11 星月夜
今年の収穫は過去最高の豊作となった。
鬼凛組や住民たちが思う存分食っても決して喰いきれぬほどの米、混乱期が長かったにも関わらず独自の判断で収穫の段取りを進めたラヴィ班の活躍に頭が下がるばかりである。
久方ぶりに飛び込んできた朗報であり、この喜びを皆は素直に受け入れ感謝した・・・・・・・・
星月の丘。
いつしか誰かがそう呼ぶようになったデュランシルトを見下ろせる高台。
ここにあの戦いで散って逝った鬼凛組や朧組の仲間が手厚く葬られている。
今でも隊士たちに感謝を捧げたいと訪れる近隣の住民や貴族たちが後を絶たず、寄進によって作られた礼拝堂には大地母神や様々な神々の神像が置かれ魂を鎮めるための祈りは尽きない。
そのため月見の丘への登山道と呼ぶには大げさだが住民たちが費用を寄付によって捻出し、この散歩道の整備も始まっている。
そして今日は収穫の感謝をするべく、この星月の丘で収穫祭と魂鎮めの祭りが執り行われようとしていた。
招待状など送付するようなことをしていなかったが、自発的に多くの貴族たちがこの祭祀に参加し彼らの鎮魂に祈りを捧げていたのは貴族特有の恩を売るとかの計算高い行為ではなく、自らの意思で参加した者がほとんであったと事後の報告があったようだ。
「ここに・・・・・誰もが絶望にあったあの惨劇に立ち向かい、親しき者を愛しい人を、家族を、友を守るために命を散らした勇敢な若者たちに・・・・・今一度祈りを捧げ、改めて感謝を・・・・・ありがとう」
祭壇の前で座し手をつき頭を下げる皇帝陛下の姿に、参列者たちは同様の感謝の礼を捧げた。
そこに・・・・・・・妙な思惑やしがらみ・・・・人の悪意が混ざっていなかったと思いたい。
墓標には色とりどりの花々が飾られそれぞれの墓石の上には、かわいい花冠がのせられている。
士道館の子供たちの手作りによるもので、お参りをする人々の涙を誘った。
厳粛な魂鎮めの祭りから収穫の祭りへと進行していくにつれ、やや空気が穏やかな流れに移っていく。
食事や飲み物が振舞われ、このデュランシルト独特の食文化に訪れた人々は魅了された。
それに伴い収穫祭の宴が徐々に熱をおび、もりあがっていく。
ピスケルとマユへと感謝を捧げる舞いが奉納され、ピスケルの着ぐるみにかわいいと歓声が飛び、マユ役に抜擢された士道館の娘が巫女装束でピスケルにまたがりあの日を再現するかのような穏やかな優しい時間を懐かしむ仕草に・・・・・・
住民たちの涙を誘う。
あの穏やかで優しい日々が輝くばかりに脳裏を通り過ぎていく。
側近に付き添われて祭りに参加していた皇帝は、壇上に再び立ち拡声呪文が展開されたのを確認するとデュランシルトの民へ・・・・・
「今宵、武士団だけでなくあの戦いで命を落とした勇敢な帝国軍兵士たちにも哀悼の意を捧げます・・・・・そしてアルマナ皇帝たる朕はここに、レインド辺境伯を伯爵に任じ、さらに帝国の礎たる死界人の脅威から全ての人を守るための役職・・・・・鬼凛将軍として任じることを発表します」
「「「「「「おおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
参列者たちからは割れんばかりの拍手と歓声が飛び交い・・・・静かに立ち上がったレインドは皇帝陛下の前にて跪くと高らかに凛々しく澄んだ声を放つ。
「謹んで鬼凛将軍の任、拝命いたします! 我が命をかけてこの職責を全うすることを我が剣にかけて誓います!!!」
「レインド・・・・・頼りにしております・・・・・これからの帝国の支えになってくださいまし」
「亡き友!!愛しい家族たちの思いを未来へ紡ぐため!!!身命をとして務めます!」
歓声や鳴り止まぬ拍手の中・・・・・人知れず泣き崩れる女性がいた。
紫苑は泣き崩れ・・・・・そして声をあげて泣いていた。
「マルレーネ・・・・ほらごらんよ、あんたが大好きな神話の一ページなんだよ、生で見ないでどうすんのさ・・・ほら、早く・・・・十六夜と一緒にさ・・・・・かえって・・・・・ぅ・・・・・・・・・・」
気付いた夕霧に抱きしめられながら堰き止めていた感情の奔流に流されるまま紫苑は叫んだ。
「うああああああああああああ!十六夜いいいいいいいいい!私をおいてかないでよおおおおお!!!!!」
抑えていた気付かぬうちに押さえ込んでいた悲しみが爆発していた。
