33話 レムダ都市長邸殺人事件 中編
本日2話目
3話目は18:00で予約しました。
メイドの声に引き寄せられ、周囲にいた人が集まって来る。
「え…セバスさん?」
都市長の孫のミナト。
「執事長!」
「ひぃ」
執事のトイスとメイドのネイル。
「何だ!いったい何の騒ぎだこれは!」
「セバス殿、これは…死んでいますね。まさかバーンが…?」
警備隊隊長のラルグンドと副隊長のトーマスに警備部隊員が数名。
「分かりません…私が見つけたときには…すでにこの状態で…」
そして第一発見者であるメイドのアマネ。
遅れて、ミュー、プリム、都市長がやってくる。
「セバス…なぜだ。なぜ、こんな…」
都市長はセバスの死体を見ると、その場に膝をついて涙をこぼす。
セバスはこの屋敷の執事長、二人には勇人には知るに及ばない、長い付き合いがあるのだろう。
「ご主人様…これ」
「あぁ…」
勇人はセバスの体温と脈を確認した後、指で血糊を掬い擦る。
「まだ死体はほんのり暖かく、死後硬直も起こっていない…血液の凝固具合から見ても、恐らく犯行時刻は0:00前後、まさに全員がバーンに気を取られている隙に犯行が行われたとみて間違いないでしょう」
ということは、その時間この屋敷は厳重に警備され、外部からの侵入は不可能な状態だった。
セバスさんを殺した人物はこの屋敷にいた人物ということになる。
「この屋敷に住んでいる使用人は離れにいる使用人屋敷に、一部の残っている使用人の方々は、この客室に鍵を閉めて待機していた…それで間違いないですか?」
「あぁ…その通りだ」
勇人の問いに、ラルグンドが頷く。
「ラルグンドさん、今すぐこの屋敷を封鎖後、警備隊の中で一瞬でも単独行動をとり、アリバイがない人がいないかを確認してください。それと、使用人屋敷にも使いを出して全員の所在とアリバイの確認をお願いします」
「っ!わ、分かった…」
ラングルドが部下に手早く指示をし、走らせる。
「ソロモン君…君はこの屋敷の中に、犯人がいると確信しているのか?」
「……えぇ」
「だが、その時間は怪盗バーンもいたのだぞ?犯人を捜すのならば、奴が第一容疑者であることは疑いようもあるまい?」
「いえ、その可能性は低いでしょう」
「…それは、なぜだ?いままで殺しをしていなかったとはいえ、声が初めての殺人だとも限らないのだぞ?奴は犯罪者だ、もしかしたら顔を見られて思わず切りつけた、とも考えられるだろう」
「それはないでしょう」
ラングルドの問いにはっきりと否定する勇人に、ラルグンドと数名が訝しげな視線を向ける。
「まず、この傷口、喉を一撃で鋭く切り裂いています。恐らく声を潰すためでしょうが、切り口から見ても相当に刃物の扱いにたけた人物です。そしてセバスさんは両腕を後ろに回した不自然な状態で横に倒れています。しかも部屋に争った形跡は殆どない。血の散らばり具合から見ても、これは背中から腕を掴み、かつ、声を上げる間もなく喉を切り裂き、意識が途切れた後に地面に倒したということが分かります」
顎に手を当て、まるで探偵の様に語り始める勇人。
「それでは説明になっていない、なぜバーンは犯人ではないと言い切れる?」
警備副隊長のトーマスはまるで理解していない。
これだから脳筋は
「俺は…奴と過去に対峙したことがありますが、奴は刃物の類は一切使えないのですよ。一度ナイフを握ったとこを見たことがありますが…酷い物でした。なにより奴の逃走経路ですが、奴が二階に上がるために使用した部屋はこことは二つほどしか離れていませんが、すぐさま入り口ホールの方向に走り去り、3階へ上って外へ飛び出した所をうちの従者が確認しています。恐らく外に出たところは警備隊の誰かが目撃してるでしょう。先ほども説明した様に、セバスさんは斬られた後に意識を失うまで犯人に拘束されていたんです。少なくとも数分ほどは。すぐさま逃げ去ったバーンにこの犯行は不可能です」
「ぬ…ぬぅ」
「なるほど…」
今度こそラルグンドとトーマスは揃って納得したようだ。
俺が犯人を特定する材料を探して室内を見渡していると、くいくいっと袖を引っ張られる。
「ん?なんだいヴァニラ」
ヴァニラが指さす場所を見る。
「…これは…いや、そうか…」
勇人は周囲を見渡す。
悲しみに打ちひしがれる都市長に付き添うミナトとネイル。
警備隊に慌ただしく指示をだし続けるラルグンド。
こそこそと隅に寄って、何かを話し合っているアマネとトイス。
トーマスは先ほど、外に残した警備隊員に指示を出すために出ていった。
最後にヴァニラを見ると、小さく頷いてくる。
「なら犯人は…」
確かにこの中にいるんだ…。
──1:15
「今回、作戦に参加していた警備隊員は総勢で128名そのうち23:55から0:10までの間に一瞬でもアリバイがなくなった者は10名。だが犯行に必要な時間が数分だと考えるならば警備隊員の中で犯行が行える可能性があった者は二名。警備隊副隊長トーマスと応接室に配置されていた警備隊員タニだ」
