4 angel's right (3)
ヒュキアと僕と雛胤の三人は、めいめいにソファに座る。
「あんたは、なんで今まで彼女に一方的に命令し続けるだけだったんだ?」
「私の能力が不明だったから。」
雛胤の代わりにヒュキアが答えた。
「私の感知能力によって自分の思惑が全て見通されるのだとしたら、私と会うのは危険だと考えた。けれど、私に何もかもが読み取れるわけではないと把握したから、会う気になった。」
ヒュキアは雛胤を真っ直ぐに見た。
「アパートの私の部屋に盗聴器を仕掛けてあったのね。そして、たまたま隣の部屋の真菅との会話も、その盗聴器が拾っていた。」
「あーあ、ばらしちゃった。」
優男が両手を広げて大袈裟なジェスチャーをした。
「貴重な情報が満載だったよ。超能力研究所内の実情なんて極秘中の極秘だからねー。非常に興味深かった。あの調子でもっと色々と情報提供してくれるなら、僕の考えてることがちょっとぐらい君に分かってしまってもお釣りがくる。」
「私の情報提供を得たいのなら、まずは私から信頼を得なければならない。」
「だからこうして信頼を得ようと努力してるんだよ。」
僕は話に割り込んだ。
「他人の部屋に勝手に盗聴器を仕掛けるような人間を信頼できるわけがないだろう」
「あー、うー、それはそうか。謝罪するよ。大変な失礼をいたしました。マドモワゼル。」
やはり物腰柔らかに、片手を胸に当ててヒュキアに頭を下げる。
「別に気にしていないわ。慣れているから。」
「いや気にしろよ。」
ヒュキアと雛胤は僕の発言を無視した。
「君の部屋の盗聴器は、全て撤去したほうがいいかな?」
「もし私の全面的な協力を得たいのならね。」
ヒュキアはちらりと僕のほうを見た。盗聴器はヒュキア自身のストレスにはならないが、僕が不快に思っていることを慮っての交渉ということなのだろう。
雛胤は腕組みをした。
「うん。そうか。そうだね。今すぐに全て撤去させるよ。」
「実行するかどうかはともかく、今はそう言っておくしかないのは確かね。」
「うわ。やりづらいなー。でもその通りだよ。」
「私が滞在するための部屋を用意してくれたことには感謝しているわ。」
「それは何より。……で、その部屋の鍵を無くしちゃったんだって?」
「私のミスね。」
「よく有る事故だよ。」
雛胤はそう言って軽やかに立ち上がり、部屋の奥のデスクに足を運ぶ。
戻って来ると、ガラスのテーブルの上に鍵を置いた。
鍵は、二つだった。一つは僕のアパートの部屋の鍵によく似ている。
「ここに二つの鍵が有る。どちらかを選んでくれたまえ、ヒュキア。」
「手品でも始める気か?」
「まさか。この鍵は片方は、真菅君の隣の部屋のスペアキーだ。もう一方は、全く違う場所のとあるマンションの部屋の鍵。どっちを選ぶかは自由だよ。僕はどっちでもいいと思ってる。そうだな、あの町に君が居たことは連中にばれてしまっているから、全然違う地域のほうを選ぶのが賢明ではあるかな。どっちの鍵を選ぶにしても、交換条件は『それなりの情報を提供してくれること』ってところで。『それなり』というのがどの程度なのかは君に任せるよ、ヒュキア。」
彼女は黙って数秒間の間を置いた後、口を開いた。




