39話 勢いでつい
「リンドー殿カ。良キ気迫ダ。ダガソレ以上ニ――我輩ニハ分カルゾ。御身ノ持ツ、類マレナル愛ノ波動ガ!」
「――は?」
マキシムの突拍子もない言葉に動揺したのか、楓の剣先がぶれる。
「隠サズトモ良イ。我輩ハトアル事ヲキッカケニ、悪魔達ノ愛ノ波動ヲ感ジ取レルヨウニナッタノダ。ソシテ、コノ感覚ハ間違イナイ。オ主、恋ヲシテオルナ!」
「な――ななな、何を突然!?」
「ソレモ三角関係ト見タ!」
「わーわー! ちょっとラフィーナ様、何なんですかこの人形!?」
刀をぶんぶんと振り回して、楓が慌てふためく。
傘を振り回す学生のようなノリだが、それが鉄の扉も軽く両断する凶器であることを忘れてはならない。
俺はそっと、一歩後ろへ下がった。
「おっかシいなぁ。ラブラブセンサーは動作が不安定だっタかラ、随分前に破棄したハずなノに……。あーマズい。ホントに黒幕が居るパターンだよ、こレ」
「黒幕、それは私のこ――」
「それはもういい」
また敵を超強化するのは勘弁して頂きたい。
そんな思いを他所に、ラフィーナが毅然とした態度で小さな指をマキシムに突きつけた。
「ちょっとマキシム! キミ、一体誰に何をサレたのさ!」
「ナント、姫様デスカ? ……ナルホド、携帯端末。道理デセンサーガ反応セヌワケダ」
「答えナさい! ボクの命令が聞けなイの!」
「申シ訳ゴザイマセンガ、ソレハオ話デキマセヌ。例エ裏切リ者ト謗ラレヨウト、我輩ハ己ガ信ズル道ヲ進ムノミ!」
見た目通りの石頭なのか、主であるラフィーナの声を持ってしても、暴走人形の意志は揺らぎそうにない。
「お前の目的も、盗賊団の親分と同じなのか?」
「盗賊団――ソウカ、同胞ヲ捕ラエタノハオ主等カ。如何ニモ。我々ノ目的ハ真ノ愛ヲ理解スルコトダ。彼等ハ様々ナ愛ノ形ヲ集メル事デ、ソレヲ理解シヨウトシタ」
「ああ、確かにそう言っていた。なら、お前は?」
「言葉ダ」
「……言葉?」
聞き返すと、マキシムは両手を高く挙げて力強く叫んだ。
「ソウダ! 我輩ガ集メルノハ愛ノ言葉! コノラブコロシアムハ、パーク内デモ有数ノ告白スポット。ココニハアラユル愛ノ言葉ガ溢レテイル。ソレヲ蒐集シ、真ノ愛ヲ理解スルノガ我輩ノ目的ヨ!」
クール系だった親分人形と比べて、死ぬほど暑苦しい。見た目もごついから尚更だ。
「目的は分かったが……それなら、カップル狩りみたいな真似をする必要はないだろう?」
「確カニ、情熱的ナ悪魔デアレバ必要ハナカロウ。シカシ、中ニハ奥手ナ者モイル。ソウイッタ、センチメンタルナ告白ノ言葉ヲ集メル為、我輩ハ悪魔達ノ手助ケヲシテヤッテオルノダ」
理屈は分かるが、脅されてした告白が果たしてセンチメンタルと言えるのだろうか。
そんな事を考えていると、楓が怒りに腕を震わせながら前に進み出た。
「許せません! あなたの血は何色ですか!」
「イヤ、人形ハ皆オイル……」
「口応えしない! 歯を食いしばりなさい!」
技も何も無い、ただ直線的に突っ走っての右ストレートがマキシムの顔面に直撃する。
あまりの勢いに完全に棒立ちだったマキシムは、派手に後方へ吹っ飛んだ。
「グハッ!?」
「これはあなたに無粋な横槍を入れられた、不幸なカップル達の怒り……。あなたは愛の伝道師として、やってはならない事をしたのです!」
尻餅をついたまま起き上がれないマキシムに、楓がびしっと指をつきつける。
なんだ、この展開。
「ド、ドウイウ意味ダ……。確カニ強引ナ手段デハアッタガ、告白サレタ側ハ喜ンデイタデハナイカ」
「そんな認識をしている限り、あなたに真の愛は理解できません」
これ以上語ることはないと背を向ける楓に、マキシムが悔しげに呻く。
「クッ……ナラバ勝負――イヤ、決闘ダ! 我輩ノ愛ト、オ主ノ愛……ドチラガ正シイノカ、コノコロシアムデ決着ヲツケヨウデハナイカ!」
「受けて立ちましょう。あなたに明日の朝日は訪れないと知りなさい!」
いや、壊すな。捕獲だ、捕獲。
「勝負ハ夕刻……日没ダ。ソノ時間ニコロシアムへ来ルガイイ! ソレマデ精々、愛ヲ磨イテオクノダナ!」
謎の捨て台詞を吐いて、マキシムが地面に煙幕を放つ。
人形独特の足音が遠ざかっていき、煙幕が晴れた頃にはその姿は消えていた。
「…………」
渦中に一人残された楓は、黙したまま動かない。
マキシムとの決闘に思いを巡らせているのだろうか。
「……ど」
「楓?」
「どうしましょう!? 私、従者の身でありながら、なんて勝手な事を!」
そんな事を言われても、今更すぎる。
「既に約束してしまったしな。楓がやるしかないんじゃないか?」
「そんなぁ。ハリーさん、何か案はないんですかっ」
「俺に出来るサポートなんて狙撃ぐらいだが。マキシムには銃が効かないし、何より――」
ちらりと横を見る。
『コロシアムの決闘に不正はダメ、絶対!』
『いいぞベイベー、もっとやれ』
小さなプラカードを両手で掲げる真剣な面持ちのラフィーナと、満面の笑顔でプラカードを掲げるアピィの姿があった。
「魔女達がこれではな」
「お嬢様!?」
ラフィーナの言葉はもっともだが、アピィのスタンスは例え楓相手でも変わらないらしい。
「だって愛がどうの言われても、私には理解できないもの。今回は見学に回らせてもらうわ」
「アペルチャイルドは面白イかどウかが全てだもんネ」
「一理ある」
一理どころか真理だろう、それが。
「というわけで楓、あなたの主として改めて命じるわ。面白く戦って、面白く勝ちなさい」
「うぅ……か、かしこまりました」
先程までの勢いはどこにいったのやら、すっかり萎縮した面持ちで楓が力無く頷いた。
真面目な楓に面白く勝てだなんて、結構な無理難題だ。
「見学に回っても、結局アピィはあれなんだな」
「アペルチャイルドだかラねぇ」
曖昧な自分の問い掛けに、ラフィーナが即答で同意する。
良くも悪くも、アピィは生粋のトリックスターなのだろう。




