98 依頼と厄介事
兄の日なので初投稿です。
「竜種の所に連れて行って、なんて無茶が過ぎるだろ」
「無茶じゃないよ。おじいちゃんも倒れる前はやっていたことだからね」
先代のギルド長はジジイになっても元気ハツラツだったようだ。
「行ってどうするんだ?竜種と茶でもしばくのか?」
「それはおじいちゃんに連れて行ってもらった時にやったかな。なかなか味にうるさくて貴族しか飲まないような高級なのを用意しないと納得してくれないんだよね」
「まて、その言い方だと本当に竜種とお茶したのか」
「したことあるよ。これでも彼女とは仲がいいんだ」
意味が分からねえ……。
「うーん、順を追って話そうか。おじいちゃんがまだ若いころに仲間と一緒に『風切りの洞穴』に挑んだんだ。当時最強と言われていたおじいちゃんのパーティでも竜種の迷宮には苦戦したそうだよ。だけど何度も何度も挑戦してついに迷宮主の部屋までたどり着いたんだ。いざ竜種とご対面って扉を開けたら居たのは凶悪な竜種!じゃなくて可愛い女の子だったんだって」
ゲームや小説ならその女の子が竜種だな。
「それでおじいちゃんは女の子に竜種はどこですか?って聞いたらしいのよ」
そんなところに居る怪しさ満点の人間によく聞いたな。
「おじいちゃん昔から女の子が大好きだったからねえ……で、女の子はこういったのよ『お父さまならあちらでお休みになられています』って」
お父さま?竜種の娘ってこと?そもそも竜種って生殖するのか?7匹しかいない上にクー助と同じなら身体の殆んどは純粋な魔素で出来ているはずだ。
「それで付いて行ったら本当に大きな竜種が寝ていたんだって。なんでも世代交代のタイミングらしくて力の譲渡をしていたらしいんだよ。本来なら配下の魔物に守らせて居たんだけどおじいちゃんが全部倒しちゃったんだって」
先代ギルド長何してんだよ。いや迷宮踏破なんだろうけど。
「で、しょうがないから力の譲渡が完了するまで迷宮主の階層には誰にも立ち入れさせない様にしたんだって」
それが約40年ほど前だという。そして魔物掃討作戦の決行日に力の譲渡も終わるらしい。
「何年やってるんだ」
「100年掛けてやるんだって」
「というか『風切りの洞穴』ってもしかして時間の流れが一緒なのか」
迷宮の中は独自の時間が流れている。迷宮の中に何時間過ごしても外に出ると1秒も経過していない。だがその時間加速が起きない迷宮も存在する。その法則性は未だ解明されておらず、加速度もさまざまである。
「彼女が言うには生まれたての迷宮ほど加速が強いらしいよ。時が経って大きく成長するほど緩やかになって最後には中と外の差が無くなるんだって。あと強い魔物の巣を起点に出来た迷宮は初めから差は無いらしいよ」
「それは初めて聞いたな、魔素が濃い所で出来る迷宮と魔物の魔力で出来る迷宮ではそんな差があるのか」
魔術学園でもそこまで研究は進んでいない。中央都市の迷宮研究所ならもしかしたら研究が進んでいるかもしれないが最新の攻略本にもそのような記述はなかった。
『魔宵の森』『禁魔の伽藍洞』『海帝都市』、確かに時間の加速が無い迷宮ははるか古から存在すると言われていたり、魔物が住み着いてから迷宮化したものばかりだ。
「それじゃあ当日に迷宮の入り口で、ボクも当日仕事があるからその後合流しよう」
「あぁ、分かった」
ギルド長の部屋から出て1階に向かう。すると何やら人だかりができていた。
「なあ君、新人かい?」
「もしかして迷宮に挑むのかい?なら俺たちと一緒に行かないか?」
「君のような可憐な女の子だけで迷宮に行くなんて危険すぎる」
冒険者が誰かをナンパしているらしい、冒険者なんて出会いなさそうだもんな。
その中心を見ればいるのは薄緑のワンピースを着た女の子だった。俺と同い年くらいだろうか、特に何か鎧をまとっているわけでもないしアレを冒険者だと思うのは無理があるんじゃないか?
「あの……えっと……」
そして男達に絡まれている女の子は囲まれて困惑しているようだ。
「おい、あの子助けてやらねえのかよ」
「無茶言うなよ、アイツ等『狼の牙』だろ?」
「腕は立つんだが荒くれ者たちだぜ」
後ろで眺めている連中はどうやらナンパ連中が不良パーティと知って女の子を助けに行けないらしい。とはいえアイツラが居るのは依頼がおいてある掲示板の前だ、どいてもらおう。
「おい、アンタ達」
「あ?誰だてめえ?」
「依頼見るのに邪魔だ。ナンパなら余所でやれ」
「てめえ!俺らに指図するきか、あぁ?!」
初めてギルドに来たときもこんな奴らに絡まれた気がするな。ふと女の子と目があった……何だこ気配、どこかで感じたことある。
「あぁ、ようやく来てくださいましたのね!」
「は?」
「あ?」
ん?
「こんなところに私を置いていくなんて酷いお方。私寂しかったんですからね」
そう言って俺の手をにぎる女の子。目を見るとまっすぐにこちらを見つめてくる……話を合わせろと。
「あー……すまなかった。ちょっと話が長引いてな」
「ではもう用事が済んだんですね?」
「あぁ」
「オイコラァ!」
「何俺達を無視しちゃってるわけ?」
案の定ナンパ共に目を付けられた。はあ、この女の子には後で何かお礼を貰わないと割に合わないな。
「オイオイオイ」
「アイツ死んだな」
「ん?いや待て、アイツもしかして『迅雷』のユートじゃねえか?」
「それって今年のサウスバードの海神祭の優勝者じゃねえか!」
「確か祭り始まって初の迷宮主討伐者の!」
待ってその話どこまで広がってるの?詳しく聞きたいんだが。
「ほお?おめえ随分と有名人じゃねえか?」
「ちょっと迷宮で運良く迷宮主を倒した程度で天狗になってんじゃねえぞ!」
男の一人が拳を振り上げる。遅いな、スレイならその拳を上げてる間に5回は切り込んでくる。
「なんの騒ぎだ!」
カウンターに拳で顎を小突くか悩んでいると、筋肉ムキムキの大男……サイさんが現れた。
お兄ちゃんって呼んでもええんやで。




