4 angel's right (2)
「到着しました。」
サングラスの女性がそう言って、運転席のドアを開けた。ライフル入りのケースを肩に掛けている。僕とヒュキアもそれぞれドアを開けて外に出た。
ヒュキアは車の中でスキーケースに入れていた銛を持っている。スキーケースはどさくさに紛れて僕が拾ってあったのだ。高かったんだからな。
通された先は、どうやら何らかの会社の事務所らしかった。
イメージとして最も近いのは、高級めの建築事務所といったところか。いや、デザイン事務所だとしたら当たり前か。物が少なくて整然とした雰囲気だ。僕とヒュキアの二人を中に案内して、サングラスの女は部屋の奥に向かって頭を下げてから退出する。
その事務所の奥、会社だったら課長とかの上司がデスクを置いているような位置に、若い男が座っていた。二十代後半ぐらいに見える優男だ。なんとなく、ふにゃふにゃねむねむした印象を与えられる。弱そうというのではなく、浮わついているというのでもなく、纏っている雰囲気が独特な柔らかさなのだ。僕はこんな人間を他に知らないから、例えようが無い。
彼はパソコン越しに僕たちを眺め、口を開いた。
「ヘイ、ボーイ!」
僕は男が給仕でも呼んだのかと思ったのだが、誰も現れなかった。僕に声を掛けたということなのだろうか。
男は立ち上がり、僕らのほうに近付いてくる。
「僕は雛胤丹膳。後ろに躍り込む愉快なナイスガイだとでも憶えてくれればいい。初めまして。お会いできて嬉しいよ。」
優男は握手を求めて片手を差し出してきた。しかし、僕もヒュキアもその手を握ることはしない。
雛胤の手は行き場を失ったが、別にそれを気にする様子ではなかった。
「レディ、君はヒュキアちゃんだね」
「ちゃんではないわ。」
「失礼。何とお呼びすればいいかな?」
「ヒュキアでいい。」
「ではヒュキア、ようこそ僕の根城へ。隣に居るのは誰だい?」
「僕の名前は真菅だ。真菅八宏。」
僕はこの男のノリについていけないながらも、なんとか答えた。
「なんてね、もう知ってるんだけどね。」
知ってるなら訊くなよ。
姪森さんがネット検索した情報によると雛胤丹膳は三十代半ばのはずだったが、それにしては目の前の男は若く見えた。ふわふわしたおかっぱの黒髪に、寝癖のような癖がついている。童顔。服装は黒いセーターにジーンズ。座っているときは小さく見えたけれど、身長は意外と高かった。脚が長いということか。さほど背が高いとは云えない部類に属する僕は、なんとなく対抗意識を覚える。
「しかし間に合って良かったねー。危ないところだったんだって?あんなのが出てくるなんて世も末だよ。新世紀は始まったばかりだっていうのに。」
「なんで僕のことを知ってるんだ」
「企業秘密。現代は色々とネットワークが発達してるからねー、とだけ言っておこう。」
「お前は今までヒュキアとの接触は避けてきたんだろう。なんで今になって会う気になったんだ?」
「初対面の歳上の人間をお前呼ばわりとは感心しないな。ああ誤解しないで、気に障ったわけじゃない。君の社会勉強のために言ってるんだ。あ、立ち話も何だから適当に座って。」
雛胤はソファとローテーブルの有る一角を指し示した。




