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魔導士ディーラー 思わず本音が飛び出したそうです。

 メディーと朝ご飯の準備を始めたうえで問題がある。


 魚は串焼きにするとして塩がない。


 これは切実でどうしようもない問題だ。


 焼き魚を食すのに塩がないなんて……多分これ以上の悲劇は世界中どこを探してもないだろう。


 違約金がたんまりあるのに商店がなければ調味料のひとつも満足に買えないとは私たちはとことん無力だ。


 そんなことを心で嘆いてるうちに魚はいい具合に焼けてきた。


 メディーに手渡されるままに肥えた腹に嚙みついた。


 なるほど龍脈の魔力をいっぱいに含んだ虫や小魚を食べていた魚だけあってそのままでも充分旨味がある。


 メディーは黙々と食べる私を眺めて目じりが落としていた。


「なに?」


「いえ~そのぉお体とか痛くないでしょうかぁ」


「えっ、そういえば痛くない」


 言われてみれば斜面から転げ落ちたときに負った全身打撲の継続的な痛みはいつの間にか消えていた。


「そうか、これも手当か」


「はぃ、昨夜ずぅっと『手当て』をしましたぁ、直接肌で密着できなかったのでぇ心配したんですけどぉ」


「『手当て』って両手だけじゃなくて全身でもできるのか? そんなことどの魔導書にも書いてなかった」


「はぃ、私が考えましたぁ……でもこれって常に身体に密着させないといけないから、効率も悪くてぇ……、あ、あとムートさぁんの右目の色治らないし、私はダメダメですぅ」


「み、右目?」


 魚を口にくわえたまま右手で指をさす。しかし何か見えにくいとかそういうのは全く感じられなかった。


「右目が変色している? でも何も悪い影響は感じないけど」


 私は左目を左手で隠し右目だけで遠くの景色を眺める。うんやはり何も違和感はない。いつもどおりの視力に安堵しながらも心配そうに見つめるメディーを視界に入れた時【それ】は起こった。


 ステータスオープン 真実の瞳レベル1を発動。


 脳内に流れる声とともに目の前にメディーのステータスが開示されていく。


「はんだほれ……?」


 左の瞼を閉じて左手で魚を持つ。それでもステータスは消えなかった。


「ムートさぁん」


 メディーの呼びかけをいったん無視して、私はとある項目をタップした。


「メディー、きみって身長151センチで体重が43キロしかないって痩せすぎじゃないか」


「えっ……」


 それは彼女の年齢や身長、魔力量、スリーサイズまで本人しかしらないことが列をなして空間に浮かんでいた。


「なななな、なぁんで知ってるんですかぁぁ」


「知ってるもなにも目の前に……もしかしてメディーには見えてないの?」


「見えてないってぇ、私には何も見えませんけどぉ、ム、ムートさぁんにはそ、そのぉ見えてるんですか? 私のステータス……」


「見えてるよ、魔力量とか、スリーサイズとか、あっ」


 メディーの頬が赤くなっていく、自分のステータスを他人に開示するなんて人前で裸になるくらい恥ずかしいことだということを忘れていた。


「むぅう、見、見ないでくださぁい!」


 目の前に広がる何もない空間に必死で両手を振り回す。しかし私の眼前にあるメディーのステータスは消えることはなかった。


「メ、メディ、ちょっとごめん」


 荒ぶる彼女が覆いかぶさってついバランスを崩す。私は魚が地面に落ちないようにフォローすると、図らずもメディーのある項目に指が触れてしまった。


 魔導師メディー 階級 白魔導師 

 

 外科領域魔法 13点 E評価

 内科領域魔法 14点 E評価

 循環内魔力領域魔法 88点 A評価

 精神領域魔法 78点 B評価

 整形領域魔法 2点 E評価



 ――循環内魔力領域魔法の分野がA評価だって……


 私は驚いて二度見した。魔導師が最も華やかに映り、他社から見て実力が分かりやすいのが外科領域魔法の評価だった。その理由として前衛の戦士たちは常に肉弾戦で肉体のダメージを負いやすい、そんなとき後衛から回復魔法を放ちボロボロだった肉体が即座に再生すれば一目で有能な魔導師だと分かるのだ。だからこそ魔導師たちはパーティーに誘われるために外科領域魔法の分野を進んで学び鍛えるが、メディーはそこの評価が最低ランクで、循環内魔力領域魔法、目立たないが近代魔族戦闘に必要な魔導師として一番A評価をもらうのが難しい分野をマスターしていた。


「いたたたぁ、あっごめんなさい」


「大丈夫だよ」


 慌てて起き上がったメディーに心配無用と微笑み、私たちは再び座りなおした。


「メディーは金の卵だったんだな、すごいよ、循環内魔力領域魔法の分野でA評価なんて」


「……で、でもぉあんまり役に立てなくてぇ」


 そう言うと彼女は喜ぶどころか顔を俯かせてやつれたように笑った。


「今だってぇ病み上がりのムートさぁんに迷惑をかけて……結局私は魔導師に向いてませんよねぇ」


「そんなことはない。メディーは良い魔導師になれるよ!」


 言葉を選ぶことを忘れありのままの感想を放ってしまった。


「そんなことぉ……私なんてぇ……」


「本当だよメディー、私はきみに身体だけでなく心も救われた。これはすごいことだ。私は魔導師ディーラーとしていろんな魔導師について仕事をしてきたけど心を癒す魔導師はいなかった。メディーのその優しさと努力は才能だ。今はまだつぼみの状態だけどきみの才能は魔導師を続けていればきっといつか花開く。メディー! きみは最高の魔導師になれる可能性を秘めているんだ……うん?」

熱弁する私の語り草にメディーは前のめりにした姿勢を正して、涙を流している。


「うぅ……ふわーん」


 空を見上げるように顔を上向きにして大量の涙を放出させる。その光景に左目を開けるとメディーのステータスは消えてしまった。


「は、初めてそんな嬉しいことを言われましたぁ」


 感情の高ぶりに魔力が混ざって、涙が宙を舞う。


 手に持った焼き魚にメディーの涙がかかって、私はちょっとだけ躊躇しながら魚をかじる。


「あぁ、塩っ気がちょうどいいかも」と口に出したが、少女の涙を調味料にして飯を食う大人を俯瞰して、最高に気持ちが悪かったので、無言で食べ進めた。



 











 

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