それは瞬く間に感染し、亡き友の思いを偲び・・・・・・
掴んだ未来の尊さを噛み締めるように・・・・・・侍たちは・・・・・・ようやく泣くことができた。
デュランシルトの、武士団の大きすぎる功績に対していかに報いるべきかは元老院にてかなり真剣な議論が行われた。
あの荒地を押し付けられたレインドが見事な領地経営を行い、実りある土地に変えてしまった手腕は高く評価され今回は真摯的な議論がなされている。
貴族的慣習も多く残る帝国ではあるが死界人へ対抗するためにはいかなる手段も厭わないという歴史的背景があるため、実力を重視する傾向はまだ健在であった。
「前回もそうであったが、功績の大きさは建国以来の偉業でございましょう」
「うむ・・・・没収した貴族の土地全てを彼が望んだとしたら渡さぬ訳には参りません・・・・・そこはどう思われますか議長?」
「そうであるな、これから申す意見は皇帝陛下に対する叛旗の意図は皆無であることを表明した上で述べさせてもうらうが、レインド伯が皇帝の座を望めば拒む者はおらぬであろうな、むしろ民からも歓迎されるのではないだろうか」
一堂は驚愕するが、時間が経つとそうかもしれぬ、むしろこれ以上に皇帝にふさわしい人物など・・・・・・リシュメアの元王子で血統も申し分ない。
「話しが進まぬのでな、あえて聞かせてもらうとしよう・・・・・もう驚かぬよニーサ殿、レインド伯の、デュランシルトの望む褒賞を用意しよう・・・・何を望まれるか?」
以前と違ってデュランシルトとレインドに敬意を払った議論に、ニーサは素直に好感を抱いていた。
もっとこう、権謀術数の火中に飛び込む覚悟をしてきたが杞憂で終わりそうな雰囲気でもある。
「我らの役目を果たしただけでございます・・・・・ですが、領地経営の建て直しが必要なのも事実でございます・・・・・叶うならば我らはデュランシルト北方のタルマ海岸までの領地拡大を望みます」
「なっ・・・・それではあまりに少なすぎはしないだろうか・・・・・」
「いえ、以前から我らは北部海岸を開発したいと常々思っておりました、あそこには武具の強化に必要な希少素材が確保でき場でもありますし港の開発を行い我が領土の特産品の貿易まで出来ればと考えておりました」
「!!!!!」
未来を見据えた言葉の数々・・・・・立ち止まっているのは我々老人だけなのかと・・・・・・出席者たちの多くが痛感する。
望みが北部海岸であれば、空白地なためいずれデュランシルトへ編入しようと考えていた課題でもあったためこれ以上の安上がりはないが・・・・・・・
結局ニーサのごり押し、ごり引き?によって北部海岸のデュランシルトへの譲渡が正式に受理されることになった。
言葉には出していないが、疲弊した帝国から過分な領地や金銭を要求すれば他の貴族たちの嫉妬を招き、帝都臣民の心象も悪いと判断したニーサの進言であったのだが。
ニーサの抜け目がなかったのはここからであった。
多くの帝国兵や部隊を率いて妖人種から帝都を守るために血を流した貴族たちも少数ながらいたのだ。
彼らは私兵と共に帝国軍ともよく連携し、当主自ら戦死した貴族たちもいたほである。
ニーサは帝国軍の遺族や傷病兵、また戦死された当主たちにこそ手当てや恩賞によって報いるべきでありデュランシルトからも相応の帝国側への見舞金が既に支払われており、改めてこの冷血の宰相の実力に多くの貴族たちが震え上がり、ぜひ家臣に迎えたいという申し出が殺到していた。
夫であるザインが重傷を負い、今では快癒しているものの片目を失ったことを理由に帝国軍を辞した。
その後シルメリアからのたっての願いで、今では朧組局長として戦力増強とその鍛錬に当たっていた。
もちろん魔法的実力はシルメリアには遠く及ばないものの、彼女が苦手としていた組織運営と、卓越した指揮能力、朧組だからこそ可能な部隊戦術の理論をいくつも立ち上げるなど目覚しい活躍を始めていたが、アルグゲリオス師団からついてきた部下たちによれば愛する嫁さんと一緒の時間が増えてやる気満々なのだそうだ。
そのデレデレぶりは街でも噂になるほどであり、行く先々で奥さんと仲良しでうらやましいわとからかわれ、あの岩のような顔つきが赤く染まる様は微笑ましい。
個人能力に特化した一騎当千の朧組から、組織連携戦闘と鬼凛組の支援業務をメインとするべく組織改革に挑んだザインだったがシルメリアの全面的な協力もあり滞りなく進んでいるようである。
