21話 ヴォルブルクの休日2
だが、俺達が逃げ出そうと行動するより早く、周囲を素早く 神殿騎士達が取り囲む。
その顔にはまだ動揺の色が見られるが、それでも迅速に行動できているのは、さすがは騎士と褒めるべきだろう。
「…こんなことをして、ただで済むと思っているのか!? 悪いことは言わない、今ならまだ間に合う…ここは引いてくれないか?」
神殿騎士Bがそんなことを言ってくる。
Aさんと違って話せそうな人だ。
最初からあなたが前に出てきたらよかったのに…。
「まぁぶっちゃけ、引きたいのは山々なんですがね。 一応約束してしまった以上、強引に連れ去られるのを黙って見ているわけにもいかないんですよ…ね」
言いながらシオンの体を両手で抱きかかえる。
いわゆるお姫抱っこだが、その姿に神殿騎士Aの怒りが膨れ上がり
「死ねー!」
処刑宣告を叫びながら剣を振り上げ、襲い掛かる。
が──すでにそこに俺の姿はない。
襲い掛かられる寸前に俺は一気に頭上に飛ぶ。
「いきなり、死刑勧告とか! それでも騎士か!!」
目の前で俺達が消えたことに、神殿騎士たちが驚いたようで、周囲を見渡している。
やがて頭上から聞こえた俺の声に反応して見上げる。
「上だと! いつの間に!? 貴様今何をした!」
「別に…ただ、飛んだだけだけど?」
「なっ…!」
何でもないように俺がカラクリを告げたのだが、何やら余計に驚いて動揺しているようだ。
「まぁ、そういうことで! お嬢様が飽きたら、ちゃんと無事にお返ししますので、ご心配なく」
「なにーー! 貴様ぁぁぁぁ! シオン様に飽きたらお返ししますだとーーー!!!」
「言ってねぇぇぇーー!! お前の耳は蛆が沸いてるのか!? よく聞け!お嬢様、が! だよ! が!」
「許せん! 今すぐ降りて来い! 今すぐ切り捨ててやる!」
「お願いだから…、もう少し人の話を聞いてぇー」
俺の目端に涙が浮かぶ。
もういやこの人、話が通じなさすぎる…
神殿騎士Aと俺が馬鹿なやり取りを続けている隙に、他の神殿騎士が3手に分かれて行動を開始するのが見える。
一人は神殿に報告に、一人は建物の屋根に向かい、一人は神殿騎士Aと共に下で見張るが、最後のはある意味お守ともいえる損な役割だな。
「もう、とにかく俺達逃げるから! もう追ってこないでね!」
神殿騎士Aとのやり取りにかなり疲れて来ていた俺だが、神殿騎士達が行動しだしたのを確認した後、すぐに逃げるべく屋根伝いに飛び越えながら走り始める。
「逃がすわけなかろうが! 地獄の果てまで追っていくぞ! 貴様にシオン様は渡さーん!」
「お前もいい加減、もう少し落ち着けぇー!」
神殿騎士Aに付き添う、外れくじ役の神殿騎士Bも少し疲れているようだ、とうとう同僚の神殿Ani文句を言い始めた。
俺はその姿にわずかに憐れみの目を向けるが、今速度を落とすわけには行かない。
いっそ速度を上げて一気に振り切ろうかとも思うのだが、腕の中で小刻みに震えるシアの姿を見て断念する。
これ以上速度上げたら、多分こいつ失神する…最悪、女として大事なものを失いかねん…
下を見ると神殿AとBが、後ろからは少し遅れて神殿騎士Cがまだ追ってきている。
やがて前方から、更に神殿騎士の一団がッ向かってきているのが見えて、げんなりする。
「御主人、御主人! なんか楽しそうだね! それ何の遊び?」
「タマ! おまっ、何時の間に!?」
ふと呼ばれて横を見ると、いつの間にかタマが並走している。
しかも、ものすごく目をキラキラさせて。狐耳もピクピク動いて楽しそうにしている。
こいつ、絶対遊びかなんかだと勘違いしてやがる!
