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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第三章 勇者と魔王、出会う!?
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22話 ヴォルブルクの休日3

    ・

    ・


 その後、俺達はシアのサングラスと帽子を外し、俺が贔屓にしている服飾店に駆け込んで服を変える。

 ミレイヌさんはシアを見て大喜びだった。


、今だ少し騒がしい中央通りをのんびりと歩く。

 途中、何度も神殿騎士が横を通り過ぎるが、気に留めるものは一人もいない。

 現在のシオンは金髪碧眼、元の色とはかけ離れている。

 その隣を歩く、俺もまた、銀髪に茶色い目と、元からは大分遠ざかっているし服装も髪型も変えている。

 シアがさっきからキョロキョロして、不思議そうに周囲を見渡している。


 さすがにそんなにキョロキョロするのは勘弁してほしいんだがな…。


 「ほら、意外とわからないものだろ?」

 「うん…なんか、不思議…かな? …ふふ、あははは!」


 さっきまで、オロオロしながら歩いていたシアが、急に笑い出した。


 「ん? どうした急に? 馬鹿になったか?」

 「酷い! 馬鹿っていう方が馬鹿なんだよユート君!」

 「子供か!? …で、何で急に笑い出したんだよ?」

 「うん…なんか色々急にありすぎておかしくなって来ちゃったの…かな?! 色々バカバカしくなって来ちゃって」

 

 お前は、どこのアイドルだよ! と、突っ込もうと思ったが、そういえばこいつアイドルだったと思い、踏みとどまる。

 どうもシアといると、周囲がラブコメ臭になってしまう傾向があって困る。

 

 「まぁ、お前、元々馬鹿だもんな」

 「馬鹿っていう方が馬鹿なんだもん! ユート君のばーか!!」

 「だから、子供か!? もう少し捻ろよ!」

 「うー……アホー?」

 「……もういい」

 「なにかな! それ一番傷つくんだけど!」


 もう、完全にさっきまでの出来事は頭から消えているのか、シアは今では最初に会った時のノリに戻っている。

 この状態ならもう大丈夫だろうと思い、そういえば…と、ずっと一つ気になっていたことを聞いてみることにした。


 「そういえば…置手紙には、なんて書いてきたんだ?」

 「え? えー、っと…ね……怒らないなら言うけど?」

 「それは、確実に怒るフラグだから約束はしないし出来ない。…いいからさっさと言え」

 「うー、ユート君が怖い…」



 ”疲れました 捜さないで下さい”



 「アホか!おまえわーー!」

 「アホじゃないもん! 人の事アホっていう人は馬鹿なんだもん!」

 「アホなうえに馬鹿じゃなねぇか! そんな事書かれて探さない奴がいるわけないだろうが! どこの寂しがり屋だ!」

 「だって…黙って居なくなったら…心配するじゃない? だから…ね!」


 可愛らしく首を傾げてウィンクしてくる。

 だが、正直今の心境的にはもはや憎たらしさしか感じない。


 「あう! いたいー、うぅぅ……」


 だから無言で叩いておいた。

 言っとくがチョップなんて優しいものではない。

 今回は拳骨だ。


 「そのくらいは、当然だ」

 「むーーー」


 シアがまた恨みがましくこちらを睨んでいるが、今回の件はすべて自業自得だと判明したのだし、それくらい甘んじて受けてもらいたいものだ。


 「はぁ…」


 思わずため息がこぼれるが、その時、



 「ふふ、ずいぶん楽しそうですね、シオン様。…それとユウト=シノノメ君だったかな?」

 「なっ!?」


 不意に名前を呼ばれ、驚き振り返る。

 

 「あんたは…」

 「リンシャさん!」


 リンシャ、神殿で出会った、光の神殿に仕える巫女の一人。

 メガネをかけた緑髪の知的美人のお姉さんがそこに居た。

 神殿関係者だ…まさか偶然、出会ったわけではないだろう。

 