半兵衛は自室にてイルミス戦役における個人的な分析結果をまとめる作業に没頭していた。
プライベートの時間を使っての作業ではあるが、彼の知的好奇心からくる分析研究への探究心は留まるところを知らず彼自身も自分の一面に驚きつつある。
「さて、今回の分析はイルミス撃破に関する一考察だ」
『なかなかに興味深い考察内容だ』
「お前に言われてもうれしくはないな」
『そう言うな、どれ聞いてやるとしよう』
1人しかいないはずの半兵衛の自室は整理整頓された書物と最低限の生活用品しかない部屋だ。
だがそこに桃色のもさもさした生き物がちょろちょろと動き回っていた。
あの、桃色の羽リナである。
「まずイルミス個人の能力が国境での戦闘時に比べ低下していたというレインド様の報告であるが、うむ・・・・こういう報告をなさる時点であの方の誠実さが垣間見える・・・・・巣晴らしい」
『分析ではないがその指摘には賛同しよう、多くの人間は個人の成した行為に高い評価を期待し求めるものだ、だがレインド伯の謙虚さは賞賛に値しよう』
「ならばやはり弱体化していた原因は、フェニキルを分離したことによる能力低下だと推測できる」
『逆にそれ以外に奴の能力低下を促す要因は想定することが困難だろう』
「フェニキル分離を行った理由については後に考えるとして、イルミスと対峙し戦闘したレインド様や黒の閃風の成長が重要な要因だと考えられる』
『ソルダ・・・・つまり禁忌の武器の新呼称であるな、ソルダの技量を我らが測る基準はなくむしろ主観的価値観であると認めざるを得ないが、観察眼を持つ者から見ても彼らの技量向上は特筆すべきものであったのか?』
「血の滲むような特訓をしていたからな、異論はあろうが局長と義経に継ぐ実力はサクラか、レインド様、もしくは黒の閃風であろう」
『数値化するのは困難であろうが、局長殿を基準に数値化するとどの程度なのか?お主の主観で構わぬから参考までに教えてくれ、むろん口外はせぬ』
「お前が外で口を開いてしまって困るのだが・・・・そうだな局長を10とするならば、義経は5、もしくは4、サクラが3、レインド様と黒の閃風は3もしくは2,8ということかな」
『なんと・・・・・我の想像では義経は8か7だと思っていたぞ』
「正直局長を10とすれば全員2,3で団子というのが正しいかもしれん、義経の5は戦闘経験とあいつのどたんばでの機転の早さだな、そういったものを加味して5だ」
『下に恐ろしき局長殿の腕であるな』
「あの人は別格だよ、だってなぁシカイビト50体斬り・・・・・ありえないこんなの」
『対イルミス教団戦で言えばな、あの戦いで奴らの戦意は風に吹かれて飛んでいきおったよ』
「話を元に戻そう、マグナとベント・・・・・大きな犠牲を払ってイルミスを倒すことができた・・・・だが最大の功労者は誰と考えるか分かるか?」
『・・・・・やはり直接討ったレインド伯であろうな、あのような強大な敵に自ら挑んだ勇気は褒め称えられねばならん偉業である』
「その言には賛同するが、私の意見は違う」
『ほう?もしや局長殿か?』
「それが違うんだよ、視点はフェニキル分離を促した存在だ、そういう意味では誠実に彼との対話を成功させた局長の存在は大きい、むしろこれ以上の功労者がいないと言ってもいい・・・・だが」
『だが?』
早く聞かせろとばかりに桃色の尻尾をふさふさと大振りに動かす羽リナのかわいらしさに思わず心動かされたことに半兵衛は理性を総動員して思いとどまることにした。
「フェニキルが対話を続けた要因はなんだい?」
『資料を見た限りでは・・・・・・食い物?』
「そうだ、フェニキルが人間に食物以外の存在価値を認めさせたのは、シズク様の料理なんだよ」
『なるほど・・・・』
「私はフェニキルの最後を・・・・介錯した人間だ・・・・・だからこそ分かる、あいつは食いたかっただけじゃないんだ、食べることを楽しみたかったんだよ」
『食を楽しむか・・・・』
「だから自分がその可能性を人を食い続けてきたことに対する罪・・・・・業の深さを自覚したと言うべきなのだろうか?そういった自覚が芽生えたことがイルミスにとっては邪魔であったんだろうね」
『ならば・・・』
「うん、ようは人間以上にうまいものがある、それを知らしめたシズク様こそ、イルミス撃破の最大の功労者であるというのが私の意見だ、さらに付け加えるべきならばあの料理だからこそフェニキルは私に自分たちの弱点を教えたのだと思う」
