34話 レムダ都市長邸殺人事件 後編
本日三話目です。
勇人です。
拝啓、皆様、如何様ににお過ごしでしょうか?
ここニーヴァはもうすっかり冬間近で、肌寒い日々です。
もうすぐ雪が降るようですよ。
残念ながらクリスマスの文化はないようですが、新年には聖誕際が行われるそうです。
町中がハロウィンばりに仮装し、街中ではパレードも行うそうですよ。
今からとても楽しみですね。
実はもうミルナさんと共謀して、ミューとプリムの衣装は用意してあるんですよ。
ミューにはお色気ムンムンのバニーガールで、プリムはかわいいまんまるハムスターの着ぐるみです。
ノリノリでデザインしてみました。
とても似合うと思うんですが、二人は身に着けてくれるでしょうか?
今から不安でいっぱいです。
もちろん、ミラタマシロと孤児院のみんなにも用意してるんですよ。
とても楽しみですね、まぁタマは普段から耳と尻尾出して、コスプレみたいな風貌ですがね!ハハハ、ハ…ハ?
「ソ…ソロモンさん?」
「御主人様!どうか、立ち上がってください!」
「はっ!え?!あっ、ミナトにミュー」
気が付いた勇人は周囲を見渡す。
いつの間にか部屋の隅で跪き頭を垂れる態勢…orzになっていた。
危ない危ない…あまりのショックに世界を飛び出してしまったようだ
勇人は立ち上がり、何事もなかったように装うが
「ダ、ダイジョウブダヨ」
「いい加減立ち直って下さい!」
まだ声が震えていた。
「ゴホン!大丈夫、問題ないよ。では改めて、犯人は…この「まさか…この中に犯人がいるというのですか?」……」
空気の読めない執事のトイスが声を被せてくる。
やめて俺のHPはもう赤よ…
お前、これからは心の中で馬鹿執事って呼んでやるかんな!
「証拠は…証拠はあるのか?まさか適当な事を言っているわけではないだろうな?」
「ふ、副隊長の言う通りです。目撃者がいない以上、証拠がなくては立件と捕縛は不可能です。自由都市では警備隊であれど、目撃者も証拠もなしに捕縛や起訴は出来ないんですよ?」
警備隊のトーマスとタニが言ってくる。
証拠物件の提出とか、科学調査の不可能なこの世界で、その敷居はものすごく高いと思う、だからこそ問答無用の無法者である冒険者(勇人)が、何度も狩りだされているわけなのだが…。
「証拠…ですか。えぇ、もちろんありますよ。証拠は…今皆さんが持っているカップです」
「なっ、なんだと!まさか貴様、このカップに何か仕込んだのか!?」
「えーーー!そ、そんな、酷過ぎます!いくら外道と名高いソロモン殿でも限度というものがあります!」
トーマスの言葉に馬鹿執事が過剰に反応する。
するかこの馬鹿、お前だけマジで殺すぞ!
「いえいえ、まさか。そのハーブティはミルフィが心尽くして淹れた物です。何の変哲もない、唯のおいしいお茶ですよ」
怒りを何とか抑え、冷静を装うためにもそう言って、もう一度カップを手にして口に含む。
「では…どういうことか、せつめいしてくれるかな?ソロモン君」
少し余裕を見せすぎたのか、都市長までもがしびれを切らしたように話を促してくる。
「えぇ、もちろん。セバスさんの殺害方法は、喉に刃を当て、そのままスーッと引くように斬られて殺されていました。しかも絶命するまで、セバスさんの両手を後ろから掴んで返り血も浴びず、逃げない様に…」
「それがどうした?なぜそれが証拠につながるのだ?」
「つまり、後ろから片手で切り付けているわけですよ。片手で深く喉を切り裂くというのは、これが意外と難しいんですよ。利き手を用いて、力を込めるのはもちろん、暴れるセバスさんを抑えるのも大変だったでしょう。しかも、下ではレインが暴れたせいで屋敷が揺れ、暴れるセバスさんを掴む手にも相当の力が入ったと思います…セバス氏の傷口にはわずかに左側が深くえぐれており、何より掴んだ犯人の手の跡がセバスさんの手首にしっかりついていました、右手でつかんだ後がね。つまり、犯人は左利きの人物…犯人は…」
勇人が一人の人物を見つめて指を差す。
「トーマスさん、あなたです!」
ざわっ
「なっ!」
「その左手で受け取り、握ったカップ。この中で左利きの人物は、あなたしかいないんですよ」
「馬鹿な!こんな事だけで私が犯人だと!ふざけるのもいい加減にしろ!」
トーマスは手に持ったカップを地面に叩き付け、額に青筋を浮かべ、怒声を上げる。
「もちろん、他にもありますよ。応接広間に待機するラルグンドさんから、屋敷警備の統括を任されたあなたは、23:55分…正に、もうすぐ怪盗バーンが侵入してくるかもしれないという時間に同行しているタニさんに、外を守る警備員に異常がないかを確認に行かせ、自分は屋敷を回ると言って別れましたね。ですが、その時間からバーンを追いかけたガルグンドさんと合流するまでの数分間…あなたを見た人物はいないのはなぜでしょうか?」
「警備の穴から侵入されないかを警戒して、空き部屋を中心に回っていたのだ!」
「では、その経路を教えていただけますか?」
「そんなものはっきり覚えているものか!あの時は屋敷にいるものすべてが混乱の渦中にいたのだぞ!」
そうやら自分が疑われることは想定外だったようで、上手い返しもできないようだ。
これなら思ったより、上手くいきそうだ。
「トーマス…」
「隊長、違います!これは陰謀です、私はなにもしていません!こんなものはこじ付けだ!目撃者もいないのに、なぜ左利きだというだけで犯人になるのだ!何より私には、セバス氏を殺す動機も何もないのだぞ!」
なおも言い逃れるトーマス。
「そうですね。…私もそこが一番の疑問でした。だから…最後は、あなたの心に聞いてみようと思います」
勇人が一枚のメダルを取り出してトーマスの前に掲げる。
「!?」
そこに刻まれているのは、黒で造られた、幾つもの繊細な装飾が施された豪華な盾を模した紋章。
「きっと、あなたの目的はこれだったのでしょうね。セバスさんから。アマネさんが預かっていたそうです。自分に何かあったら、これを都市長に渡してくれと…なぜすぐに届けなかったのか…今は分かりませんが、これはあなたのものではないのですか?」
「し、知らん!」
トーマスが僅かに青い顔をしたまま、首を振る。
「そうですか…ではこれは、いらない物ですね」
メダルを高く投げる。
トーマスの口からあっと小さく声が漏れ──勇人は身を低く屈め、腰の剣に手を当てる。
カキンッ!
