英雄の奥様と隣国からの訪問者
マリロード王国の英雄の奥様スーザンは、隣国からの訪問者に困らされていた。
一番に、隣国ツェルード王国宰相の息子アラン。
アランは、スーザンの息子シモンを慕って、アバード公爵家に居座ろうと目論んでくる。
数日、客人としての滞在なら問題ない。
しかし、アランは、ツェルード王国でも、王家の次に権力を持つ公爵家の長男で、立派な期待された嫡子である。
貴族社会において、特に上位貴族では、簡単に許されないことは、誰でもわかっている。
それなのに、アランは、納屋でもいいから、ずっとシモンの側にいさせて欲しいと懇願してくるのだ。
そして、やたらと実行力のあるアラン。
いつの間にか、アバード公爵家の使用人をたぶらかし、シモンの部屋に近い使用人用の部屋に居場所を築いていた。
驚いたスーザンが、アランを諭しても、無駄であった。
アランは、宰相の息子だけあって、逆に言い含められてしまい、チョロいスーザンは、負けっぱなしである。
困ったスーザンは、思わず、娘のタチアナに悩みをこぼした。
「あの子のこと、どうしましょう……」
「あら?お母様は、アラン様が家にいると困るの?」
「だって、タチアナ。
彼は隣国の公爵子息なのよ。
まだ、9歳だし、マリロード王国に長期滞在するには、留学としても早すぎるし、政治的にも問題は山積みよ……」
「そうかしら?
……ねぇ、アラン様って、確か、私と2~3歳しか違わないわよね?」
「そうね。タチアナの方がちょっとお姉さんね」
「年下なのは、私はあまり気にしないわ。
だから、アラン様を私の婚約者になっていただくのは、どうかしら?
身分的にも釣り合うわ!
婚約者の家に長期滞在なら、問題ないわよね?」
「え?待って、タチアナ?
もしかして、あなた、アラン様が好きなの?」
「……えっと、その、まあ、そんな感じ……」と赤面するタチアナ。
「……たぶん、それはもっと別な問題になるわ」
「え?どうして?」
「まず、サイラス様が問題ね……。
まだ、タチアナの婚約話自体が無理よ。
今、アラン様をタチアナの婚約者になんて、話をしたら、サイラス様が大反対して、彼をアバード家だけでなく、マリロード王国の入国を禁止してしまうわよ?」
「うーん、お父様ならやりそう。
じゃあ、まだ、お父様には内緒ね」
「そうしましょうね……って、レオ!
いつからそこに!?」
タチアナのすぐ後ろに、レオナールが立って聞き耳をたてていた。
「……タチアナ姉様、アランなんかが好きなの?」とショックを受けて、青ざめるレオナール。
「まあ、レオったら、聞いていたのね。
悪い子!
お父様には、まだ内緒よ?」と、レオとは対照的に、ほのかな桜色に頬を染めるタチアナ。
レオナールは、そんなタチアナ姉様も可愛い!っと思ったが、アラン排除のために、(たとえ姉様に内緒と言われようとも……)と、駆けてサイラスに言いつけた。
そして、シモンにも。
もちろん、サイラスは、激怒した。
「あ、あんな、シモン、シモン、シモンと、シモンに狂っている、訳分からん小僧に、大事なタチアナを、渡してたまるかーーー!!」と吠えるサイラス。
「まあ、お父様ったら!
私の恋を邪魔する気なの!?」と怒るタチアナ。
「当たり前だ!よりによって、あんなやつとは、許せん!」
「………ふーん、お父様は、私に嫌われたいと?」
「違う!嫌っちゃ駄目だ!!絶対に嫌われたくない!!!」
「嫌われたくないなら、邪魔しないでよ!」
「それとこれとは、別問題なんだぞ、タチアナ!」
「あらそう。お父様なんか、キライよ」
「う、ぐはっ!!」と、サイラスは血反吐を吐いて床に転がった。
「キライよー、キライよー、キライよー」と木霊のように、サイラスの耳には、先ほどのタチアナの言葉が何度も響いていた。
とうとう、サイラスは、ゴロゴロと血まみれで転がる、ブラッドローリングサイラスと化した。
元毒兎のリンナですら、引くレベルで、サイラスは部屋の端まで転がっていった。
一方、サイラスに言いつけたレオナールは、というと……。
「あ、そうだわ!
レオも、お父様に言いつけたから、キライよ。
しばらく、口をきいてあげないんだから!」とレオナールにも、ぷりぷりと怒るタチアナ。
「ぐ、グハッ」とレオナールも血反吐を吐いたが、「くそっ!たとえ、今は嫌われても、こういうのは、早期発見、早期対処が肝心だから……」と持ち直したレオナール。
しかし、「……こいって、はんたいされると、もりあがっちゃうよ?」とシモンから冷静に突っ込まれ、「うぐぅ、しまった!やり方を間違えたー!!」とレオナールも、撃沈したのだった。
それでも、最終的には、サイラスの計らいで、アランは、当分、アバード家に出入り禁止にされた。
そんなアランが、出入り禁止になる前に、シモンは……。
「ぼくのねーねのこと、すき?」とアランに問いただすシモン。
「え、そんな!
自分には主君の姉君を、そのような対象に考えたことはございませんでした。
そんな恐れ多い……」
「うーん、どっち?」
「えっと、その、どちらといいますと………」
「このみ?」
「……その、えっと。
た、タチアナ様は、主君にも大変似ておられ、正直にお答えいたしますと、理想の中の理想の女性であります!」
「……このみってこと?」
「はい!最高に好みです。
しかし、恐れ多くもあり、タチアナ様は、その、我が国の王子、シャーロ殿下の想い人でして。
すでに自分の出る幕はなく……」
「ん?アランはぼくのぶかになる?」
「はい、もちろんです!」
「なら、シャーロおうじには?」
「はっ、そうですね!
義理立てる必要はありませんね。
わかりました!!
自分の気持ちに正直になり、タチアナ様に愛を請います!」
「うん、じゃあ、こいのおうえんするよ!
ねーねがアランをすきっていうしね」
「はいっ、ありがとうございます、シモン様!
まず、では、タチアナ様に好意を伝えてから……」
「あ~、いまはむりー。
ぼくあてにおてがみちょーだい?」
「そ、そうですね……。
今、サイラス将軍達のガードがかなり強固ですものね。
シモン様、承知いたしました!
タチアナ様とは、シモン様を通して、まず、文通をいたします」
「うん、そうしよー」と、シモンは、タチアナの味方として、アランと取り決めをしていた。
そのシモンとアランの取り決めの現場。
実は、スーザンが、ずっとその場にいた。
というか、シモンは、スーザンの膝に抱っこされながら、アランとそんな会話を繰り広げていた。
そう、青ざめながら、二人の会話をバッチリ聞いていたスーザン。
うーん、シモンったら、タチアナの味方なのね。
姉想いのいい子なのね~。
でも………。
それってシャーロ殿下に喧嘩を売ってない?
争いの種にならないかしら?
どう考えても、厄介な予感。
わ、私が、タチアナに悩みを打ち明けたばかりに……。
スーザンは、シモンを抱っこしながら、二人の会話に嫌な予感しかしなかった。
英雄の奥様は、隣国とのトラブルの予感がする!
とりあえず、アランには、一刻も早く帰国して、今後はあまりアバード家と関わらないで欲しいなと願うスーザンであった。
まあ、スーザン自身、自分の願いは、いつもあまり叶わないことを知っていたが……。
まだ続きます!




