ラブロード!
「・・・今日、どうだった?」
「え?うーん、とっても、楽しかったよ!」
「そっかあ。ならよかったよ。じゃあ、また明日」
「うん。バイバイ」
ケイタは私に手を振りながら、地下鉄の駅へと消えていった。私は、夜の町に一人、残された。5分も歩けば住宅地が広がる地域にある地下鉄駅。私の家は、ここから歩いて15分ほどだった。ケイタは私を心配して、この駅まで送ってくれた。彼の自宅はまた繁華街に戻らなければならないのに。
電車がまた到着したらしく、駅の出口から人が溢れ出てきた。今日は金曜日。仕事帰りのお父さんたちの表情は、明日がおやすみだからなのか、どことなく明るかった。
私はそばのベンチに座った。ずっと、気になっていた。今日私は、淡い水色を基調としたワンピースを着て、カーディガンを肩にかけ、白いソックス、パンプスを履いていた。私はその、パンプスをちょっと脱いでみた。先週買ったばかりで、今日初めて履いて、街を歩いた。そのせいか、足が痛くなっていた。彼と一緒に電車に乗っているときもジンジンしていたのだが、彼に気づかれると、いろいろと迷惑をかけてしまいそうだったから、黙っていた。でも、痛い・・・。
私はどうしようか考えた。人通りはすでに少なくなっている。また電車がつくと、ドバッと出てくるだろう。その前に、帰ろう。
タクシーを使おうかとも思ったが、あいにく駅前にタクシーはいなかった。みんな出払っているようだ。私は意を決して、両足のパンプスを脱いで手に持つと、白いソックスだけで地面に立った。レンガのゴツゴツとした感触を靴下越しに感じる。汚い感じはするけれど、痛いままパンプスを履いて歩くよりはましだと思った。きつくないし、気持ちいい。そのままペタペタと、駅前を歩き出す。他の人から見ると、変な人だと思われちゃうかな。ちょっと、恥ずかしい。信号が青になって、横断歩道を渡る。止まっている車の運転手さんには、私の足元は見えているだろうか。白いソックスの足裏はきっと真っ黒になってしまうだろうな。
駅前のちょっとした喧騒を抜けると、すぐに静かな住宅地に入った。新しく大きな家々が道路沿いに連なる。私はその前を、片手にパンプスを持ち、ペタペタと歩いていた。やっぱり、パンプスより歩きやすいし、気持ちいい。
最後に道路を裸足で歩いたのは、いつ頃だったかと思いだす。そうだ、高校の時、大雨で道路が浸水し、靴がびしょびしょになって、友達と一緒に、裸足になって帰ったこともあったな。
半分くらい歩いただろうか、辺りはすっかり静寂に包まれている。その時だった。背後から誰かが走ってくるのに気づいた。よっぽど急いでいるのだろう、バタバタと足音が響く。気になって振り返った私は、思わず立ちすくんでいた。こちらへ向かって走ってくる男の人。彼はさっき別れて、帰ったはずのケイタだった。
ケイタは私のそばまで来ると、ゼーハーゼーハーと息をつき、やがて落ち着くと、右手の袋を差し出した。
「こ、これ、アヤナに・・・」
「どうして・・・。なに、これ?」
わけもわからないまま袋を開くと、そこには一足のクロックスが入っていた。よく見ると、袋は駅の靴屋さんのものだ。
「これ、私に?」
「うん。なんかさっき、足元気にしてたみたいだからさ、痛いのかなって、思って。パンプス、それ今日初めてはいてきてくれたんだよね?」
「う、うん・・・。でも、どうして・・・」
「それくらいわかるよ。僕にはアヤナしか見えてないんだから」
「ケイタ・・・」
「おいおい、裸足で歩いてたの?危ないよ。さ、早く、履いてみて」
「うん!」
私は袋からだした黄色いクロックスに靴下を履いた足を入れた。
「ちょっと、大きいな」
「あ、あれ?サイズ間違ったかな・・・」
「いいよ。嬉しい。そっか、ケイタ、私のこと、ずっと見ててくれたんだね」
「えっと・・・なんか、照れるな」
「ありがとう、本当に」
「どういたしまして。せっかくだから、家まで送っていくよ。暗いし、誰もいないし、怖いだろ?」
「ありがとう。じゃあ、お願いします」
私はまた、歩き出した。ふと思い立って、彼の腕に手を絡める。
「・・・ケイタ、暖かい」
「走ってきたからね」
「・・・ねえ」
「ん?」
「・・・ううん、なんでもなあい」
「なんだよ」
私の家は、もうすぐ、そこだ。
おわり