『理解したが、そいういうことなら魔法力を持たないサムライ以外で初めてシカイビトに一糸報いた人間は、シズク嬢であると言えるな』
「そうだな、シズク様がフェニキルのために用意した料理・・・・・あいつは本当においしそうに食べていたよ」
『イルミス討伐は1人でなせたものではないな・・・・多くの命が多くの思いがあの一点に凝縮し生み出した奇跡であったのかもしれぬな』
「おいお前ともあろう者が、分析結果に奇跡なんて語彙を選ぶのか?」
『知らぬのか?案外ロマンチストなのだよ我は』
「黙ってろバルケイム」
時は流れ冬のデュランシルトに冷たい凍えるような雨が降り続いていた。
いずれ夜半過ぎに雪となるかもしれないと、クルーグ先生が子供たちに話しをしていたらしい。
そんな寒い夜には体を温める鍋が良いと、シズクと何やら秘密裏に悪巧みをしていた真九郎の提案で大鍋大会が大食堂で開かれていた。
妙に鍋奉行が似合う真九郎の指導の元、まずは野菜を入れ次に海鮮鍋班と肉鍋班に分かれてそれぞれに用意されただし汁に具材を放り込んでいく。
野菜はちゃんと食べなさいとか、1人だけ肉を独占すると後々恨みを買うから気をつけろなど口うるさい真九郎の奉行の指示はいずれ無視されていき皆が好き勝手に鍋を堪能しはじめている。
「むう、あいつら鍋には作法があるのだまったく」
「ふふふ、いいじゃないですか局長さん、みんなで食べるお鍋料理って楽しくて私大好きです!」
「だめよシズクちゃん、あんまり持ち上げると調子にのるんだから」
「シルメリアよ、料理の達人であるシズクがこう言っているのだ、これこそ真理であろう」
「まあおいしいことは確かだけどね、体があったまるぅ」
ここは海鮮鍋班で真九郎やシズク、シルメリア、ニーサとザインが同席している。
義経たちは肉鍋班で壮絶な肉の取り合いに興じており笑いに包まれていた。
「おいしいからまあ許しますけどね・・・・・局長さん・・・・・・この大量の鍋と加熱用の呪道具はいったいどうされたの?」
「うっ!」
冷血の宰相の突き刺さる視線が真九郎の無駄遣いを厳しく問い詰める。
「いいではないかニーサさん、皆の親睦を深めるための出費にしては安くついている、これが帝国軍なら酒場を借り切って膨大な酒を注文するものだから悩みの種であったよ」
「たしかにそう考えれば酒をまだ嗜む人はほとんどいませんから・・・・・でもいずれ酒代の出費もかさみそうですね・・・・・」
「ニーサさん、そのタルマ海老もう火が通ったみたいですよ、食べごろですねぇ」
「あら、おいしそう!」
「陛下もこっちで食べれば良かったのににね」
「ああ、散々ごねてソルティ殿を困らせていたようだ、別室で側近たちと一緒に楽しくやっていることだろう」
「隙あらば局長さんに甘えるのがかわいいです」
「言うなシズクよ、悩みの種でもあるのだ」
「ヴァンてめえ肉食いすぎなんだよ!」
「うるせえダリオ!お前のが肉食ってんだろ!」
「こっちは育ち盛りで肉が必要なんだ!背伸ばすんだよ!」
「紅葉!!!肉食べたらちゃんと補充しときなさいよ!」
「だってぇおいしいんだもん!!!」
「だもんじゃないでしょ、って夕霧は肉ばっかり食べてもう!」
「紫苑~お肉入れておいてぇ~」
「まったく獣人種ってみんなこうなの!?」
「お肉には目がないのだよ我々は、ね?夕霧?」
「モグモグ」
「ほらほらレインド様!!お野菜ばっかり食べてないでちゃんと肉食べてください!」
「だってこの野菜すごく柔らかくておいしいんだよ」
サリサにお肉をたっぷりよそってもらうレインドだが、実は真九郎の影響を過分に受けており肉より魚派であったりする。
「そうですよレインド様にはたっぷり精をつけてもらって早くお世継ぎを作ってもらわないと」
「半兵衛・・・・お、お世継ぎって・・・・・・子供のこと?」
「当たり前です、我ら武士団の未来はレインド様にかかっておるのです、早くシズク様と結婚なさい」
「うっ・・・・最近半兵衛の発言に遠慮がない」
「モグモグモグ・・・・・・それはそうです、レインド様の恩ためなら例え嫌われてでも必要なことを言いますよ・・・・・モグモグモグ」
「や、やっぱり半兵衛は狼人族だからお肉好きなんだね」
「はい・・・・・モグモグもぐ・・・・・・肉は生でもいける口ですが火を通したほうが衛生的ですしね」
