魔導士ディーラー 満腹になったようです。
「お魚好きなんですかぁ」
黙ってもぐもぐと魚を食べているとメディーが話しかけてきた。
「ん? あぁ好きだよ。でもお寿司はもっと好きだけどね」
「おすし?」
彼女が目を丸くする。この世界では生食の文化がまだないから食材はなんでも火を通してから食べるのだ。
「いや別に。こっちの話しだよ」
慣れたころにはこっちの世界の方が充実した毎日をおくれていると感じることは多々ある。しかし前の世界に存在していたときから食べることだけがなにより楽しみだった私にとって寿司や刺身といったソウルフードが食べられないのは残念でならない。
また少し黙って残りの身をほじくりながら食べ進める。
彼女は無我夢中で食べていた昨日とは打って変わって私の様子をうかがいながら控えめだった。こどものころから食べ終わるまで黙って食えと言われて育った私だがメディーの場合は違うようだ。
なんだか緊張している気がしてならない。
そんな私の感想を、まるで察したかのように彼女が唐突に言った。
「私ぃ食べるの遅くてぇ、なのにさっきから喋ってばかりでごめんなさぃ」
うん、まぁ半分は泣いてたけどね。
小骨を指でとりながら、もうすでに尾っぽの先まで食べつくした私を気遣っていた。
「大丈夫だよ気にしないで、それに朝飯くらい楽しくお喋りしながら食べたって罰はあたらないよ」
自分でも意識して柔らかい笑顔を作った。
「はぃ、ありがとうございますぅ~あのぉムートさんが好きなおすしという食べ物はどんなものなんですかぁ」
「あぁそれはね……」
寿司を知らない人に寿司を説明しようとどんなに丁寧に話しても素人の私では上手く伝わらない。その道を極めた職人であればネタの仕入れからシャリの大きさまで事細かくなおかつ分かりやすく伝えられるのだろうが私には米に刺身がのっている美味しい料理くらいしか伝えることができない。
案の定キョトンとした顔でこちらを見ていた。
「火を通さなくてそのぉ、病気とかぁ呪いとかぁ大丈夫なんでしょうかぁ」
彼女の感想はそれだった。味の美味しさとか見た目の美しさとかうんぬんより私の思考に偏重している。
それはそうか、どんな食材にも魔力が宿り、ときにはその身に呪いが宿って特殊調理免許を持った料理人しか調理できないな食材もある。
そんな異世界の料理のセオリーはとりあえず火を通すことだ。
いつか味の探究者と呼ばれる人間がこちらの世界に転生されて異世界回転ずしとか開いてくれたらありがたい。
そうなったら不適切な動画が出回る前にぜひ食べに行きたいものだ。
「まぁとりあえず言えることは魚はどんな料理でも美味しい。メディーがとってくれてよかった」
「はぃ」
メディーがまんざらでもない顔を浮かべる。少し得意げなのが可愛い。
手元の焼き魚を見る。
目玉をほじくって、口に含み、強く噛みしめた。
皮肉なものだ。異世界で二度目の人生をおくっている私は初めて命の大切さとか尊さを知った気がする。
前の世界でもこんな気持ちで過ごしていたら何か変わっていたのかな。
そんな自分を卑下しながらそれでも自己満足と罪悪感を和らげるために、私は今日も手を合わせて言う。
ごちそうさまでした!