「ねーねー、なんか楽しそうだよ? 僕も混ぜてよ!」
「いや、これは遊んでるわけじゃな、く……」
あ、いいこと思いついたかも
俺は立ち止まり、前方の神殿騎士の一団を見ながら、悪い笑みで笑う。
「そうだな。 じゃぁタマ、ちょっと遊んでやろうか」
「おお…なんかご主人すごく悪い顔してるね! なんかワクワクしてくるよ、ニシシ」
「ほっとけ! じゃぁタマ……ってな感じで、よろしくな」
「…うん、流石ご主人、性格悪いね!」
「お前…誰に吹き込まれ……いや、後で本人達に聞くからいいや、任せたぞ!」
「ニシシ、おーけー、僕に任せなってね! じゃぁ、いくよ!」
言うと共に、タマの影が膨れ上がり、3人を包み込む──
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「2番街、3番通りにて発見! 現在追跡中です!」
「4番街、1番通りにて発見…木の上に立って…お、お茶を飲んでいます! 現在包囲中!」
「12番街、露店通りにて発見!? あ、いえすみません、微妙に人違いだった模様で…」
「7番街にて!」
「6番街、で……えーー!踊ってる!?」
「現在追跡中! 現在3番街から4番街へと中央通りを通過中です!」
「……」
「もう…一体、どうなってるのよーーーー!」
神殿内一室で報告を受けていたアンジェルは今、次々と矢継ぎ早にもたらされる…あまりに不可解な情報の山に頭を悩ませる。
今回、シオンがいなくなったことに気づいたアンジェルは、すぐに捜索の為に巫女はおろか神殿騎士を駆り出し、一部の神殿騎士には貴重な連絡用の魔道具まで持たせ、随時情報を集めながら指示を出していた。
だが、現在、通信魔道具からは、ほぼ同時に各所から、発見報告が随時もたらされているのだ。
これにはさすがのアンジェルも頭を抱えるしかない。
最初は良かったのよ…まだ最初は…
最初にもたらされた発見報告は、アンジェルにとっては既に最低の状況ではあったが、その時はまだ最悪と呼べるほどの状況ではなかった。
だから、見知らぬ男と共にいるという報告を受けて即座に指示をした。
「構わないので、抵抗するようなら…もぎ取りなさい…」
アンジェルは静かに怒りを込めて、冷静に指示をする。
だが次の報告は取り逃がし、中央通りを民家の屋根を伝いながら逃走中、との事だった。
虫が…生意気にも逃げ回るなんて…どうしてくれましょうか。 そうね…殺すなんて生ぬるい、捕まえて生き地獄を見せてあげましょう…ふふふふふふ
即座に、手の空いているものを集め、確保に向かわせる。
挟み撃ちにして、一気に取り囲んでしまおうとしたのだ。
だが、そこの次にもたらされた報告は驚くべきものだ。
獣人らしき女が合流し、3人になったと思ったら、突然シオン様達を影が包み込んだ。
影が消えたそこには、合流したはずの女の姿はなく、シオン様達が増えたというのだ。
そう…増えたと。
シオン様を抱きかかえる虫《勇人》が二人、別方向に走り出した。
そこからの状況は正に…最悪だ。
各所からもたらされる情報は混乱し、シオン様達の目撃情報は増える一方。
間違いなく、幻影系の魔法の一種だと思われるが、増え続ける偽物の数に判断がつかない。
もはや、捜索する神殿の神官や騎士はおろか、指揮する立場のアンジェルですら言葉をなくしている。
「もー! シオン様はどこなのよーー!?」
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シオンと勇人は今──町の通りを歩いている。
それも真ん中を堂々と。
「はぁ…まったくとんだ目にあったよ」
「えーっと…私には一体全体何がどうなったのか、いまだによくわからないんだけど…説明はしてくれないのかな?」
「ん? まぁ簡単な事なんだがな」
──1時間前
「タマ、だからな、影術で適当に俺達の幻影を作り出して、町の各所に置いてきてくれるだけでいい。 それだけで勝手にあいつらは面白おかしく踊ってくれるからさ」
「えー、そんな簡単にいくのかな? 何個も作るとなると、僕の幻影は薄くなるしb、ったりしたら、それだけで消えちゃうくらい脆いんだよ?」
「大丈夫大丈夫! 出来はそんなに良くなくていいんだ。 ぶっちゃけ、パッと見で疑うくらいの出来でも構わない。 黒髪の男女二人組…とか、な。 とにかく必要なのは数だ。 タマはそれっぽい偶像を、町中にいっぱい配置してくれるだけでいい。 くくくっ、拙い情報伝達に踊らされる人間ってのはな、滑稽なもんだぜ。 きっと、狐に化かされた人間の、面白い絵がみれるぜ、ゲヘヘ」
「うわー、でも面白そう…ワクワクしてくるよ。 ニシシ」
薄ら意識が飛びそうになりながらも、傍で二人のやり取りを聞いていたシオンは既にドン引きである。
「じゃぁ、いくよ!」
狐獣人の女の人の合図とともに黒い影に包まれ、目を閉じる。
次に目を開けると、狐獣人の女の人の姿はなく、シオンの目の前には勇人と、勇人に抱えられた自分がもう一人いた。
「えーーー!」
「よし、じゃぁタマ!またな!」
「おーけー!」
そう言って二人は別方向に別れる。
シオン達は徐々に少なくなる追っ手を振り切り、路地に逃げ込む。
そこで勇人が腕輪をシオンに渡し、着けさせる。
「なにかな? これ」
「幻惑の腕輪と言ってな…まぁ使ってみるのが早い、とりあえず着けてみろよ」
シオンは言われるがまま、綺麗な装飾を施された、銀色のブレスレットを左腕につける。
「そしたら今度は自分の姿を変化させるイメージを持つんだ。 そうだな…とりあえず瞳の色と髪の色、それだけでいい。 どうせあいつらは混乱してるんだ。 まともに人相を見ることもできないだろうさ」
「そんなにうまくいくのかなぁ…」
「大丈夫大丈夫! こういうのは隠れるよりも、堂々としてた方が見つからないものなんだよ…それに」
といって、また勇人は悪い笑みを浮かべて黙る。
その顔と沈黙は不安を誘う、聞かない方が身のためだと思うのだが、そのまま流すことができるほど、シオンは大人ではないのだ。
だからすこし嫌な予感がしたけど聞いてみることにする。
「それに…なにかな?」
「その方が、面白いだろ? 必死に探すやつらを横目に、堂々と遊べるんだぜ!」
「ユート君、正確悪いよ!それには流石にドン引きかも!」
とうとうシオンは心の声を口に出して叫んでしまった。
次回
22話 ヴォルブルクの休日3 → 「ずいぶん楽しそうですね、シオン様」
「ふふ、ずいぶん楽しそうですね、シオン様。 …それとユウト=シノノメ君だったかな?」
「なっ!?」
不意に名前を呼ばれ、驚き振り返る。
「あんたは…」
ラブコメも佳境
人が増えてだいぶ話が騒がしくなって来た。
ゆままゆのキャラは自由すぎる…。




