6 angel's vision (7)
「真菅っち?」
隣を歩いていた畝傍が僕の顔を覗き込むようにした。
「どうしたんだ?ぼんやりして。」
僕は我に返った。
「ああ、すまない。やっぱり酔ったのかな。」
そうだ。僕がヒュキアと同じ場所に居たところで、できることなんか何も無い。足手纏いもいいところだろう。しかし、だからといって僕はそのまま皆とカラオケに行く気分にはなれなかった。
「悪い。帰る。」
それだけを言って、踵を返す。
友人たちとは反対の方向に歩を進めた。
きっと嫌な奴だと思われるだろう。『折角セッティングをしたのに』と後から苦言の一つも呈されるに違いない。けれど、今は平気な顔をして遊んでいられるような気分ではなかった。
本当に僕にできることは無いのだろうか。身体能力的には平均以下で、ましてや超能力なんて持ち合わせていない僕には、彼女の役に立てないのだろうか。
……無い。どう知恵を絞っても僕にできることは無い。なにしろ僕には彼女が今どこで何をしているのかを知る術さえ無いのだ。彼女を庇護するための経済力も政治力も無い。余りにも無力だ。
諦めるしか無いのか。
「真菅君。」
背後から声を掛けられて、振り向いた。
美好臥魚が追いついてきていた。
「あの……大丈夫?」
「え?」
「なんか具合が悪いらしいって畝傍君から聞いて。」
「ああ。帰って寝れば治る。心配しないで、美好さんは皆のところに戻ってよ。」
美好は僕に言われても、引き下がるつもりは無いようだった。
「ねえ、私ね、真菅君って他の人とは違うような気がして。ほら、皆のテンションってちょっとついていけない時が有るじゃない?そういう時、真菅君も私と同じなんじゃないかなって思っちゃって。だから」
そういう『ついていけないテンション』の代名詞のようだった美好がそんなことを口にするのが意外で、僕は思わず訊き返してしまった。
「だから?」
「だから、その、私と真菅君ってうまくいくと思うんだけどな。」
そうかもしれない。上辺だけの友達付き合いをして上辺だけの付き合いにうんざりして、うんざりしている同士なのだとしたら、僕と美好は似た者同士ということになる。お互いにもっと話をして関わり合ったら、案外、気が合うのかもしれない。
一瞬、ある光景が脳裏をよぎった。美好臥魚か、もしくは全く別の誰かと僕とが結婚して幸せな家庭を築く将来が。そしてその相手に、今回のヒュキアの話を婉曲して比喩的に遠回しに懐かしい不思議な昔話として語る、そんな未来が。
僕の本音なんて相手に解ってはもらえないだろうけれど、それは最初から諦めていたことだ。誰かに解ってもらいたいなんて思っていたわけじゃない。
普通の女の子と普通の付き合いをして、普通の恋愛をする。それのどこが悪いのだろう。
僕には判らなかった。
僕は返事をするために、口を開く。