「そ、そう・・・・生でもいいのか」
「半兵衛もお肉だけじゃなくて、野菜もちゃんと食べて!」
「蜜柑よ、野菜なら最初に食べたぞ?」
「だーめ!!!ちょーーっとしか食べてないの見てたんだからね!桃みたいにちゃんとお行儀よく三角食べしなさいよ」
「ん??桃は体ちっちゃいからね、いっぱいいろんなの食べたいのよね、でも食べるって言えばルシウスの食べっぷりは見ててたまに吐き気するのよさ」
「ああ・・・・あいつらはな」
「もっとだもっと肉持ってきてくれ!」
「俺の分ももっと頼みますわ」
ここはレオニードやルシウスたち大食漢用の鍋席である。
肉鍋用と海鮮用が二つずつ用意された鍋セットは、既に二人だけで10人前以上を食い尽くしていた。
「やっぱり肉には米が欲しくなるな!」
「金槌叩くにも体が資本なんでね、やっぱり米は力になるぜ」
思った以上に鍋料理は好評でラヴィ班の娘たちも士道館の子供たちの面倒を見つつ鍋料理を堪能している。
ようやく・・・・・・ようやく、あの穏やかで優しい日常が戻ってきた、きたのかもしれないと皆が心の奥底で言葉に出さない思いを抱き始めていたのだった。
だが、不穏な影は忍び寄り動き出していた・・・・・・
食後に皆が満足して去っていくなか、自然と食堂の端に集まった者たちがいた。
「お前ら・・・・・口外はしていないだろうな?」
ヴァンが集まった男たちに念のための確認を取るが、皆その表情には緊張が走っていた。
「これ以上・・・・・俺は耐えることはできん」
「俺もだ・・・・・あいつらの無念を思いを果たすために」
ダリオが拳を握り締める。
「落ち着くんだダリオ、クライブも同じ気持ちだった・・・・・・俺には分かる」
「サイグレン・・・・・あんた・・・・・」
「しかし、あいつはこなかったのか?」
ヴァンの問いかけに答えたのはレオニードであった。
「リヨルドさんは・・・・・守るものができたから・・・・」
「いいんだ、ベントもそれを望んでいたよ、あいつの幸せをな」
「・・・・・・・・・だがマグナは、俺と俺たちと同じ思いだよ」
「「「ああ」」」
「でも気になるのは竜胆だ、あいつには話しができなかった」
「ヴァン、今からでも竜胆を・・・・」
「いや、泥をかぶるのは血を流すのは俺たちだけでいい・・・・・だよなみんな」
『おう!』
「待て貴様ら」
「「「「!!!!!」」」」
「お前はルシウス!?」
「何故俺に一声かけなかった?」
「いや、だってあんたは・・・・その」
「ふん・・・・ならこれはいらんのか?」
ルシウスが投げてよこした呪道具に一堂は釘付けになる。
「お、おいその呪道具は!?まさか!!!!!!!」
「声がでかいぞ・・・・・親父の工房から実験に必要だとちょろまかしたのだ、これなら我らの悲願を果たせるのではないかな?」
「!!!」
「同士よ」
「うむ」
「ここに我らの決意は固まった、今夜決行する」
全員がうなづいた。
あの熾烈な戦いを生き残ってきた彼らが今、思いを一つにしようとしている。
「しかし・・・・半兵衛を引き入れることができなかったのは悔やまれるな」
ヴァンの呟きが重くのしかかる。
「俺が仕入れた情報によればな、半兵衛さんは・・・・・その蜜柑さんといい関係になっているらしい」
「「!!!!」」
「あの蜜柑ちゃんが・・・・・・俺密かにかわいいって思ってたんだよな・・・・半兵衛めいつの間に」
「ヴァンは紅葉狙いじゃなかったのか?」
「いや紅葉はもちろん本命だが、蜜柑と花梨も相当かわいいな・・・・・いや花梨が綺麗系で蜜柑はかわいい系だな」
「「「うんうん」」」
「「「「・・・・・・・・・」」」」
「ごほん、そろそろ諜報班から第一報が入るはずだが・・・・」
食堂の隅で固まって話し込んでいる男子を不思議そうに見ながら通り過ぎる女性たちが部屋に帰っていく。
頃合としてそろそろだと話し込んでいたときである。
さっとすれ違った人影からテーブルの上に小さく折りたたまれた紙が置かれている。
「・・・・・みなの者・・・・・・予想より事態が早く動くようだ、我々も動くぞ」
「ダリオ、レオニードとサイグレンはそのまま自然な流れでポイントまで日常会話をしながら歩いてくれ、俺とルシウスとコーネルは食後の運動という名目で庭からポイントまで急ぐ」
「みんな、時は動き出した・・・・・今こそ無念を晴らす時!」
