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車男短編集  作者: 車男
39/54

ラブロード!

 「・・・今日、どうだった?」

「え?うーん、とっても、楽しかったよ!」

「そっかあ。ならよかったよ。じゃあ、また明日」

「うん。バイバイ」

ケイタは私に手を振りながら、地下鉄の駅へと消えていった。私は、夜の町に一人、残された。5分も歩けば住宅地が広がる地域にある地下鉄駅。私の家は、ここから歩いて15分ほどだった。ケイタは私を心配して、この駅まで送ってくれた。彼の自宅はまた繁華街に戻らなければならないのに。

 電車がまた到着したらしく、駅の出口から人が溢れ出てきた。今日は金曜日。仕事帰りのお父さんたちの表情は、明日がおやすみだからなのか、どことなく明るかった。

 私はそばのベンチに座った。ずっと、気になっていた。今日私は、淡い水色を基調としたワンピースを着て、カーディガンを肩にかけ、白いソックス、パンプスを履いていた。私はその、パンプスをちょっと脱いでみた。先週買ったばかりで、今日初めて履いて、街を歩いた。そのせいか、足が痛くなっていた。彼と一緒に電車に乗っているときもジンジンしていたのだが、彼に気づかれると、いろいろと迷惑をかけてしまいそうだったから、黙っていた。でも、痛い・・・。

 私はどうしようか考えた。人通りはすでに少なくなっている。また電車がつくと、ドバッと出てくるだろう。その前に、帰ろう。

 タクシーを使おうかとも思ったが、あいにく駅前にタクシーはいなかった。みんな出払っているようだ。私は意を決して、両足のパンプスを脱いで手に持つと、白いソックスだけで地面に立った。レンガのゴツゴツとした感触を靴下越しに感じる。汚い感じはするけれど、痛いままパンプスを履いて歩くよりはましだと思った。きつくないし、気持ちいい。そのままペタペタと、駅前を歩き出す。他の人から見ると、変な人だと思われちゃうかな。ちょっと、恥ずかしい。信号が青になって、横断歩道を渡る。止まっている車の運転手さんには、私の足元は見えているだろうか。白いソックスの足裏はきっと真っ黒になってしまうだろうな。

 駅前のちょっとした喧騒を抜けると、すぐに静かな住宅地に入った。新しく大きな家々が道路沿いに連なる。私はその前を、片手にパンプスを持ち、ペタペタと歩いていた。やっぱり、パンプスより歩きやすいし、気持ちいい。

 最後に道路を裸足で歩いたのは、いつ頃だったかと思いだす。そうだ、高校の時、大雨で道路が浸水し、靴がびしょびしょになって、友達と一緒に、裸足になって帰ったこともあったな。

 半分くらい歩いただろうか、辺りはすっかり静寂に包まれている。その時だった。背後から誰かが走ってくるのに気づいた。よっぽど急いでいるのだろう、バタバタと足音が響く。気になって振り返った私は、思わず立ちすくんでいた。こちらへ向かって走ってくる男の人。彼はさっき別れて、帰ったはずのケイタだった。

 ケイタは私のそばまで来ると、ゼーハーゼーハーと息をつき、やがて落ち着くと、右手の袋を差し出した。

「こ、これ、アヤナに・・・」

「どうして・・・。なに、これ?」

わけもわからないまま袋を開くと、そこには一足のクロックスが入っていた。よく見ると、袋は駅の靴屋さんのものだ。

「これ、私に?」

「うん。なんかさっき、足元気にしてたみたいだからさ、痛いのかなって、思って。パンプス、それ今日初めてはいてきてくれたんだよね?」

「う、うん・・・。でも、どうして・・・」

「それくらいわかるよ。僕にはアヤナしか見えてないんだから」

「ケイタ・・・」

「おいおい、裸足で歩いてたの?危ないよ。さ、早く、履いてみて」

「うん!」

私は袋からだした黄色いクロックスに靴下を履いた足を入れた。

「ちょっと、大きいな」

「あ、あれ?サイズ間違ったかな・・・」

「いいよ。嬉しい。そっか、ケイタ、私のこと、ずっと見ててくれたんだね」

「えっと・・・なんか、照れるな」

「ありがとう、本当に」

「どういたしまして。せっかくだから、家まで送っていくよ。暗いし、誰もいないし、怖いだろ?」

「ありがとう。じゃあ、お願いします」

私はまた、歩き出した。ふと思い立って、彼の腕に手を絡める。

「・・・ケイタ、暖かい」

「走ってきたからね」

「・・・ねえ」

「ん?」

「・・・ううん、なんでもなあい」

「なんだよ」

私の家は、もうすぐ、そこだ。


おわり

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