 しかもこの女、全く躊躇せずに声を掛けて来たな。

 今の俺達は、顔の形をいじってはいないとはいえ、識別する色が違うというのに…。

 まぁ、今から人違いで誤魔化すにしても、顔をはっきり見られ、シアがおもいっきり反応してしまった以上、もはや無駄としか言いようがない。


 「ずいぶん派手に暴れてますね、シオン様。アンジェルが神殿で真っ白になっていましたよ。あぁ、ユウト君、そんなに警戒しなくてもいいよ。今すぐ連れ戻そうと言う訳ではないんだ。アンジェルの思考が停止したところで、神殿騎士達も、一度すべて引き揚げさせている。このまま続けても、町を無用に騒ぎにさせるだけだしね、それはお互いに望むところではない、と思うんだがどうかな?」


 朝に出会った時とはだいぶ印象が違う、前回は神殿で出会ったこともあり、営業用の態度だったとみるべきか、まぁそれはともかく。


 「あんたは随分話せそうだな。さっきから会話が通じない奴が多すぎて、辟易していたんだ…。正直、会話が通じる人間に会えたことが…嬉しくて堪らないよ…」


 俺の瞳に微かに涙が溜まっていく…。

 なんか…だんだん悲しくなってきた。

 今日一日でまともに会話した人間の中で、唯一話が通じそうだったのは目の前のリンシャと神殿騎士Bだけで、シアを含めた他の神殿関係者はおろか、神殿騎士Aなどは会話が一切成立しない。

 正直、疲れ果てていた。

 そんな俺の事情を知らないであろう、リンシャは、苦笑しながら顔を引き攣らせて少し引き気味だ。


 「あぁ…それは、何というか…すまなかったね。うちの神殿に仕える者、特に若い者はシオン様への忠誠心が異常に高くてね…。気持ちが先行し過ぎて、ずいぶん迷惑をかけたかもしれないな」


 小声で、アンジェルの悪癖が伝染してるんじゃないだろうか…、なんて呟いたのが聞こえたが、何のことだかわからない。


 「それにしても、朝あった時とは随分話し方が違うんだね? あの時はかわいらしい少年だと思ったのだが、今は悪戯少年の様な口調だな」

 「それは、お互い様じゃないかな?」

 「ふふ、それもそうだな。 まぁ、それはともかく、少し話をさせてもらいたい。 あぁ、もちろんシオン様も一緒に」


 リンシャがメガネに手を置いてきらりと光らせると、シオンがビクッと竦み上がる。


 「どこか、落ち着いた場所が良いな…。 そうだな、とりあえず君の宿でどうかな? たしか『眠り熊亭』だったかな?」

 「なっ! …何で知っている!?」

 「ん?自覚はないのか? シノノメ=ユウト君。 君は有名人なんだよ、この町に来る前から調査くらいはしているさ。 先日、聖堂教会から選定勇者の打診を受けたという報告も含めて、ね」


 ん? なんか今聞き逃せない情報があったような気がする。 聖堂教会? 選定勇者? なんだそりゃ?


 「はぁ? 選定勇者? すまんが、何のことか、全然わからないんだが…」

 「ん? ふむ…嘘ではなさそうだな、まだ連絡を受けていないのか? まぁいい、そのことも含めて場所を変えようか」

 「あ、あぁ…そうだ、な」


 なんか、流されている…。

 リンシャさん登場からここまで、すべて思い通りに動かされているような違和感がある。

 この人もしかしたら、神殿騎士Aとは違う意味で俺の天敵なのではないだろうか…。


   ・

   ・


 『眠り熊亭』の自分の部屋に戻ると、相変わらずだらけきったプリムとすでに復活していたミューが待っていた。

 ミラとタマの姿はない、きっとまだ遊んでいるのだろう。

 外で幻影を作っているであろうタマはともかく、ミラも最近では夕食の時間までは外で遊んでいるので、もうしばらくは帰ってこないだろう。


 「お帰りなさいませ、ユート…さ、ま……」


 俺の姿を見て、礼をして出迎えるミューだが、後ろから続いて入ってきたシアとリンシャの姿を見て、みるみるうちに表情が固まる。

 ただしその目は鋭いままで、勇人を咎めるような眼差しで睨んでいる。

 背筋に冷たいものを感じた勇人は慌てて首を振って否定するが、ミューの表情は変わらない。


 (誤解だ! ミュー!)