トーマスと勇人の剣が重なり、メダルは地面に転がる。
「これが証拠ということで……いいでしょうか?トーマスさん」
「………」
トーマスは先ほどまでも十分に鋭い目つきだったが、今は別人の様に静かに狂気と殺意を込めた瞳で、射殺さんとばかりに勇人を睨んでいる。
「トーマス!剣を下ろせ!」
すぐさま、他の人間を後ろ手に庇い、ラルグンドを始めとする警備隊員がトーマスに剣を向ける。
ラルグンドが勇人の説明の間、ずっと黙っていたのは事前に話を聞いていたからである。
何も聞かされていなかったタニだけが、少し動揺しているようで剣を抜いたものの、今もあたふたして挙動不審でいる。
ミューとプリムもすぐさま武器を構えて、他の人間を守るように前に出る。
「…くっふふふ」
「…何がおかしいのですか?」
「背教者共が…わんわん、わんわんと、よくもまぁ吠えるものだと思ってな」
「なら狂信者は、肥えた豚の様に、ぶーぶー、ぶーぶーとでも、鳴けばいいじゃないか」
「…この餓鬼」
トーマスが剣を引き、後方に飛ぶと同時に、右手に滑り込ませた針の様な暗器…千本投げ付ける。
勇人が、寸分たがわず左目に飛び込んできた千本を、左手の指で挟んで受け止める。
「っ!」
着地したトーマスが、今度は足下に隠していた発煙筒を取り出し投げつける。
びっくり箱のような奴だな、こいつ
「ウィンドウォール…からの、チェンジフォーム・コクーン」
風魔法を駆使して発煙筒ごと煙を押し返し、逆にトーマスを包み込む。
「自分で出した煙に巻かれて、呼吸困難で酸素不足にでもなりやがれ!」
しばらく煙で閉じ込めた檻を見つめていたのだが、違和感を感じる。
包み込んだ煙の動きが静かすぎる…中でトーマスが呼吸困難になって暴れているなら、煙は乱れるはずなのだが…。
地面を見渡す。
落ちたはずのメダルが…ない
慌てて術式を解除し、溢れた煙が静かに地面にあふれるが、その先にあるべきはずの人影はない。
「……いない。くそっ!」
やられた!と思った勇人が煙を裂いてその先に駆け出す。
「ご主人様!」
ミューもすぐさま勇人を追いかけるが、廊下に出ると、開いた窓扉がゆらゆらと風になびかれて揺れるだけで、既にトーマスはおろか勇人の姿さえも見えなかった。
勇人が逃げたトーマスを追って、暗闇の町を走る。
目の先にトーマスの姿はなく完全に見唸ってはいるが、その足取りに迷いは見られない。
「無魔法、探査術式展開…シークレーダー!」
最大魔力を使い、魔力追跡の為の術式を町中に広げる。
シークレーダーは特定の魔力を感知する魔法で、プリムがよく使う、魔力を感知する魔法であるサーチレーダーを改良したものだ。
だが、特定魔力を感知するにはその魔力波長を事前に解析する必要があり、あったばかりの人間を追える様な便利なものではない、本来は仲間を探索するための魔法である。
今勇人が追っているのは勇人自身の魔力。
教会の裏の仕事をする様な狂信者ならメダルをそのまま放置するはずもないと、万が一のために、事前にメダルに付与していた勇人自身の魔力を追っているのだ。
シークレーダーに引っかかった魔力は3件、そのうちの二つは工房と勇人の家である。
残りの一つは、既に町の郊外まで進んでいた。
「ちっ」
その場所を見て、思わず舌打ちに力が入る。
勇人はインカムで仲魔に指示をしつつ、その一つを全速力で追いかける。




