友達の彼女
自尊心が強く顕示欲も強い、でも他人にはそれに気付かれないようにやってきた
周りからは「優しくてイケメン」という評価をもらい続けて気が付けば30歳目前だ
俺、坂上陽一がそんな自分を認めて許したのは大学2年生の時だった
当時から経験上「友人の彼女には近付くな」というルールを自分に課していた
俺の初体験の相手は友人の彼女だった
その後も別の友人の彼女に言い寄られた事が何度かあった
人並みの道徳感を持っている自分としては人並みに罪悪感を抱えていた
珍しく1人アパートで酒を呑んでいると携帯電話がなった
ディスプレイに「かよちゃん」と出て正直ため息がでた
―また弘樹のやつ、携帯をとめられたな―と内心毒づきながら電話にでた
「もしもし、どうした?」
先に用件から聞くと
「もしもし、坂上君?」
と女性の声がした
多少は予想外だったが驚くほどの事ではなく
「あっごめんね、かよちゃんだったか、弘樹は?」
「うんん、弘樹は一緒にいないよ」
弘樹の所在の有無を確認した質問ではなかったのだが
「珍しいね、どうかした?」
「今は家にいるの?」
「だよ、一人で晩酌中」
「今、近くにいるんだけど行ってもいい?」
頭の中で音にならない警告音が鳴り響く
「ん、1人で?」
「そうだよ、ダメ?」
彼女が家に来るのは初めての事ではなかった
弘樹と来た事もあるのだが2人が付き合う以前はちょくちょく1人で泊りにくる時期があった
勿論、何もなかった訳ではない
弘樹に彼女を紹介したのは俺だ
俺はただ彼女を飲み会で知り合った友達として紹介し彼女もそれ以上は何も言ってないだろう
「いいよ」
警告音はますます大きくなった
何か久し振りに来たかも」
彼女は10分足らずでやって来た
それが家に来た事なのか、1人で来た事なのかは分からないが
「そうだっけ?それで今日はどうした?」
俺は彼女と部屋の真ん中にあるテーブルを囲むように座ってビールを開けながら聞いた
「ん〜なんとなく。ちなみに弘樹は友達と二泊三日で旅行中。帰って来るのは明後日よ」
まるで俺の次の質問を知っていたかのように言った
「あ〜何か聞いたかも。弘樹とは上手くやってるか?」
「まあね、だらしない所もあるけど優しいし」
彼女はすっと立ち上がって僕の左に隣りにちょこんと座ると
「もらうね」
とテーブルに置いた僕の呑みかけのビールを口にした
「おい、車だろ」
彼女は2度ほど喉をならして
「まあまあ」と笑った
僕はわざとらしく溜め息をつくとタバコに火をつけた
「やめたら、身体に悪いし臭いし」
「はいはい、いつかね」
そういいながら彼女のいない右側に煙を吐き出した
「だ〜め、今っ」
そう言いながら彼女は僕の右手にあるタバコを取り上げると灰皿に押しつけた
自然と俺の方に寄り掛かる体制になり「よいしょ」と言いながら両手を首にまわして身体を預けてきた
「危ないだろ」
俺は彼女を振りほどくわけでもなく灰皿のタバコの火を完全に消した
「あぁ暖かい」
彼女の声が左の耳から聞こえる
俺は動けず喋れなかった
何を言えばいい?
何がしたい?
何を期待してる?
何が正解だ?
ここまでされれば彼女の意図は明確だ
それ以上に俺がしたい事は明確だ
音のない警告音が具体的になる
お互いに「利」は一致しているが「害」はどうだろう
心臓が高鳴る、と言えば聞こえがいいが興奮して欲情している自分が告げる
けたたましい警告音とともに「いけ、やれ」と
それでも動けない
でも振りほどけない
何とか平静を装っていただろう俺の耳元で彼女は告げた
「大丈夫だよ。私、弘樹と結婚するから」
警告音はなり続けている
背中に冷たいものを感じる
友人の顔が浮かぶ
それでも身体は動き出した
熱病に苛まれるような感覚とそれに勝る高揚感と興奮が俺をつき動かす
多少なりとも見覚えのある彼女の身体が狂おしいほど愛しいのと同時に急激に冷めていく自分がいた
物音がして目を覚ますと彼女が着替えているとこだった
「起こしちゃった」
「いや」
彼女は手を止めずに続ける
「弘樹がね、卒業したら結婚しようって言ってくれたんだ」
「へぇ」
「……」
彼女は何かを言おうと躊躇したようにも見えたが「じゃあね」
と部屋から出て行った
あんなに誰かを求めた事はなかったのに俺は引き止めようとは思わなかった
宣言通りに3年後、彼女は結婚した




