブツブツと呟くようになったので放置。何言っているのか分からんし。

 レギオっち、白いチョーカーは放置で良いのか?



 「あら、ミネル。珍しくオシャレしてるじゃない。どうしたの、そのネックレス?」


 レギオの事を無視して、紅茶を優雅に飲んでいたアンジェラから尋ねられた。


 「あぁ、これね。ちょっと訳あり」

 「そうなの?ところで、聖剣について陛下は何か仰っていたかしら?」

 「えっとさ、実は……」

 「どうかしたの?」


 俺が何やら言い淀む姿を見て、アンジェラは首を傾げた。


 「実は聖剣についてなんだけど………今、俺が持ってるんだよ」

 「………え?」

 「………は?」


 俺の言葉にアンジェラとレギオは一時停止してしまった。





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