力強く突き出した手に皆が手を重ね、男たちはその思いを一つに・・・・束ねていた。
何食わぬ顔で行動を始めたヴァンたちだったが、ポイントで待機していたソルヴェドが冷や汗を流していた。
「おい・・・・・どうしたんだ?」
「・・・・・まずいぞ・・・・イレギュラーだ、まさかあの人が・・・・・」
「おい、ラルゴ氏族ともあろう者が動揺してどうする?」
「その・・・・・まずい、非常にまずい・・・・発覚したら俺の命は・・・」
「お前な、命などいらぬと言ってたじゃないか」
「聞いて驚くなよ・・・・・最新の情報では、あそこにレシュティア姫とイングリッドが入ったそうだ」
「な!!!なんだと!!」
「おい、ヴァン・・・・・むしろ俺はこれ以上の好機はないと見るが?」
「コーネル!!!お、恐ろしい奴!!」
するとそこにレオニードたちも無事合流を果たしていた。
「どうしたんだ?何やら想定外の事態でも起きたのか?」
「それがだな・・・・・」
「「「!!!!」」」
「だからだ、俺は好機だと言ったのだ」
「今更引く訳にもいかねえでしょうよ」
「コーネルにルシウス・・・・・お前ら・・・」
「覚悟は出来ているさ、そうでなかったらな・・・・この北方大陸から給料4か月分もかけて取り寄せた結界破りを持ってきたりしねえよ」
「「「!!!」」」
「コーネル同士の覚悟・・・・・胸に刻もうではないか」
「うむ・・・・」
「お前ら大事な物を忘れてないか?」
「ダリオ、はっきり言え、時間がないんだ」
「しょうがねえな・・・・これだよ」
ダリオがポケットから取り出したのは、手の平より一回り小さい水晶球のようであったが・・・・
「なんだこれは?」
「コーネル同士なら分かるんじゃないか?」
「まさか・・・・撮影用の呪道具か!!しかも再生機能付!!!」
「し!!声がでかい!!!」
「す、すまん・・・ではこれは俺が責任を持って起動させよう」
「頼むぜ俺たちは呪道具を使えないからな」
「では・・・・・いいかみんな!?」
「「「「「ああ!」」」」」
皆が静かに決意の目を向けた。
覚悟を決めた男の目だと、ヴァンは感動すら覚えている。
「コーネルやってくれ」
「いくぞ・・・・じゃあこの結果を破れば・・・・・まってろマグナ・・・・・ベント・・・・・お前たちの無念は必ず!!」
ギャリン!!!・・・・・・・・
「よし第一結界が解呪できた・・・・もうすぐ音声障壁が解放されるはずだ」
「・・・・・だよね・・・・うん」
「まったくさ、真九郎ったら・・・・・あんたは誰狙いなのよ?」
「ええ、姫様と違って私なんて魅力ないからさ」
「何言ってんの、女の私から見てもイングリッドはものすっごい美人よ、胸も大きいしウエストもきゅってしまってて・・・・何よりお尻の形がさいっこう!」
ごくり・・・・・・・
「おいレオニード!!鼻血!!!」
「うっ!」
レオニードは溢れる鼻血を抑えようと上を向くものの、声に興奮して鼻血の勢いが増し、さらには上を向いたものだから鼻腔から口腔へ流れた血の影響で吐血し、口から血を流すような壮絶な顔になってしまった。
「なにやってんだ!!まだまだこんなもんじゃない・・・・・おい・・・・」
「ああー姫様~イングリッド~」
「夕霧たちもいらっしゃーい」
「ねえ、あんたまた胸が大きくなったんじゃない?」
「姫様たちにはまったく叶いませんよ~」
「でも、やっぱり鬼凛組の女性はみんな体が引き締まっててすごく素敵ね」
「えへへへ」
「あら紫苑」
「姫様ご一緒しても?」
「お風呂でそんな遠慮する必要ないわよ~」
「そうですね、では」
「お邪魔しまーす、あれいっぱいで賑わってますね」
「あらマルティナに紅葉、ナディアもいらっしゃい、これだけいても広いから全然手狭じゃないわね」
「姫様ご一緒失礼しますね」
「わたしに礼儀なんて不要なのよ、みんな戦友じゃないの」
「さっすが姫様~」
・
・
・
ごくり・・・・・・
・
・
・
吐血したかのような鼻血の逆流と興奮で気絶したレオニードが倒れる中・・・・
「既にレオニードの意識は奪われた、残された俺たちがやるしかあるまい・・・・早きこと風の如く!いくぞ視野結界の解除を頼む!!!」
「任せろ・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・ブーーーーーブーーーーーーブーーーーーー!
