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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第8章 ばれない嘘はつかないこと。
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47話 撮れ高

「ちょっ、ボクをって!? オスカルッ、何を勝手ナ事を――」


 ラフィーナが抗議しかけた瞬間。


「きたー! これは撮れ高チャンス! 楓、椅子を用意なさい!」


 ハンチング帽子とサングラスを装備した謎のプロデューサーっぽい格好に扮したアピィが、メガホンを片手に興奮気味に叫ぶ。


「はっ、既にこちらに」

「オッケー! はい、ラフィーナはここに座って!」

「えっ、チョっと!? アペルチャ――むーっ!?」


 用意された椅子に無理矢理座らされたラフィーナが、植物の蔦でぐるぐる巻きにされて猿ぐつわを噛まされる。

 最終的には景品と書かれた札を首から掛けられて、ラフィーナがむーむーと唸る光景が展開された。

 この主従はどっちの味方なんだ。


「はい、これカンペね。噛んだらダメよ」

「…………」


 勢いに気圧されたのか、オスカルも黙ってメモを受け取る。

 気まずそうに互いに目を合わせて、口を開いた。


「えー……いいだろう。ただし、こっちが勝ったらそっちにも代価を払ってもらうぞ」

「……代価、ダト?」

「無論、お前の身体で――何を言わせやがる!」


 メモをビリビリに破り捨てる。オスカルの方は黙って燃やしていた。

 楓も、耳を赤くして顔を背けるぐらいならアピィに付き合うんじゃない。


「おい、アピィ」

「場を和ませる為のジョークよ」


 変な空気にしかなっていない。


「いいじゃない、決闘ぐらい受けて立てば。要はそこの人形、自分の方がラフィーナに相応しいって言いたいんでしょ?」

「……ソノ通リダ」

「実は私も、ラフィーナが運命の相手だと思ってたのよ」

「!?」


 まさかの言葉に、オスカルが目を見開く。

 ラフィーナと楓までもが、動揺を隠せなかったのか頬を赤く染めてアピィを見つめている。


「あらあら? これで三つ巴ということになっちゃったわね。でも今はハリーと協力するって契約中だから――仕方ないわね。私は、ハリーと組ませてもらうことにするわ」


 にやりと笑って、アピィがオスカルに告げる。

 俄に、オスカルの表情が歪んだ気がした。

 味方ながら実に頼もしくあり、同時に厄介なものだと感心する。


「文句はないでしょ?」

「……魔女ノ助力ナド、話ニナラヌ」

「人間相手に決闘を挑んだ人形の台詞じゃないわね。直感だけどあなた、マキシムより強いでしょ?」

「…………」


 アピィの理詰めにオスカルは反論できない。

 押し黙るということは、図星を意味しているのか。


「とはいえ、私も悪魔だけど鬼じゃないわ。ハンデとして、あなたに直接手出ししないことを約束してあげる。あと、勝負方法もそっちが決めていいわ。それならどう?」

「シカシ……。イヤ、ソレナラ――」

「~~っぷは! ちょっト待ちなさイ、キミ達!」


 オスカルが頷きかけたところで、ようやくラフィーナの猿ぐつわが外れた。

 同時に少女の細腕とは思えない力で、蔦による束縛も引きちぎって立ち上がる。


「ボクの意見を無視しテ勝手に決めナいで! こンな人形達の問題にダーリンを巻き込ムなンて、出来るハズないでショ!」


 真剣な顔つきでラフィーナが怒りの声をあげる。

 きっとその言葉に偽りはなく、純粋な心配から来る感情なのだろう。


「ダーリンも! 黙ってタらほんトに決闘すルことにナるんだよ!?」

「それはそうだが。しかし、存外良い作戦なんでな」

「へ?」


 大きな瞳をぱちくりさせて、ラフィーナが間の抜けた声を上げる。


「君の出した課題に加え、この国が抱える問題をまとめて解決できる妙手といえる。勝ちさえすればな」

「どやぁ!」