 (何が誤解なのか、わかりかねますね。 私はまだ何も一言も申しておりませんが? えぇ、申しておりません。 なのに魔王様は何を否定しようとしているのですか? 何かやましいことがあるのですか? やましいことがないのなら、堂々としていらっしゃったらよろしいではないですか? この女ったらしが!一体何人増やす気ですか!カス!) 


 言葉には出さないが、今の一瞬で目を合わせて行ったやり取りの内容はこんな感じだろうか。

 実際、言葉に出さないだけあって、ミューの言葉はいつもの1.5倍増しできつい。

 俺は一瞬で打ちのめされ、気づいたら部屋の隅で体育座りをしていた。 


 「ユ、ユート君? いきなり、どうしたのかな?!」


 部屋に戻るなり、綺麗な女の人と一瞬目を合わせたら、即座に部屋の隅で体育座りを始めたのだ。

 シアでなくても頭がおかしくなったのかと心配する。


 「はっ! い、いやなんでもない!なんでもないよ!」


 シアに声を掛けられ、何とか現実に俺の意識が帰ってくる。

 シア慌てていたが、リンシャは何かを悟ったのか、愉快そうに薄く笑っているようだ。


 「あー、えーと…ミューさん?」

 「何でございましょうか? ユート様」


 ミューの表情はまだ硬いままだ。

 眉ひとつ動かさない。


 「えっと、こちらは…シ、オンとリンシャさん。 …勇者と光の神殿の巫女さん」

 「なぁっ!?」


 ミューは驚きのあまり声を上げる。

 驚き過ぎて声が裏返っている。


 最初はなんて説明しようかとも思ったのだが、どうせこの場でうそをついても、後で正直に言うのだ。

 ミューやプリムに隠し事をする、という発想は今の俺にはない。

 だから、最初から正直に素性をばらすことにした。


 「どういうことですか? これは…」


 ミューの声は硬い。

 そりゃそうだ、自分の仕える魔王が、勇者と仕える巫女を客に帰ってきたのだ。

 むしろ、平静を何とか保っているミューを褒めるべきだろう。

 ……部屋のベッドで今だだらけているプリムは例外として。


 「まぁ、町で偶然…出会ってしまいました。 あははははは…」

 「くっ!笑いごとですか! あ な た と い う 人 はーーー!」


 俺が乾いた笑い声を上げると共に、ミューが俺の首襟を掴んで揺さぶってくる。

 さすがにこの状況はミューの許容範囲を超えていたのだろう、絞め殺さんばかりの勢いで締め上げている。

 というか…段々意識が薄れていくのを感じる。


 「あばばばば…」

 「キャーー! ユート君が死んじゃうよーー!」

 「随分、愉快なお仲間さんだねぇ、ぷっくくく」

 「うるさ、い…」

 「もーーー!! 何でこんなことになってるんですか! 黙ってないで何とか言いなさい!」


 室内はもはやカオス、ミューが叫び、シオンは涙目、リンシャは愉快そうに、もう笑い声を隠せていない。

 ミューが尚も叫び続けるも、俺の意識は、今正に天国に旅たとうとしているのだから、収拾がつかない。


 俺は薄れゆく意識の中で思った。

 

 俺、生まれ変わったら──プリムになりたい…



薄れゆく意識の中で、勇人は期せずして神と出会う

神は語る、真実を

今明かされる、召喚に纏わる衝撃的な真実…

その時、勇人が取った行動とは…


次回 23話 神との邂逅 → 「くっ! にがすかーー!」




※勇人君の為に、書いた話です。シナリオに深くかかわることはありません(多分、恐らく)

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