「な!!!結界破りが効かないだと!??」
「け、警報か!!??ええい、ここまで厳重とは!!みんな逃げるんだ!!!」
「くそう!!ここまで来たのに!!!!すまんマグナ!!撤退だ!!!」
・
・
・
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・
・
「そうね・・・・・・言い残すことはあるかしら?」
「いえ・・・・ごめんなさい」
「そう、じゃあせめて選ばせてあげるね、介錯人は誰がいい?」
「ひいいいいいいいいいい!!!ゆ、許してください!!!本当すいませんでした!!!」
廊下にはす巻きにされた覗き未遂犯たちが転がされていた。
皆、夕霧や紅葉たちにタコ殴りにされたあげてく呻く彼らをす巻きに縛り上げたのだ。
レオニードだけは顔面血塗れの姿を気持ち悪がられ放置されていたが・・・・・
夕霧の手がいつでも抜けるよう一文字天霧に手をかけているあたり、かなり笑えない状況である。
「ねえ、夕霧・・・・・・介錯は切腹のときでしょ?こいつらにそんな名誉ないわよね?」
「そうだった、さすが紫苑!」
「なら問答無用で斬首でいいね、そうしましょう」
「「「賛成!!!」」」
「ちょ、ちょっと待ってくれ頼みますお願いですから!!!!」
「お、俺はヴァンにそそのかされて!!!」
「てめえ!ダリオ裏切ったな!!!」
「じ、事実だろうが!!」
「はぁ・・・・・師匠だったらこう言うわね、武士の風上にもおけないって」
「「「「「「うっ!!!!」」」」」
「何やらおもしろいことをしているようね」
「ナデシコさん!!」
「・・・・・・」
「なるほど・・・・のぞき・・・・ね」
「そうなんですよ、ひどいでしょ!?」
「うん・・・・・でみんなの結論は?」
「「「士道不覚悟で切腹!」」」
「当然でしょ、一国の姫の入浴をのぞこうとしたんだからねぇ?」
「切腹か~」
「ナデシコ姉さん!!まじで反省してるんで、ほんと勘弁してください!!!」
「すいませんでしたあああああ!」
「ごめんなさいいいいいいい!」
「こう言ってるけど、ちょっとかわいそうじゃない?」
「まったくナデシコさんは優しいんだから」
「うーん・・・・・そうね、切腹だとかわいそうさだから、切り落としましょう・・・・・・・・アレを」
「「「「「いやあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」」」」」
「そうですね、それなら許してやってもいいかも」
「紫苑もいいわね?」
「しょうがないなぁ、ねえ花梨、悪いけどハサミ持ってきてもらえる?そうね、大きいやつ できるだけ」
「「「「ぎゃあああああああああああああ!!!!!」」」」
・
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・
「さて、話しの流れは分かったが、夕霧たちもちとやりすぎであったな」
「半兵衛はどっちの味方なのよ!」
「そうよそうよ!」
「いやだってなぁ・・・・さすがに不憫でならぬわ・・・・・・」
「自業自得よ!!!」
「そうよそうよ!!」
「女子は怖いな・・・・・」
『キャン!』
そう震えるような声を出したのは最近半兵衛にまとわり付くように一緒にいる桃色の羽リナだ。
「それであいつらは今どこに・・・・・」
「治療室で手当てを受けてますよ」
「そ、そうか・・・・・まあ紫苑もこれ以上はなし、いいな?」
「はーい」
「では、少し様子を見てくるとしよう・・・・・」
席を立った半兵衛はどうやって声をかけようかと悩みつつ、治療室の戸を開けようとすると中から悶えるような声と泣き叫ぶ声が聞えてきた。
「うおおおおおおおおおおおお!」
「ぐあああああああああああああ!」
「ひいいいいいいいいいいい!」
静かにドアを開けると治療室で手当てを受ける彼らがいた・・・・・
大の男たちが、涙で顔をぐしょぐしょにしながら号泣している。
「その・・・・なんだ・・・・・もう、傷の具合は良いのか?」
「・・・・・・・・」
「しかし本当に切り落とすとは思わなかった・・・・・・アレをな・・・・・・」
うなだれる彼らの頭にはそう・・・・・マゲがなかった。