「褒めてないぞ」


 アピィがそこまで考えていたかどうかはさておいて。

 一対一では勝負にすらならなかったであろう決闘に、モンスタークレーマーばりの強引さで魔女のサポートをねじ込んだのは大きい。

 オスカルを捕まえるだけでは、いずれ第二第三の暴走人形が出現する可能性がある。

 だが、公の場で勝利を収めれば、反抗勢力は力を弱めるだろう。

 リスクはあるが、任務達成の為なら挑む価値は十分にある。


「……ダーリン、ボクの為に戦っテくれるノ?」

「ああ」

「怪我すルかもシれないし……最悪、死ンじゃうコトだって――」

「覚悟の上だ」

「も、もシかして……ボクのこと好キ?」

「いや、それはまた別」


 淡白にそう返すと、糸の切れた人形のように、ラフィーナの首がカクンと項垂れた。


「これデも脈無しトかさァ……もう、愛っテ何なのサ……」


 虚ろな眼差しでぶつぶつと何か呟きだした。呪いの人形か。


「姫様!? オノレ、貴様……!」

「待て、俺は多分悪くない」


 怒りを顕にするオスカルに釈明し、無罪を主張する。

 彼女のことは、人物としては好ましいと思っているのだ。単に自分に恋愛感情が存在しないだけで。

 そしてそんな混沌とした光景に、楓が良い笑顔で親指を立てエールを送っている。この娘も、一体何と戦ってるんだ。


「イイダロウ。魔女ノ出シタ条件デ、コノ決闘ヲ受ケテ立ツ!」

「なぜ俺を指差す」


 最初に手袋を叩きつけたのはそっちだろう。

 あとアピィ、カンペ出してももう読まないからな。何が「ここでボケて!」だ。


「勝負方法ハ後デ手紙ヲ送ル。ソレマデ首ヲ洗ッテ待ッテイロ!」


 マントを翻すと、オスカルが滞空していたペガサスへと跳躍する。

 星屑の尾を引きながら、金色の人形は灰色の空へと消えていった。


「あっ、コラー! 勝手に決メるなって言ったデしょー!」


 その後ろ姿にラフィーナが抗議するが、既に後の祭りだ。


「ふっ、これで視聴率20%は固いわね。ちょろいもんよ」

「さすがの手腕でした、お嬢様。肩をお揉みします」

「うむ。あとマシュマロもね」

「ご用意いたします」


 敏腕プロデューサーは自分の仕事にご満悦の様子だった。

 結果は別に良いのだが、どこか釈然としない。


「いやいやいや……駄目デしょ、これ!」


 一方で、なし崩しに決闘の賞品となってしまったプリンセスはご立腹だ。

 険しい目つきでアピィに詰め寄る。


「アイ・アム・魔女! わカッてる!?」

「ごめんなさい、英語はちょっと」


 アピィが困り顔で目を伏せる。

 思いっきり聞き取れているのだが、もはや何も言うまい。


「もし負けタらどうするのサ!? オスカルが王様になっちゃウじゃん!」

「勝ちゃあいいのよ、勝ちゃあ!」


 ちっちゃいオッサン化したプロデューサーが横柄な態度でまくし立てる。

 だが、勝てばいいというのは紛れもない真実だ。


「心配する気持ちは分かるが、俺達に任せてくれないか、ラフィーナ」

「ダーリン……でもっ」

「あの夜に約束したろう。君の為に全力を尽くすと。その言葉に偽りはない」

「~~~~ッ!?」


 ラフィーナの顔が沸騰したかのように真っ赤に染まる。

 そのまま蒸気が抜けるかのように、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。

 放心した様子で、ボーッとしたまま宙空を見つめてピクリともしない。


「まさに、一撃必殺ねぇ」

「……今更ながら、言葉を選べばよかったな」


 決して深い意味で言ったのでは無かったが、確かに誤解を受けそうな言葉だった。

 まぁ、言い訳は勝ったあとで考えよう。


「お嬢様がお手伝いされるなら、今度は私が応援ですかねぇ。……あれ? もしかして私、また一人になるんじゃ――」


 楓の小さな呟きが現実になったのは、その日の夕刻に一通の手紙が届いてからだった。

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