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車男短編集  作者: 車男
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風磨くんと日向くん

 風磨(ふうま)くんと日向(ひなた)くんは、小学校に入ってから仲良くなった。彼らはいつも一緒に行動し、褒められる時も怒られる時も一緒だった。彼らはいろいろなことで競争した。かけっこや早食い、テストの点数。その勝負の結果はいつも互角で、そのおかげで、彼らはなんでもできる男の子になりつつあった。


 ある日のこと、プリンの早食い競争で引き分けた二人は、給食の後の昼休み、教室で静かに座っていた。二人とも、プリンを一飲みしたせいで、お腹が痛くなっていた。

風磨くんは言った。

「暇だなあ。ハラ痛くて外で遊べねえしよお」

日向くんは言った。

「ああ、んじゃなんか、今できることねえかな」

風磨くんが答えた。

「・・・うーん、なにか対決できるとすれば・・・、あいつかな」

日向くんは、風磨くんが指差した方を見た。そこには、クラスメイトの女の子、旅川さんが机に伏して、上履きを履いた足をぶらぶらとして眠っていた。ちなみに、旅川というのはれっきとした名字である。日向くんは言った。

「旅川さんを、どうするんだよ」

風磨くんが答えた。

「あいつが今ぶらぶらしてる足から、上履きを、どっちが脱がせられるか、勝負しよう。それならあんま動かなくていいしな。スリルもあるだろ?」

旅川さんはなかなか活発な女の子で、一部の男子からは何故だか恐れられていた。

日向くんが言った。

「なるほど、面白そうじゃんか。じゃあ風磨くん、行ってこい!」

風磨くんは自信満々に席を立つと、旅川さんの席に近づき、おもむろに床に伏せ、旅川さんの足元に手を伸ばした。旅川さんは気づかず、そのまま、慎重に旅川さんの足元から、上履きを脱がせにかかる。

 日向くんはその様を見て思っていた。

(実力行使か、やるなあ、風磨くん。でも、うまくいくかなあ)

風磨くんは旅川さんの左足の上履きを脱がせようとしている。だが、つま先部分が引っかかってなかなか取れない。そうするうちに、旅川さんがもごもごと起き上がる。同時に、ハラ痛でいつものように敏捷に逃げられなかった風磨くんが、自分の上履きに手をけかけていたことに気づく。旅川さんは足元にいる風磨くんに、冷ややかな目をして言った。

「・・・なにしてんの?」

風磨くんは床にはったまま、照れ照れとして答える。

「・・・ええと、匍匐前進の、練習・・・?」

もちろん旅川さんはそんな言い訳を信じることなどなく、

「・・・あたしのパンツ見ようとしてたんでしょ?この、スケベ!!」

そう言って、風磨くんが苦労してようやく上履きを脱がせ、白いハイソックスだけになっていた左足で、風磨くんのハラを蹴り上げた。

「おぐう!!!」

風磨くんはそのまま、トイレへと駆け出した。

旅川さんは何事もなかったかのように、左足の上履きを履き直して、再び机に突っ伏した。どうやらそうとう眠たいらしい。日向くんは心配になってトイレへ様子を見に行ったが、聞きたくない音が聞こえてきたため、そっと教室へと戻った。

 10分後、風磨くんが晴れやかな顔でハラをなでなで戻ってきた。どうやらスッキリしたらしい。風磨くんは言った。

「いやー、失敗したな。まさかあそこで気づかれるなんてね」

日向くんは優しく言った。

「実力行使じゃ、だめさ。今回ばかりは、もっと知恵を使わなきゃ」

風磨くんがにやりとして言った。

「ほう、なかなか自信あるじゃん。その、知恵ってやつ、見せてもらおうか、日向くん」

日向くんは答えた。

「ああ、みてろよ、風磨くん」

日向くんはそれから、教室中の窓を閉め始めた。この時、季節は夏。空気の流れを遮断された室内は、次第に気温が高くなる。窓と教室入り口まで全て閉め終えた日向くんは、風磨くんの元へと戻ってきて、言った。

「準備完了。後は見とくだけさ」

風磨くんは首を傾げて言った。

「どういうことだ?」

その問いには答えず、日向くんは旅川さんの席を後ろから見つめる。風磨くんもそれにならう。すると数分後、旅川さんが足元をもぞもぞとさせ始めた。風磨くんが驚いて言った。

「おお!そっか、暑くして、上履きを自分で脱ぐよう仕向けるのか」

日向くんは答える。

「ああ、ほら、みてみろよ」

旅川さんはしばし上履きを履いた足をもぞもぞさせていたが、やがて両足の上履きを脱ぐと、ソックスだけになった足で、その上履きを、椅子の下へと追いやり、足をそのまま床につけた。汗をかきかき、風磨くんは言った。

「すげえ。よく気づいたな、こんなこと」

日向くんは汗をかきかき、得意げに言った。

「まあね。いつも旅川さんは、暑い時、自分で上履きを脱いで、靴下になってたんだ。それを使ったのさ」

風磨くんは感心したように言う。

「なるほどな。・・・今日はお前の勝ちだな」

日向くんは嬉しそうに答える。

「よっしゃ!久しぶりに勝負がついたな!」

 その時、日向くんの頭に何かが当たった。見るとそれは、小さな消しゴム。振り返ると、そこには寝ていたはずの、ひどく機嫌の悪そうな旅川さんが、靴下だけの足で、教室の床に立っていた。日向くんはおろおろとして言った。

「お、おはよう、旅川さん・・・。どうか、したの?」

風磨くんも言う。

「ま、まあ、落ち着けよ、旅川さん・・・」

そんな声も耳に届かず、旅川さんは言った。

「あんたたちねえ・・・。あたしの安眠を、妨害したいのかしら?いったいどうして、教室が閉め切られてるのかしら?・・・あんたたちよねえ?」

二人はビクビクして答える。

「え、ええっと、ちょっと、我慢大会しよーてきな、なあ、日向くん?」

「う、うん、旅川さんは気持ち良さげに寝てたから、起こしちゃ悪いなあって思ってさ・・・」

ますます不機嫌になる旅川さん。

「あんたらねえ・・・。いい?今度じゃましたら、これじゃ済まないんだからね!!おぼえときなさいよ!」

そう言って、二人の向こう脛に蹴りを加え、靴下だけの足でハラまで蹴った。床に倒れ伏す2人に、さらに旅川さんは言う。

「はーい、二人とも、10秒以内に窓をぜーんぶ開けなさい。さもないと・・・」

途端に2人は飛び上がり、手分けして窓を開ける。しかし10秒には間に合わず。

「はーい、10秒!お前ら、覚悟お!!」

そう言って旅川さんは靴下のまま2人を追いかけ始めた。2人は未だにじんじんする脛とハラを抑えながら、昼休みの終わるまでの残り20分間、靴下で追いかける旅川さんから、学校中を逃げ続けていたのだった。


おわり

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