ナデシコによって切り落とされたのは彼らが大事に手入れしていた、ポニーテール風のおしゃれマゲである。
一部の帝都男子や女子に人気のヘアスタイルで、鬼凛組に憧れる男女の真似事がさらにファッション性を加味して流行していた。
その本家たる彼らがマゲを切り落とされたことで、何か大事な物を失ったような喪失感を味わっているようだ。
「まあ髪はまた伸びるからな、いいじゃないか、本当にアレを切り落とされなくて」
「そんなことあってたまるかあああああ!」
「そうだそうだ!」
「しかし、のぞきはいかんぞ、のぞきは・・・・・・犯罪だぞ」
「うむ・・・・それに関しては反省しているが・・・・・そのだな・・・・・半兵衛も思わぬか?この鬼凛組女性陣の容姿の異様さ!!!いくらなんでも美人やかわいい子がそろいすぎだ!!!」
「たしかに・・・・・ここにしばらく暮らしていると慣れてしまうがな、帝都に赴くとああ鬼凛組は器量良しがそろっておると」
「だろう???しかもあれだ、夕霧とか紫苑とか!なんだよあの胸と整ったぷろぽーしょん!!!」
「ヴァン・・・・お前そんなに饒舌だったのだな」
「まあどちらにせよ、とりなしてくれたのは以外な人物だとだけは言っておくぞ」
「「「「え?」」」」
・・・・数時間前。
「そりゃ本気で切腹させる気なんてないけどさ、悔しいじゃないのぞきなんて!!」
「うん、私も夕霧に賛成するよ!」
夕霧と紅葉の怒りはもっともというのが女子の意見だ。
「あたしはやっぱり許せないね、なんというかさ根性が気に入らない、武士らしくないじゃないか」
「「「「うんうん」」」」
「やっぱ切腹かね?」
女性同士の会話というのはたまに盛り上がって現実を見失うことがよくあるが、今回もそんな流れになりそうな気配を察してナデシコが助け舟を出そうかと思い悩んでいたときだった。
「ふふふふふははははははは!!!」
突然、マルティナは堪えきれずに笑い出していた。
「マルティナどうしたの?」
「ごめん、ごめんなさい、決して馬鹿にしたんじゃないの・・・・・・なんだかさ幸せなことで私たち悩んでるなって思って」
「マルティナ・・・・幸せな悩みってやっぱり馬鹿にしてない?」
つっかかる紫苑にマルティナは毅然と迎え撃った。
「ごめんなさい紫苑さん、やっぱり幸せな悩みだと思う・・・・・ねえ、ちょっと冷静に考えてみて・・・・ヴァンたちってさ、私たちの裸が見たいんだよね?」
「そ、そうじゃないの?」
「ってことは私たちがすごく魅力的だって認めてるようなものじゃない?」
「それは・・・犯罪者のいいわけよ」
「うん、そう思う、いい訳意外の何者でもない・・・・・でもさ、そこにね私たちを傷つけようって意図がね、感じられないのがあいつららしいっていうかね」
「・・・・・・そういえばそうね、ヴァンやダリオって陰湿で陰険だけど、悪人ではないものね」
「紅葉それフォローになってないような・・・・・」
「それにねちょっとだけ思ったの・・・・・ああ、あの以前の穏やかな日々が少しだけ戻ったのかな・・・・・・ヴァンだってみんな辛い思いしてるのにさ、あえて明るく振舞おうとして必死だったのかも、でも私たちを傷つけないようにってね・・・・・ここに来るまでの私たちだったら・・・・・・もう力ずくで」
「マルティナ・・・・・」
「ごめん、のぞきを許すつもりなんてさらさらないんだけどね、ただかわいいなって子供のいたずらに毛が生えた程度のもんかなって気がしたの・・・・・・そこには私たちが大好きな子供がいっぱいって感じに思えてきちゃった」
「うっ・・・・そう言われるとちょっと罪悪感が・・・・」
「あとね、いわゆるソロしか狙ってないのよ、あいつら」
「「「「え?」」」」
「ナデシコさんだって、シルメリアさんだって、シズクちゃんもいないでしょ?ニーサさんもサナちゃんも、あと半兵衛と最近良い感じの蜜柑とか」
「ええええええええ!蜜柑があああ!!???」
「だからさ、あいつらなりに考えてるのよ」
「・・・・・・・・」
「逆にむかついてきた!」
「私も!!!!」
「やっぱ切り落とそう!」
「あはははは、逆効果・・・だったみたいね、ごめんねレオニード、ダリオ」
のぞき、ダメ!絶対!




