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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第7章 告白が日常的過ぎるのもどうかと思う。
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38話 愛の伝道師

 エリア内を巡回するバスに乗り、ラブコロシアムエリアへとやって来た。

 このエリアの特徴は名称そのままで、中央に分かりやすく配置されたコロシアムが目を引いた。

 何でも、三角関係の悪魔が自身の愛を証明する為に戦ったり、勇気や強さを恋人に示す為にパーク側が用意したグラディエーター人形と戦ったりするらしい。

 それに乗じた賭け事が出来るのもお約束で、他エリアとは毛色の違う興奮と熱狂が周囲から伝わってくる。


「色んな愛に対応してるんだな、この国は」

「愛は戦争ダよ、ダーリン♡」

「……争いもまた、愛ゆえか」


 ふと、戦いにまみれた人間の歴史を思い返す。戦争とはやはり度し難いものだ。

 いや、感情そのものが複雑怪奇なのか。


「やはりグラディエーター人形も、愛の為に暴走しているのでしょうか?」

「親分人形と同じく、黒幕が暗躍しているのなら可能性は高いだろうな。暴走人形が三体まとめて出た事が、偶然とは考え辛い」


 親分人形は愛を学習する為に、愛の象徴となる物を集めていた。

 では、グラディエーター人形の目的は何だろうか?


「いやァ、うちの子達が暴走すルなんてヨくある話だと思ってタからねー。まさか暴走を振りマいてる子が居るだなンて」

「分かる分かる。うちの植物達もよく私を食べようとしてくるもの」


 この世界はトップの認識が緩すぎる。


「と、とりあえず北門に移動してみましょうか?」

「……そうだな」


 楓の提案に従って、真反対にある北門へ移動する。

 コロシアムの外周はかなり広く、ちょっとした散歩のような道程だった。

 到着した北門付近は存外静かなもので、人通りもなく落ち着いているように見える。


「……ふむ。特に何も無――」

「きゃーっ!」


 唐突に、悲鳴が響き渡った。

 咄嗟にそちら振り向くと、木々の向こうにある広場で、通常より一回り大きな人形らしき物体が見え隠れしている。


「出たか! 行くぞ!」


 広場へ続く回り道を走り抜ける。

 やがて視界が開け、目の前に広がった光景を確認した時、思わず声を失った。


「サァ! モット声ヲ張ッテ大キナ声デ!」

「僕はぁ! アッちゃんのことがぁ! だ、大好きでぇす!」

「きゃーっ! もっと、もっと言って♡」


 鎧兜を装備した大柄な人形が、カップル悪魔の男性側の隣に立ち、愛の告白を強制させていた。

 なんだこの光景。


「ム? ドウヤラ出歯亀ガ現レタヨウダナ」


 人形――おそらく格好からして、ターゲットのグラディエーター人形だろう。それがこちらに気付いた。


「た、助かった……! 行こう、アッちゃん! こんなストレートな告白、インキュバスの僕にはとても耐えられない!」

「えぇ~? 私は結構嬉しかったんだけどなぁ♡」


 逃げるようにして、カップル悪魔は走り去っていった。

 それを横目で追って、グラディエーター人形がこちらへ剣を突きつける。


「人ノ恋路ヲ邪魔スルトハ、無粋ナ輩共ヨ。愛ノ伝道師タルコノ『マキシム』ガ、灸ヲ据エテクレヨウ!」


 自らをマキシムと名乗った人形が、自分目掛けて突っ込んでくる。


「ちっ、見た目通りの猪タイプか……!」


 ホルダーから銃を抜き放ち、膝関節を狙って3発を発射する。

 2発が確実に着弾したにも関わらず、マキシムの勢いはまるで衰えない。


「効かないのか!?」

「駄目! 避ケてダーリン!」


 ラフィーナの声に、咄嗟に横に跳んで突進を回避する。アピィ達も難無く回避に成功したようだ。

 先程と位置を入れ替える形になり、睨み合う。


「グラディエーター人形達ニは、ハイエンドの遠距離攻撃耐性が組み込んでアるの。銃はもチろん、魔法だってろクに効かナいよ!」

「なんでそんな仕様に――そうか、剣闘士だからか!」


 コロシアムの盛り上がりといえば、剣と剣による接近戦だ。

 それを実現するための機構が、遠距離攻撃耐性というわけだ。


「……厳しいな。俺では勝ち筋が見えん」

「代わります、ハリーさん」

「情けない……。すまないが、頼んだ」


 ナイフで長剣と戦うには、些か相性が悪い。

 加えて相手は、このコロシアムのチャンピオンだ。昨日戦った手下人形とは、実力も雲泥の差だろう。

 愛用の刀を手に、楓が前に出る。

 ラフィーナは楓の頭を降りて、アピィの肩に移動したようだ。


「選手交代カ。女性ゲスト殿トハイエ、剣ヲ手ニシタカラニハ加減セヌゾ」

「要らぬ心配です。半悪魔とはいえ、人形に遅れを取るわけにはいきませんので」


 両者が激突し、剣戟が響き渡る。

 細身の楓だが、倍の体躯はあるマキシムにも押し負けていない。力押しの剣術であるマキシムの攻撃を、角度をつけていなすことで、刀でも互角の打ち合いを続けている。

 十数合の打ち合いの末、やがて二人は鍔迫り合いの形となった。


「ヤルナ、ゲスト殿……! 名ハ?」

「楓です――魔女アペルチャイルド様の従者、鈴藤 楓!」


 声を張り上げ、マキシムを強く弾き出す。

 数歩たたらを踏んだ後、マキシムはクレイモアを構え直した。

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