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魔女と兵士と人形喜劇  作者: 安土仁守
第7章 告白が日常的過ぎるのもどうかと思う。
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39話 勢いでつい

「リンドー殿カ。良キ気迫ダ。ダガソレ以上ニ――我輩ニハ分カルゾ。御身ノ持ツ、類マレナル愛ノ波動ガ!」

「――は?」


 マキシムの突拍子もない言葉に動揺したのか、楓の剣先がぶれる。


「隠サズトモ良イ。我輩ハトアル事ヲキッカケニ、悪魔達ノ愛ノ波動ヲ感ジ取レルヨウニナッタノダ。ソシテ、コノ感覚ハ間違イナイ。オ主、恋ヲシテオルナ!」

「な――ななな、何を突然!?」

「ソレモ三角関係ト見タ!」

「わーわー! ちょっとラフィーナ様、何なんですかこの人形!?」


 刀をぶんぶんと振り回して、楓が慌てふためく。

 傘を振り回す学生のようなノリだが、それが鉄の扉も軽く両断する凶器であることを忘れてはならない。

 俺はそっと、一歩後ろへ下がった。


「おっかシいなぁ。ラブラブセンサーは動作が不安定だっタかラ、随分前に破棄したハずなノに……。あーマズい。ホントに黒幕が居るパターンだよ、こレ」

「黒幕、それは私のこ――」

「それはもういい」


 また敵を超強化するのは勘弁して頂きたい。

 そんな思いを他所に、ラフィーナが毅然とした態度で小さな指をマキシムに突きつけた。


「ちょっとマキシム! キミ、一体誰に何をサレたのさ!」

「ナント、姫様デスカ? ……ナルホド、携帯端末。道理デセンサーガ反応セヌワケダ」

「答えナさい! ボクの命令が聞けなイの!」

「申シ訳ゴザイマセンガ、ソレハオ話デキマセヌ。例エ裏切リ者ト謗ラレヨウト、我輩ハ己ガ信ズル道ヲ進ムノミ!」


 見た目通りの石頭なのか、主であるラフィーナの声を持ってしても、暴走人形の意志は揺らぎそうにない。


「お前の目的も、盗賊団の親分と同じなのか?」

「盗賊団――ソウカ、同胞ヲ捕ラエタノハオ主等カ。如何ニモ。我々ノ目的ハ真ノ愛ヲ理解スルコトダ。彼等ハ様々ナ愛ノ形ヲ集メル事デ、ソレヲ理解シヨウトシタ」

「ああ、確かにそう言っていた。なら、お前は?」

「言葉ダ」

「……言葉?」


 聞き返すと、マキシムは両手を高く挙げて力強く叫んだ。


「ソウダ! 我輩ガ集メルノハ愛ノ言葉! コノラブコロシアムハ、パーク内デモ有数ノ告白スポット。ココニハアラユル愛ノ言葉ガ溢レテイル。ソレヲ蒐集シ、真ノ愛ヲ理解スルノガ我輩ノ目的ヨ!」


 クール系だった親分人形と比べて、死ぬほど暑苦しい。見た目もごついから尚更だ。


「目的は分かったが……それなら、カップル狩りみたいな真似をする必要はないだろう?」

「確カニ、情熱的ナ悪魔デアレバ必要ハナカロウ。シカシ、中ニハ奥手ナ者モイル。ソウイッタ、センチメンタルナ告白ノ言葉ヲ集メル為、我輩ハ悪魔達ノ手助ケヲシテヤッテオルノダ」


 理屈は分かるが、脅されてした告白が果たしてセンチメンタルと言えるのだろうか。

 そんな事を考えていると、楓が怒りに腕を震わせながら前に進み出た。


「許せません! あなたの血は何色ですか!」

「イヤ、人形ハ皆オイル……」

「口応えしない! 歯を食いしばりなさい!」


 技も何も無い、ただ直線的に突っ走っての右ストレートがマキシムの顔面に直撃する。

 あまりの勢いに完全に棒立ちだったマキシムは、派手に後方へ吹っ飛んだ。


「グハッ!?」

「これはあなたに無粋な横槍を入れられた、不幸なカップル達の怒り……。あなたは愛の伝道師として、やってはならない事をしたのです!」


 尻餅をついたまま起き上がれないマキシムに、楓がびしっと指をつきつける。

 なんだ、この展開。


「ド、ドウイウ意味ダ……。確カニ強引ナ手段デハアッタガ、告白サレタ側ハ喜ンデイタデハナイカ」

「そんな認識をしている限り、あなたに真の愛は理解できません」


 これ以上語ることはないと背を向ける楓に、マキシムが悔しげに呻く。


「クッ……ナラバ勝負――イヤ、決闘ダ! 我輩ノ愛ト、オ主ノ愛……ドチラガ正シイノカ、コノコロシアムデ決着ヲツケヨウデハナイカ!」

「受けて立ちましょう。あなたに明日の朝日は訪れないと知りなさい!」


 いや、壊すな。捕獲だ、捕獲。


「勝負ハ夕刻……日没ダ。ソノ時間ニコロシアムへ来ルガイイ! ソレマデ精々、愛ヲ磨イテオクノダナ!」


 謎の捨て台詞を吐いて、マキシムが地面に煙幕を放つ。

 人形独特の足音が遠ざかっていき、煙幕が晴れた頃にはその姿は消えていた。


「…………」


 渦中に一人残された楓は、黙したまま動かない。

 マキシムとの決闘に思いを巡らせているのだろうか。


「……ど」

「楓?」

「どうしましょう!? 私、従者の身でありながら、なんて勝手な事を!」


 そんな事を言われても、今更すぎる。


「既に約束してしまったしな。楓がやるしかないんじゃないか?」

「そんなぁ。ハリーさん、何か案はないんですかっ」

「俺に出来るサポートなんて狙撃ぐらいだが。マキシムには銃が効かないし、何より――」


 ちらりと横を見る。


『コロシアムの決闘に不正はダメ、絶対!』

『いいぞベイベー、もっとやれ』


 小さなプラカードを両手で掲げる真剣な面持ちのラフィーナと、満面の笑顔でプラカードを掲げるアピィの姿があった。


「魔女達がこれではな」

「お嬢様!?」


 ラフィーナの言葉はもっともだが、アピィのスタンスは例え楓相手でも変わらないらしい。


「だって愛がどうの言われても、私には理解できないもの。今回は見学に回らせてもらうわ」

「アペルチャイルドは面白イかどウかが全てだもんネ」

「一理ある」


 一理どころか真理だろう、それが。


「というわけで楓、あなたの主として改めて命じるわ。面白く戦って、面白く勝ちなさい」

「うぅ……か、かしこまりました」


 先程までの勢いはどこにいったのやら、すっかり萎縮した面持ちで楓が力無く頷いた。

 真面目な楓に面白く勝てだなんて、結構な無理難題だ。


「見学に回っても、結局アピィはあれなんだな」

「アペルチャイルドだかラねぇ」


 曖昧な自分の問い掛けに、ラフィーナが即答で同意する。

 良くも悪くも、アピィは生粋のトリックスターなのだろう。

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