128名とか、そんなにいたのか…ってかどこに潜んでいたんだろうか?屋敷内配備が30名ほどだから、外に配置していたのだろうが…
ニーヴァの警備隊の人員は約400人ほどだ。約三分の一をつぎ込んだと考えると、ラルガンドの本気さがうかがえる。
「続いて屋敷の人間についてだが、使用人屋敷の人間でアリバイのない人間はいなかった。その時間は皆で、屋敷の広間に集まってゲームをしていたらしい。…運が良ければ怪盗バーンを一目見れるかもと集まっていたそうだ」
泥棒に人気が集まるのが不本意なのだろう、ラルグンドは眉を顰めて不機嫌そうに語る。
「まぁまぁ、結果的に容疑者が絞られるんですから、よかったじゃないですか」
「…続いて屋敷内に残った人物についてだが。警備隊員以外で屋敷に残った人物は全部で10名、殺されたセバス氏を除くと9名だが、その内、レムダ都市長は君達とずっと一緒に行動していたので君たち同様、犯行は不可能。厨房に残っていた料理人4名はその時間ずっと翌朝の仕込みで作業をしていることが警備の人間によって確認されている。そして残りの4名…個室客室にて待機していた者達、都市長の孫ミナト、セバス殿の直属の部下で執事のトイス、メイドのネイル、同じくメイドで第一発見者であるアマネ。この全員にアリバイがない」
「つまり、アリバイがない人間は全部で6名…その中に」
「いるのか?セバス殿を殺した犯人が…」
「…ラングルドさん、一つ調べてもらいたいことがあります」
──2:00 都市長邸宅-応接広間
「皆さん、このような時にご足労頂き、ありがとうございます」
今この部屋にいるメンバーは、警備隊長ラルグンド、警備副隊長トーマス、警備隊員タニ、他警備隊員4名、都市長レムダ氏、都市長の孫のミナト、執事のトイス、メイドのアマネ、同じくメイドのネイル、それと…あれ?
「…レインは?」
「レイン様でしたら、事件の後、すぐに”興味がないから帰る”と言って帰られました」
…は?あの女、わがままにもほどがあるだろ、空気を読め!
「ソロモン君、こんな夜更けに人を集めて何事かね?それになぜ、このメンバーだけを集めたのは…まさか」
「え?あぁそうですね。レインは…まぁいいでしょう。どうせいても役に立ちませんし…むしろいない方がいい。では、説明をしたいと思いますが…そのためにも、まずは都市長、それに皆さんも、本日はいろいろあって気に病んでいらっしゃるでしょう、皆様の疲れを癒し、落ち着くためにと思い、差し出がましいとも思いましたが、ハーブティーをご用意しましたので、どうぞお召し上がりください。ミルフィ…」
「かしこまりました」
規律正しい礼をした後、ミューがプリムと共に集まった全員にお茶を配り始める。
全員が手にカップを受け取るが、互いの顔を見合わせ、訝しがるばかりで、口に入れようとしないため、まずは勇人が最後のカップを受け取って口に含む。
すると、ミナト、都市長に続いて、トイス、ネイルがカップのハーブティーを口に入れ始める。
「ふむ、いい味と香りだね…確かに心が落ち着くようだ」
「えぇ、それにこの熱過ぎず冷めすぎてもいない、的確な温度、体があたたまります」
「有難うございます。こちらはミルフィの特製なんですよ。気に入っていただけたなら今度また持って来ましょう」
ハーブティーの心落ち着く香りが室内に漂い、場が僅かに和んだ感じがする。
「そんな事より!早く話を始めてほしいのだが…こんな夜更けに人を集めてお茶会などと、冗談が過ぎるのではないか?ソロモン殿。警備隊は今も警備と調査を続行している、遊びに付き合っている暇などない」
トーマスが少し怒気を孕んだ視線を向けながら言ってくる。
「…そうですね。では、話を始めましょうか」
勇人は一口カップを含んだ後ににこやかな笑顔をトーマスに向けた後、全員と向き合い話し始める。
「セバスさんが殺された時間、この屋敷は怪盗バーンの侵入により混乱していました。犯人は予告状によりあらかじめ示唆されていた、その混乱を狙い、セバスさんの控える部屋に侵入…殺害しました。がルグンドさんに調査してもらった結果、怪盗バーン以外の侵入者の形跡はありませんでした。屋敷の内外を128名の警備員が警戒し、絶えず巡回警備される中を、痕跡もなく侵入するのはまず不可能です。犯人が怪盗バーンでない以上、犯人は内部にいるのは間違いないでしょう。そして、その時間に犯行が可能だった人間が6名だけいます」
全員が互いの顔を見渡しあう。
「そう…犯人は!…」
勇人は真剣な表情で全員の顔を見渡し、言葉を溜める。
カツッ
全員が息を飲み見守る中、静かに一歩前に出て、高らかにあげた手を振り下ろす…プリムが。
「こ「この中に、いる」……」
えーーーーーーーー!!プリム、そこ持っていくの!!??
「ムフン!」
勇人が愕然とする中、プリムは鼻から息を吐いて、これい以上にないドヤ顔だった。




